全国で平成23年までに火災死者数の半減を目標として、平成16年に消防法が改正され住宅火災報知機の設置の義務化がなされました。
県下ではすでに住宅火災警報器(以下、「住警器」と略す。)の設置の義務付け(平成23年6月1日施行の行田市を除く。)がなされています。
埼玉県の住警器の普及率は高いとはいえないと言われています。なぜ住警器の普及がなされないのかの理由について埼玉県の公開資料は見あたりません。しかしながら、平成20年6月からすべての住宅で設置が義務となった千葉県のインターネットアンケート調査資料(平成21年7月16日付)がありますので、紹介します。
住警器の設置義務については76.2%の人が知っており、54.9% がすでに設置しているとのことです。未だ設置していない人の設置していない理由の多くは、取り付けが面倒であるが42.9%、価格が高いが35.7%、そして義務付けを知らなかったが23.8% です。(複数回答)また、住警器の普及のための方策を尋ねたところ、購入費の一部助成制度を設けるが38.8% 自治会等でまとめて購入し単価を安くするが25.2%、テレビラジオでのマスメディアの活用が19.9%ということです。
このアンケート調査結果を見ると、マンションにおける住警器の普及を促進するためのいくつかのヒントがあります。
住警器の取り付けについては簡単に木ねじで天井や壁に取り付ができるように言われています。しかし、戸建て住宅とは違いマンションにおいて素人が作業を行うには多くの困難があります。
マンション住戸内の天井や内壁は多くクロス貼りされています。そのクロス貼りの下はコンクリート、石膏ボードや合板等様々な材料で天井、内壁が作られています。天井に取り付ける場合は、浅木を捜し出すか、石膏ボード、合板などの中空構造ではプラグを入れてから住警器を固定することが必要です。コンクリート内壁の場合もドリルで穴をあけ、コンクリートプラグをいれて固定します。このようにその天井や壁の材料、仕様に合わせた留め具や工具の準備をしなければなりません。
また、専有部分と共用部の境界が壁芯説、内法説そして上塗り説と規約でどう決められているのかによって、釘一本を打つにしても規約を留意することが求められます。壁芯説を採っている場合でも、壁の中心から内側が専有部分とはいえ天井スラブなどの躯体・主要部分に造作する場合は管理組合の承認が必要です。内壁説の場合は壁に囲まれた空間が専有部ですから、住警器の固着工事には管理組合の承認が必要です。
このように住警器の設置は専有部分に関わる問題でありながら共用部分に関わることも多々あります。区分所有者個々が対応し、工事業者に個々に工事を託せば、設置が面倒で費用もかかる等を理由に、普及が進まないことが懸念されます。
しかし普及の困難さはあるものの、管理組合の積極的な関わりにより乗り越えられるのではないでしょうか。管理組合が共同購入や一括工事を手配することで、規約に沿った設置が可能であると思います。 とりわけ火災死者の多くが逃げ遅れであり、高齢者であることから高齢者マンションでは何よりも管理組合のサポートによる住警器工事が必要です。
一般社団法人首都圏マンション管理士会埼玉県支部
副支部長 小林正孝
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