マンションの建築改修設計とは、「管理組合の要望を具体的に表現し設計図書として管理組合、施工者にその意図を表現すること」と言えるでしょう。(新築設計も基本は同じです)
管理組合の要望には意匠性(デザイン、色彩等)、居住性、安全性等の性能要求の他に「低予算」という命題があり、その比重が高いことは言うまでもありません。設計においてはこれらの要望を満たすため、様々な仕様(仕上げ)や工法から最適なものを選び出していかなければなりません。
最適なものと言いましても、良い悪いは「より良い」つまり比較の問題で決めざるを得ません。「より良い」も、たとえば衣類ならデザインは良いが機能性に劣るとか、生地は良いが値段が高い等々と色々な要素がからみあい、何を目的とするかで変化します。建物も同様であり、設計者は管理組合の要望を十分に理解し、工事の内容を良く理解できるような資料を作成し、より良い選択ができるよう提案することが求められます。
マンション改修においても塗装、防水、金物などそれぞれに良い悪いがあります。その要素を①意匠性・居住性、②安全性、③施工性、④保全性(メンテナンスの多寡)、⑤経済性(コスト)、⑥使用実績などに分けてそれぞれを比較し、トータル的に良否を判断することが望まれます。
経済性(コスト)については、その資材の単価のみではなく、限られた予算をどう振り分けるかの判断が必要です。単価は高いが数量が少ないので総予算に余り影響しないとか、安くてもすぐ塗装(メンテナンス)が必要でトータル費用が高くなるとか、そのほかメンテナンスのための仮設足場の必要性、劣化・剥落などによる危険性の高低など状況を判断しながら予算配分する必要があります。
設計者はこれらの要素を踏まえて施工内容を提案して行きます。現状の仕上げ・仕様を踏襲した手間のかからない楽な設計になりがちですが、新しい素材や工法も検討し、その実績を踏まえて、より良いものを決めて行くことが真の設計です。図面や仕様書を作ることが設計ではありません。管理組合も設計者にその検討の内容・資料をきちんと要求し理解するよう努めましょう。
最後に、建築工事費の内訳は「コスト=人件費(手間)+材料費+経費(運賃、交通費、会社費用など)」となります。これらのうち過半を占めるといわれるのが人件費です。
手造りである建築工事でのコストダウンは人件費削減で実現されることが多く、それが安い職人を雇う結果を招いて低技能者による施工、つまり施工品質の低下に繋がって行きます。適正な工事費で高品質を無理なく要求していくことが望まれます。
NPO法人 匠リニューアル技術支援協会
技術者支援部会(一級建築士) 坪子 渡
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