〇長期修繕計画書の見直し
大規模修繕工事は10数年ごとに実施する、管理組合にとって大きなイベントともいうべき業務です。多額の費用を要するだけではなく、緻密な事前計画といろいろな準備が必要となります。
大規模修繕工事を成功に導くには長期修繕計画の数年ごとの見直しと、それに関連する修繕積立金の確保(組合員からの)、そして修繕委員会の設置と運営が重要になってきます。
長期修繕計画書には、「いつごろ」「どこを」「何を使って」「どのように」「いくらくらいで」工事を行うかを示します。その必要金額は区分所有者が納めるべき修繕積立金の根拠となりますから、資金不足にならないようにしっかりとした修繕計画を立て、数年ごとの見直しが求められます。
マンションのスラム化などを防ぐには、新しい居住者に入居してもらうことを念頭に常に居住者の新陳代謝の促進策を重視することが求めらます。自分という一人称だけで考えるのではなく、マンション全体のことを考える姿勢がとても重要になっています。そのように考えることで建物や設備の適時適切な修繕と、時代や居住者ニーズに合った環境改善を行うことが可能となります。
〇遊具の撤去がもたらしたこと
ある団地のことです。築20数年が経ち、初期入居者がおおよそ60歳台に入った頃、自分たちの子どもも一人立ちをして団地を出ていくことが多くなりました。残った親たちは子どもたちが遊んだ遊具で遊んでいる子どもがいないことを目にし、その遊具が邪魔な存在だと思うようになり、遊具を撤去することにしました。
新しい入居候補者が団地を下見しに来るようになったとき、遊ぶスペースはあるけれど、ブランコもすべり台もない団地に興味を抱くことはできず、その団地はしばらくの間、若い夫婦の入居がなかったと言います。自分だけの視点で物事を見ていた結果です。その後、そのことを反省して若い夫婦が魅力を感じる団地に生まれ変わったのは言うまでもありません。
〇居住者の意向調査の実施
長期修繕計画書は、数年ごとに修繕対象や環境改善をすべき点などの把握を行い、工事範囲の新たな見直しを判断します。そのためには、定点的な居住者アンケートなどの実施が欠かせません。団地・マンションが陳腐化しないためにも、居住者の新陳代謝対策としてのアンケート調査は欠かせないのです。
アンケートは居住者の意向調査です。マンション内を広く見ての課題や希望などを記入してもらいます。定点的に実施することで、課題の傾向と対策についての動きを把握することが可能となります。もちろん、追加項目も必要になるかもしれません。
共用部分ですが外部の目が届きにくいベランダなどの不具合も含め、建物等の問題なども把握するようにします。時に、給・排水管の調査なども必要になります。この前提としてアンケートで水漏れ等を聞いておくことも必要なのです。
それらを反映した長期修繕計画書を数年ごとに見直すことで、修繕積立金の不足を回避することもできます。資金不足は大規模修繕工事を躊躇させ、必要な工事を後回しにすることになりかねません。建物や設備等の傷みは早め早めに修繕することで、永く保つことができます。
〇修繕委員会の設置
そのようなことを推進するには、専門チームの存在が欠かせません。それが、大規模修繕委員会です。理事会が委員会を設置し、大規模修繕工事について諮問するわけですが、その内容や委員会設置の正しい理解が必要です。
次に、諮問委員会の委員の資格と諮問期間に見られる課題及び組合員への啓発活動について述べます。
〇理事の兼任もある
一つ目は委員の資格です。理事以外の区分所有者だけを資格者とする管理組合もありますが、委員会は理事会が推進すべき大規模修繕工事について専門性が高いという理由で設置されるものです。とはいえ、理事会が最終的に判断をするわけですから、数名の理事が委員を兼務することは、むしろ歓迎すべきことではないかと考えます。事実、そのようにしている管理組合は多くあります。
〇期間限定よりも常設化が望ましい
二つ目は修繕委員会の設置期間です。大規模修繕工事開始の数年前から工事終了までの一定期間を修繕委員会の設置期間とするという、いわゆるプロジェクト型があります。
一方、大規模修繕工事の重要性を考えて委員会を常設し、課題やあるべき姿を繰り返し考える、いわばPDCAを小さく廻していくことで、工事対象箇所や環境改善計画の精度を上げ、そのための資金計画も併せて明確化するという方法です。常設化している修繕委員会は管理組合の自主性・自立性が高いので、大規模修繕工事自体がスムーズに運ぶ例が見受けられます。
理事のしごとだけでも大変なのに兼務など無理である、という意見も聞きます。確かにそのとおりだと思いますが、自分たちの大事なマンションの維持・保全を、主体である管理組合が、また理事として取り組むことこそが、担うべき業務なのです。
自分たちの財産を積極的に守るためには、管理組合全体、組合員の正しい理解が重要になりますから、頻度を高めた広報を発信による啓発活動が必要です。
組合員の合意形成は大規模修繕工事成功の足がかりであり、そのためには知恵と工夫によって管理組合全体による委員会への眼差しにも変化が起き、大規模修繕工事への参画意識が醸成されていきます。大規模修繕工事に対する合意形成づくりが、委員会の大きな役割であり、大規模修繕工事の成功の大きな要因の一つとも言えます。
〇合意形成に向けた啓発活動
三つ目は組合員への啓発活動です。大規模修繕工事の基本から工事の実施に至る説明等をできる限りていねいに広報をし、時には説明会などを開催します。これは合意形成を図るための大前提です。
そのためには、各委員は正しい知識をインプットする必要があります。知識をどこからインプットするかによって、あるべき姿から離れていくこともありますから、十分に注意することが求められます。
〇大規模修繕委員会の運営細則
委員会は設置したものの、その細則等を設けていない場合を見受けます。大規模修繕工事という極めて誰の目にもわかる結果を残すべき大仕事に対して、委員会自体が、何を決め、何を推進するのか、それらの記録などについての決め事を明らかにしておくことは当然のことです。
諮問する側とそれを受ける側が運営細則などを相互に理解し、それに則って委員会を運営しつつ成果を出すことが、多くの組合員の合意を得るための必須条件です。透明性、公開性など、管理組合の運営では極めて重要なことです。
次に修繕委員会運営細則の一例を示します。
〇〇管理組合 大規模修繕工事専門委員会運営細則
(目的)
第1条 この細則は、さいたまハイツにおける大規模修繕工事の実施に際し、管理規約第〇〇条に基づく理事会の諮問機関として必要な事項を定めることにより、大規模修繕工事を円滑かつ適正に執行することを目的とする。
2 前項の大規模修繕工事とは、建物の全体又は複数の部位並びに給排水管設備及び外構について行う大規模な計画修繕工事を指す。
(名称)
第2条 前条の諮問機関は、さいたまハイツ管理組合大規模修繕工事専門委員会(以下「委員会」という。)と称する。
(委員会の役割)
第3条 委員会は、理事会を補佐するため理事会の諮問機関として大規模修繕工事に関する事項について調査、検討し、答申するものとする。
(委員会の構成)
第4条 委員会は、3名以上~5名以下の人数をもって構成する。(注記:マンション規模によって異なる)
(委員の資格)
第5条 委員会の委員は、修繕専門委員(以下「委員」という。)と称する。
2 理事は委員を兼務することができる。
3 委員は、さいたまハイツに現に居住する組合員から、公募及び組合員からの推薦により理事長が理事会の決議を得て選任する。
(役員)
第6条 委員会に次の役員を置く。
一 委員長 1名
二 副委員長 1名
2 委員長及び副委員長は、委員の互選により選任する。
(委員の任期)
第7条 委員の任期は、第5条第3項の理事長の選任を受けた日から第○条に定める委員会解散の日までとする。
(委員の誠実義務等)
第8条 委員は、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。
以下、タイトルのみを記します。
(委員への報酬等の支払い)
(委員長)
(副委員長)
(委員会の招集)
(委員会の議事)
(諮問内容)
(外部専門家への委託)
(委員会運営費等)
(決定事項の記録)
(委員会の解散)
(附則)
この細則は、令和○年○○月○○日から、効力を発する。
以上
特定非営利活動法人
日本住宅管理組合協議会 埼玉県支部
柿沼 英雄
給排水配管設備を専門にしている仕事柄、日頃、多くのマンションに伺います。僭越ですがその中で、最近、個人的に思ったことをお話しさせて頂きます。 昨年末に、築53年のマンションに伺う機会がありました。マンションの図面を見ながら、建物の中に入った瞬間、1980~1990年頃の自分の仕事の記憶が頭に浮かびました。自分がこのマンションの建築に係ったわけではありません。自分が若い頃に携わった仕事の記憶から、このマンションが作られた時の雰囲気が浮かび上がってくるような気がしたのです。 築50年を超えているマンション-昭和40年前半に建てられたマンションは、当時の建物の「作り手の意識」―建築士の考え方や施工者の技術が反映されています。築40年のマンション、築30年のマンション、築20年のマンションは、それぞれその時代の「作り手の意識」を反映しています。
また、NHK総合テレビ「首都圏ネットワーク」(2018年3月28日放送)では、埼玉県の調査によると、築30年以上のマンションの6割近くが、管理組合が機能せず、必要な修繕などの適切な管理が行われていない、またはその可能性がみられる、との報道がされました。
修繕に関して関心が高まった良い機会なので、高経年マンションでの、適正な修繕費(修繕積立金)の額はどうあるべきか、提案したいと思います。
※・修繕費:建物・設備の現状回復のための費用(ここでは、改修・改良の費用を含む)
・修繕積立金:マンションの大規模修繕のために積み立てるもの
20年ほど前に建築されたマンションで、タイルの浮きが顕著になっています。建築時にコンクリートを型枠に流し込みますが、型枠のコンパネにはコンクリートからコンパネをはがれやすくするために剥離剤を塗布しておきます。これがそもそもの大きな原因です。
剥離剤の上からモルタルを盛り、そこにタイルを貼るのですが、経年とともにモルタルは乾燥し、剥離剤の影響もあり、タイルが浮いてくるのです。これは当然のことながら新築時の施工に問題があり、少し考えれば、この工法では後々問題が起きるであろうことは素人でもわかることです。
タイルが浮いているということは、それが剥離し落下する危険性が高く、たまたまその下を通った居住者等の人命に関わる事態に至ることもあることを想像できないディベロッパーや施工会社はその資格がないと言えます。
さらに、躯体に凹みを意図的につくり、モルタルの密着性を高める「目荒らし」を怠っていることも原因の一つです。
★不適切な設計事務所問題となった要因 先ず「マンションの大規模修繕工事の設計、工事仕様書は誰が作成するか?」が問題となります。マンションの大規模修繕工事に関与する専門家は、マンション管理士・建築士・施工監理技士等です。同工事が公明性、公平性、透明性を保って履行し竣工するには、関係する専門家が相互に監視するシステムを構築しなければ、適正な工事の質向上に寄与することは難しいと思えます。マンションの大規模修繕工事の総括監理者は誰が務めるのでしょうか。マンションの区分所有者で組織された団体の組合員には、「工事の発注等は利益相反等及び適正性を監視する職責があり、そしてこれ等に対して、公明性、公平性、透明性を保持していかなければなりません。」この重責を担う処に、管理組合の役員(理事)の就任を躊躇する要因があるのではないでしょうか?そこの間隙に問題の温床があり、顕在化してきたとも言えます。
マンション長寿命化のために
建替えか長寿命化かといった議論は以前からありましたが、最近の傾向として「ていねいに維持・保全を行えば、長寿命化に耐える。建替えるのは勿体ない」と言った考え方によって、できる限り長寿命化を図るという方針を打ち出している管理組合が増えています。
2012年1月に2011年7月26日の東京メトロ有楽町線平和台駅エレベーター主索(ロープ)破断事故の調査報告が公表されました。(国土交通省社会資本整備審議会昇降機等事故調査部会)
私どものマンションは9階建て112戸です。エレベーターは2基です。待機の篭(かご)は当初から1階と9階です。1階の篭が使用中は9階の篭が1階に降りてきて9階に戻ります。今回組合の修繕委員になったので、待機篭の位置変更を試算してみました。