令和2年6月24日に公布された『マンション管理適正化法及び建替え円滑化法の一部を改正する法律』(以下、「本改正法」という)が令和4年4月1日に施行されることになりました。
昨年のこの「マンション管理コラム」欄で本改正法について1.マンション管理に関する現状と課題、2.マンションの再生に関する現状と課題を述べ、3.マンション管理適正化法の改正概要 4.マンション建替円滑化法(要除却認定の対象拡充)の改正概要 5.マンション建替円滑化法(団地の敷地分割制度の創設)の改正概要を述べました。
今年は続編としてこのうち3.~5.について新旧対照条文を記述しました。
なお、今回、「マンション管理適正化法」改正に伴い、長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメントが令和3年9月に改訂されましたのでその概要を述べ、同じくマンションの修繕積立金に関するガイドラインの見直しがあり、その概要を記述致します。
1.マンション管理適正化法の改正概要 ~続編~
①基本方針・マンション管理適正化指針関係
【改正前】
(マンション管理適正化指針)
第三条 国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るため、管理組合によるマンションの管理の適正化に関する指針(以下「マンション管理適正化指針」という。)を定め、これを公表するものとする。
(新設)
【改正後】
(基本方針)
第三条 国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 マンションの管理の適正化の推進に関する基本的な事項
二 マンションの管理の適正化に関する目標の設定に関する事項
三 管理組合によるマンションの管理の適正化に関する基本的な指針(以下「マンション管理適正化指針」という。)に関する事項
四 マンションがその建設後相当の期間が経過した場合その他の場合において当該マンションの建替えその他の措置が必要なときにおけるマンションの建替えその他の措置に向けたマンションの区分所有者等の合意形成の促進に関する事項(前号に掲げる事項を除く。)
五 マンションの管理の適正化に関する啓発及び知識の普及に関する基本的な事項
六 次条第一項に規定するマンション管理適正化推進計画の策定に関する基本的な事項その他マンションの管理の適正化の推進に関する重要事項
3・4 (略)
②助言、指導等関係
【改正前】
(管理組合等の努力)
第四条 管理組合は、マンション管理適正化指針の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう努めなければならない。
2 (略)
(新設)
【改正後】
(管理組合等の努力)
第五条 管理組合は、マンション管理適正化指針(管理組合がマンション管理適正化推進計画が作成されている都道府県等の区域内にある場合にあっては、マンション管理適正化指針及び都道府県等マンション管理適正化指針。次条において同じ。)の定めるところに留意して、マンションを適正に管理するよう自ら努めるとともに、国及び地方公共団体が講ずるマンションの管理の適正化の推進に関する施策に協力するよう努めなければならない。
2 (略)
(助言、指導等)
第五条の二 都道府県等は、マンション管理適正化指針に即し、管理組合の管理者等(管理者等が置かれていないときは、当該管理組合を構成するマンションの区分所有者等。次項において同じ。)に対し、マンションの管理の適正化を図るために必要な助言及び指導をすることができる。
2 都道府県知事(市又は第百四条の二第一項の規定により同項に規定するマンション管理適正化推進行政事務を処理する町村の区域内にあっては、それぞれの長。以下「都道府県知事等」という。)は、管理組合の運営がマンション管理適正化指針に照らして著しく不適切であることを把握したときは、当該管理組合の管理者等に対し、マンション管理適正化指針に即したマンションの管理を行うよう勧告することができる。
③管理計画認定関係
【改正前】
(新設)
【改正後】
(管理計画の認定)
第五条の三 管理組合の管理者等は、国土交通省令で定めるところにより、当該管理組合によるマンションの管理に関する計画(以下「管理計画」という。)を作成し、マンション管理適正化推進計画を作成した都道府県等の長(以下「計画作成都道府県知事等」という。)の認定を申請することができる。
2 管理計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当該マンションの修繕その他の管理の方法
二 当該マンションの修繕その他の管理に係る資金計画
三 当該マンションの管理組合の運営状況
四 その他国土交通省令で定める事項
(認定基準)
第五条の四 計画作成都道府県知事等は、前条第一項の認定の申請があった場合において、当該申請に係る管理計画が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、その認定をすることができる。
一 マンションの修繕その他の管理の方法が国土交通省令で定める基準に適合するものであること。
二 資金計画がマンションの修繕その他の管理を確実に遂行するため適切なものであること。
三 管理組合の運営状況が国土交通省令で定める基準に適合するものであること。
四 その他マンション管理適正化指針及び都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること。
2.マンション建替円滑化法(除却の必要性に係る認定関係)改正条文
(除却の必要性に係る認定)
第百二条 マンションの管理者等(中略)は、国土交通省令で定めるところにより、建築基準法(中略)に規定する特定行政庁(中略)に対し、当該マンションを除却する必要がある旨の認定を申請することができる。
2 特定行政庁は、前項の規定による申請があった場合において、当該申請に係るマンションが次の各号のいずれかに該当するときは、その旨の認定をするものとする。
一 当該申請に係るマンションが地震に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。(Is値=0.6未満のもの)
以下【新設】条文
二 当該申請に係るマンションが火災に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
三 当該申請に係るマンションが外壁、外装材その他これらに類する建物の部分(中略)が剥離し、落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるとき。
四 当該申請に係るマンションが給水、排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして国土交通省令で定めるものに限る。)の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるとき。
五 当該申請に係るマンションが高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成十八年法律第九十一号)第十四条第五項に規定する建築物移動等円滑化基準に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
3 (略)
特定要除却認定 第102条2項1号~3号 マンション敷地売却事業 団地敷地分割事業
要除却認定 第102条2項1号~5号 容積率特例の対象
3.「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて
◎ 改定の概要
(1)長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメントの主な見直し内容
①望ましい長期修繕の計画期間として、現行のガイドラインでは25年以上としていた既存マンションの長期修繕計画期間を、新築マンションと同様、大規模修繕工事2回を含む30年以上とする。
②大規模修繕工事の修繕周期の目安について、工事事例を踏まえ一定の幅を許容する記載可。
※現行のガイドラインの参考例:外壁塗装の塗替え:12年→12~15年、空調・換気設 備の取替:15年→13~17年など
③社会的な要請を踏まえて、修繕工事を行うにあたっての有効性などを追記。
・マンションの省エネ性能を向上させる改修工事(壁・屋上の外断熱改修工事や窓の断熱改修工事等の有効性
・エレベーターの点検にあたり国交省H28年2月策定「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿って定期的に点検を行うことの重要性
(2)マンションの修繕積立金に関するガイドラインの見直し内容
①修繕積立金額の目安の見直し
適切な長期修繕計画に基づく修繕積立金の事例を踏まえ、目安とする修繕積立金の㎡単価を更新
②修繕積立金の目安に係る計算式の見直し
ガイドラインのターゲットとして、既存マンションも対象に追加し、修繕積立金額の目安に係る計算式を見直し
※既存マンションの長期修繕計画の見直し等に用いられることを想定し、すでに積み立てられた修繕積立金の残高をもとに修繕積立金の目安額を算出する計算式に変更
以上
【参考文献】 以下の情報を引用しました。
①マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関す る法律の一部を改正する法律(令和2年法律第62号)
その他関連する国土交通省報道発表資料
国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)
<NPO法人 埼玉マンション管理支援センター>
この法改正の背景には、滋賀県野洲市の廃墟マンションの問題があると言われています。当該マンションは、築47年、鉄骨3階建て9部屋、約10年前から居住者はおらず外壁が崩れ、がれきが散乱して放置されている状態でした。
近隣住民は、野洲市に当該建物を取り壊して欲しいという要望を出していましたが、市側は、私有の建物であり、建物には区分所有者がいるので、行政は取り壊しに関して関与は出来ないとしていました。しかし、外壁が崩れ、アスベスト建材が露出し、近隣住民に健康被害を及ぼす危険な状態でした。
(2) 建物を調査したところ、吹き付けられた素材から、国の基準値(0.1%)を大きく上回る28.4%のアスベストが検出されました。更に、アスベストの中で発がん性が高いと言われている「クロシドライト」という物質が検出されました。
建物を解体するにも、区分所有者間の協議や費用の問題から取り壊しに数年かかってしまい、合意形成を図るのは難しく、このまま放置すると、アスベストが飛散し続け、近隣住民に肺ガンや中皮腫などの健康被害が出る恐れもありました。そのため、市民の生命、身体を守るという立場の行政側の責任の不作為と言う問題が起こり、結果、行政代執行での取り壊しとなりました。
その費用は、1人1,300万円余りです。市は区分所有者に請求しましたが、全額回収の見込みは立っていません。回収できなかった分は、建築基準法に基づく勧告を放置していた滋賀県にも費用負担する責任があるとして請求することになりました。結局、区分所有者に代位して県が税金を拠出して支払うことになったのです。
(3) ここで、問題になるのは、取り壊し費用を床面積の専有部分の持ち分割合(区分所有法第14条)に応じて既に支払った人と、金銭的な余裕はないとしてその費用を支払わなかった人がいたため、全員に対して回収できないとなると、不公平感は否めません。そして、県行政の責任も問われかねません。
(4) 廃墟マンションに対する行政の対応として「建築基準法に基づく勧告」制度があります。特定行政庁が、建物の所有者に対し、定期的に建物や設備等の状況を一級建築士等の有資格者に調査・検査させて、その結果を報告するように定めた定期報告制度(建築基準法第12条)です。特定行政庁は、その報告により、危険な建物であることが判明した場合、改善を求めますが、改善されない場合には、勧告等をすることになります。
廃墟予備軍マンションは各地に着実に増えています。このまま放っておくと、本事例のようなケースがあちこちで起こり、行政の税金拠出負担も増えるばかりです。これを未然に防止する対策としてマンション管理適正化法を改正し「管理計画認定制度」が創設されたといわれています。
(5) 国による基本方針
国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針を策定しました。
基本方針では、管理組合がマンションを適正に管理するとともに、行政がマンションの管理状況等を踏まえて、管理適正化の推進のための施策を講じることが必要であることが記載されています。
(6) 地方公共団体によるマンション管理適正化の推進
① マンション管理適正化推進計画の策定(任意)
② 必要に応じて管理組合に対する指導・助言の実施
③ 各マンション管理組合が策定した管理計画の認定
(7) 管理組合の行政側の「認定基準」は次のように五項目が国から示されています。
管理組合が留意すべき事項として
① 管理組合の運営
② 管理規約
③ 管理組合の経理
④ 長期修繕計画の作成及び見直し等
⑤ 組合員名簿の備え等
(8) 除却の必要性に関する認定対象
① 現行の耐震性不足に加えて、外壁の剥落等の危険があるマンション、バリアフリー性能が確保されていないマンションを対象
② 団地における敷地分割制度の創設
要除却認定を受けた団地において、敷地共有者の4/5以上の同意によりマンション敷地の分割を可能とする制度を創設したことが主な改正ポイントです。
(9) 任意の管理適正化推進計画
マンション管理適正化推進計画は、マンション管理適正化法において「策定することができる」と規定されています。つまり、計画の策定は義務ではないため、計画を策定するか否かは、地方公共団体の裁量によることになります。
また、推進計画の中で地方公共団体は独自の「マンション管理の適正化に関する指針」を定めることができます。地方公共団体が設けた認定基準等に適合した管理組合は、地方公共団体から「認定」を受けることができます。
(10) 時代の推移
時代とともに、家族を構成する人々のライフスタイルの変化もあり、居住空間の間取りの志向も変化しています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響で、職場への通勤から、自宅におけるリモートでの就業による企業もあり、都会から地方への移住と言う現象も顕著に表れています。
このような環境の中で、マンション専有部分の空室や賃貸率が増加しており、区分所有者が管理組合運営に対して無関心のままではいられない時代となっています。
(11) 区分所有者として、共用部分の維持管理の保持にも責任を持たなくてはなりません(区分所有法第3条)。今回の法改正を受けて、無関心ではいられない時代が到来しました。
分譲マンションの管理組合等にとっては、良質なコミュニティのもと、管理組合等の維持管理をすることが、地方公共団体が設ける「管理計画認定基準」に適合するために必要となります。また、そのことがマンション全体及び各戸の資産価値の向上にも繋がる事になるでしょう。
以上
NPO法人 埼管ネット
参考:国土交通省HP関連 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001350444.pdf
マンションの老朽化等に対応し、マンションの管理の適正化の一層の推進及びマンションの建替え等の
一層の円滑化を図るため、都道府県等によるマンション管理適正化のための計画作成、マンションの除
却の必要性に係る認定対象の拡充、団地型マンションの敷地分割制度の創設等を内容とする「マンション
の管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する
法律」(以下、「本改正法」といいます。)が2020年6月16日衆議院本会議において、全会一致に
より成立し6月24日に公布されました。
1.マンションの管理に関する現状と課題
①区分所有者の高齢化・非居住化、管理組合の担い手不足
⇒高経年マンションにおける区分所有者の高齢化、非居住化(賃貸・空き住戸化)が進行し、管理組合
役員の担い手が不足する。総会の運営や決議が困難になる。大規模修繕工事や建替え等に係る決議が
できない。修繕積立金を確保できず計画修繕が進められない状況です。
②マンションの大規模化等
⇒タワーマンションに象徴されるマンションの大規模化や設備の高度化に伴いマンション管理の専門
化・複雑化が進む。規模が大きくなるほど総会への組合員の出席率が低下し、マンション管理に係
る区分所有者の合意形成の困難さが増大しています。
③既存住宅流通量の増加、管理情報に関する情報不足
⇒既存住宅流通量が拡大する中、(過去30年で1.76倍に)マンションの新規購入者にとっては当該マ
ンションの管理が適正になされているか、今後適正に管理されていくかは重要な情報であるにも拘ら
ず、管理組合の活動や長期修繕計画の内容は外観等から判断できず、管理情報を把握できないまま購
入しているのが現状。管理情報に対するニーズ高まっています。
④適切な長期修繕計画の不足、修繕積立金の不足
⇒マンションの適時適切な維持管理が実施されるためには適切な長期修繕計画の作成、計画的な修繕
積立金の積立が必要となるところ、計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定
している管理組合の割合は約半数に留まり、修繕積立金額が計画積立額に不足している管理組合の割
合が約3分の1となっています。
2.マンションの再生に関する現状と課題
①建替事業における事業採算性の低下
⇒建替え事例の従前従後の利用容積率比率は低下傾向にあり、老朽化したマンションの建替え等におい
ては、区分所有者の経済的負担の増加など事業採算性の低下が見られます。
②新耐震マンションの高経年化
⇒新耐震基準で建築されたマンションで築40年超となるものは2023年末34万戸、2038年末268万
戸と今後高経年ストックが急増する見込みです。新耐震基準への改正から40年を迎え、新耐震基
準マンションの高経年化の再生が課題となります。
③大規模団地型マンションの高経年化
⇒マンションストックのうち、団地型マンションの割合は1/3であり、その8割が3大都市圏に集中
しています。これまでの建替え事例は、小規模の場合が多く(事例全体の8割が100戸以下)、今後
はより大規模な団地型マンションの建替え検討時期に入る。現在建替え検討中の団地の約8割が
200戸以上の大規模団地。入居者が同時期に高齢化することによる合意形成の一層の困難化、団地
型マンション再生手法の多様化へのニーズが予想されます。
3.マンション管理適正化法の改正概要
(1)国によるマンション管理の適正化の推進を図るための基本方針の策定
(公布後2年以内施行)
これまでは、国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るため、「管理組合によるマン
ションの管理の適正化に関する指針」を定めることとされていました。改正法ではこの指針で定める
範囲を拡張し、国土交通大臣が行政の施策等を盛り込んだ総合的な基本方針として「マンションの管
理の適正化の推進を図るための基本的な方針」を法定化しました。
(2)地方公共団体によるマンション管理適正化の推進
※事務主体は市区(市区以外の区域は都道府県)(公布後2年以内施行)
ア)マンション管理適正化推進計画制度(任意)
国の基本方針に基づき、地方公共団体は、管理適正化の推進のための計画を策定する。
※ 管理適正化推進計画の内容
・マンションの管理状況の実態把握方法
・マンションの管理適正化の推進施策 等
イ)管理計画認定制度
計画を定めた地方公共団体は、一定の基準を満たす個々のマンションの管理組合が作成した管理
計画を認定することができる。
※ 認定の際に確認する事項
・修繕その他の管理の方法
・資金計画
・管理組合の運営状況 等
ウ)管理適正化のための助言、指導及び勧告
管理の適正化のために必要に応じて助言及び指導を行い、管理組合の管理・運営が著しく不適切
であることを把握したときは勧告をすることができる。
※ 管理・運営が不適切なマンションの例
・管理組合の実態がない
・管理規約が存在しない
・管理者等が定められていない
・集会(総会)が開催されていない 等
(3)管理組合及び区分所有者等の努力義務(法5条)
管理組合は、これまでもマンション管理適正化指針に留意してマンションを適正に管理するよう
努めるものとされていましたが、本改正法ではこれに加え、「国等のマンションの管理の適正化の推
進のための施策」への協力の努力義務が新たに明記されました。また、区分所有者等も、マンション
の管理に関し管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならないとされています。
4.マンション建替円滑化法(除却の必要性に係る認定対象の拡充)改正概要
(公布後1年6か月以内施行)
改正前の法律(マンション建替円滑化法)のマンション敷地売却制度は耐震性不足マンションを対
象としていますが、新耐震基準に基づき建築されたマンションも令和2年には築40年を迎えるもの
が出てくるなど、今後、高経年化した新耐震マンションは急増すると見込まれることから、耐震性不
足マンション以外にも次の①、②に該当するものを新たに要除却認定の対象とし、マンション敷地売
却制度を利用可能とすることに改正しました。
①外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剥離し、落下することにより周辺に危害を生ず
るおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるマンション
②火災に対する安全性に係る建築基準法またはこれに基づく命令もしくは条例の規定に準ずるもの
として国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるマンション
また、耐震性不足マンションの建替えを円滑化するため、建替え後のマンションについて容積率
の緩和特例を設け、建替えに係る事業採算性の向上や区分所有者の負担軽減を図ってきましたが、
上記の①、②に該当し要除却認定をうけたマンションについてもその対象に加えるとともに次の
③、④に該当するマンションについても新たに要除却認定の対象とし、容積率の緩和特例の対象に
改正しました。
③給水、排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして国土
交通省令で定めるものに限る。)の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそ
れがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるマンション
④高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に規定する建築物移動等円滑化基準に準
ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるマンション
5.マンション建替円滑化法(団地における敷地分割制度の創設)改正概要
(公布後2年以内施行)
住宅団地において、棟や区画ごとのニーズに応じ、一部棟を存置しながらその他の棟の建替え・敷
地売却を行うため、耐震性不足や外壁の剥落等により危害が生ずるおそれのあるマンション等で、要
除却認定を受けたマンションを含む団地において、本来全員合意が必要となる敷地の分割を多数決決
議(5分の4以上)で行えることとしています。
具体的には、マンション建替事業と類似のスキームで、団地の区分所有者による敷地分割決議、敷
地分割組合の設立、団地内の敷地の権利に関する「敷地権利変換計画」の作成等により、敷地分割の
権利変換をおこなう「敷地分割事業」を実施することができることとしています。
終わりに 【適正化法の改正と管理組合の取組】
以上のような適正化法の改正に伴い、管理組合においては、建物の維持管理及び管理組合運営の現
状を確認し、それぞれの状況に応じた対応を検討することが求められます。
ア)現状の把握(気づき診断)
改正法では管理計画認定制度が設けられ、今後改正法の施行に向けて、具体的な管理計画認定の基
準が公表されます。認定を受けられるのは、適正化推進計画を策定している都道府県等に所在するマ
ンションに限定されますが、認定の基準として示される事項は、それぞれのマンションの管理や管理
組合運営の水準を把握するのに重要なポイントとなります。したがって、当該認定基準などを参考に
それぞれの「マンションの管理、管理組合運営の現状把握」を行うことが大切です。
イ)認定基準を満たしている管理組合 ~認定の取得~
現状把握の結果、認定基準を超える水準のマンションは、認定制度が活用できる都道府県等であれ
ば、管理計画を作成し、管理計画を都道府県等の長に認定申請し、認定通知を受けることになります。
認定を取得した場合、適正に管理されたマンションであるとして市場で評価され、区分所有者全体の
管理意識が高く保たれ、その後のマンション管理水準の維持向上がしやすくなるといったメリットが
期待されます。
ウ)認定基準を満たしていない管理組合
現状把握の結果、認定の基準に達していないことが判明したマンションの場合、今後の適正な管理
組合運営の実現と建物等の維持管理について認定の基準で示されいる内容を参考に、マンション管理
の在り方の改善を検討していくことになります。
現在都道府県等は、マンション管理の適正化のための取組として、専門家の派遣やセミナーの開催、
相談窓口の設置等を行っていますが、改正法の施行後は、このような取組が一層活発化になることが
想定されます。このような行政からの支援やマンション管理士等の専門家を活用しながら建物等の資
産価値を保全し、現在及び将来において「管理不全マンション」とならないように対応することが大
切です。
以上
【参考文献】 以下の情報を引用しました。
(公財)マンション管理センター「マンション管理センター通信」2020年10月増刊号
① ~マンション関連法の改正について~ 国交省住宅局市街地建築課マンション政策室
② マンション管理適正化法及び建替え等円滑化法の改正と今後の取組
佐藤貴美法律事務所 弁護士 佐藤 貴美
<NPO法人 埼玉マンション管理支援センター>
先日、マンション支援ネットワークの会合において、選定基準について考えを述べた。
その際、選定基準に大事な項目が抜けているのを教えられた。
それは、『美的感覚』であり、人々を感動させるものを生み出す力である。
往往にして選定者は、技術的、経済的、機能的等を重視し、そのセンスを忘れがちである。
周囲の環境に合わせ、ちょっとした色彩に配慮し、価値あるものとして捉える事が出来るものを目指す。
『お、いいね』と言えるものを作る。このような会社をどうやって選ぶのか。
契約内容や資料及び図面等を見せられても、工事の内容や、出来上がりを想像することができない。
やはり、当該会社が実際に設計監理した物件を見学すべきであろう。
工事済みの物件を見学し、話を聞くことで、管理組合の満足度がわかるはずであり、その時の劣化状況、保証期間内の点検及び再故障への対応等、その会社への信頼度がわかる。
下記にチェックすべき項目を記載したが、改修が終了した物件を見て『いいね!』と感じ、『10年近く経過しているのに問題ない』と思えることが必要だと考えます。
【設計監理コンサルタントの選定チェック項目】
1 調査・診断・設計・監理を外注せずに統括して、専任可能な会社社員である。
2 仕様書に施工品質管理基準を明確に記載し、工事監理時に厳正な検査を実施している会社
(材料使用料、膜厚検査、工程検査等)
3 コンプライアンスを重視している会社。
4 マンション寿命までの長期修繕計画を立案可能である。
5 大規模修繕工事コンサルタント業務を2回以上経験している。
6 大規模修繕工事を15年以上の周期で設定している。
7 同一管理組合からのリピート依頼が多く、管理組合から信頼されている。
8 大規模修繕工事実施後10年経過物件を見学する。
NPO法人匠リニューアル技術支援協会
県や市町村における「分譲マンションの管理状況届け出制度」の創設と
新規マンションには「分譲マンション管理監査確認制度」はどうでしょうか?
ご承知のように、先の国交省によるH25年度マンション総合調査結果によれば、住形態としてのマンション居住はさらに増え続けており、居住者の「永住志向」も50%を超えてきています。マンションを「終の棲家」とする人々が増えています。そのマンションで建物の高経年と居住者の高齢化という「二つの老い」が進む中、マンション管理組合とその居住者は、様々な課題を抱え、「待ったなし」「放って置けない」管理状況にあるマンションも増えています。
分譲マンションでは、一度火災や爆発などの事故が発生すると、被害はその住戸だけではなく他の住戸や共用部分にまで広がり現状復帰に多額の費用を要します。
平成23年7月24日、地上アナログ放送とBSアナログ放送が終了し、すべてのテレビ放送は完全にデジタル放送に移行しました。(宮城、岩手、福島は平成24年3月末)
マンションでは、その時々で様々な問題が発生します。通常マンション内で起きる問題に対処するのは、総会で選出された理事会の役員になるでしょう。
私が所属する社団法人埼玉建築士会では、経験豊かな建築士が建築に関する問題にお答えする無料相談会、「住まいの安全・安心総点検」を実施しています。建物の耐震性やバリアフリー、リフォーム、契約トラブルや欠陥住宅問題など、様々な相談が寄せられています。この中から、最近あったマンション居住者の方からの相談とアドバイスの内容についてご報告させていただきます。