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マンション問題研究室

 マンション問題について、様々な見方から切り込んでいます。解決方法は複数あることがわかります。
 内容には、執筆時の法令や情報に基づいたものが含まれている可能性がありますので、あらかじめ御了承ください。 
 掲載されている本文及び資料は各会員団体が作成したものですので、詳細については各会員団体に直接お問合せください。

 

 投稿日時: 2021-12-14 (183 ヒット)
【設問】
 向こう30年以内に70~80%でマグニチュード7クラスの首都直下型地震が起こる可能性があると報道されています。また、近年の地球温暖化現象により、集中豪雨や強風を伴う大型台風の日本上陸が増えています。
このような中、どのように風水害対策を講じればよいか。

【回答団体】
・NPO埼管ネット
・NPO日本住宅管理組合連合会

【NPO埼管ネットの回答】
近年、地球温暖化現象により、強風の伴う集中豪雨が多く発生しています。2019年に発生した台風19号は関東にも大きな風水害被害を残しました。増水した多摩川の泥水が下水道管を逆流し、武蔵小杉駅周辺を水浸しにした事例があります。
 タワーマンションも電気設備がある地下3階が浸水。真下の地下4階にゲリラ豪雨に備
えた雨水貯留槽があり、建物周辺の雨水升を通じて大量の水が流入し、下水道に排出するポンプの能力を超え、地下3階に水があふれました。
 原因は近くの多摩川につながる排水管が、多摩川の水位が上がり、逆流したためとされ
ています。住民には予想もできない事態でした。
 超高層マンションにとって水害は無縁とみられていましたが浸水被害を教訓として、「浸水対策」のガイドラインが2020年6月に国土交通省と経済産業省から発行されました。
マンションの風水害対策については、未知な点も多いとされ、管理組合も不安を抱えています。これまで、地震、火災対策については防火訓練等で一定の成果を得ましたが、水害対策は盲点でした。
〇 風水害時、専有部分居住者の取り組み対策
1 TV・ラジオ・インターネット情報からの天気予報の把握
2 停電・断水への備え、飲料水・食料品の確保
3 情報機器の充電、バッテリーの確保
4 ハザードマップの確認
5 避難場所の見きわめ
6 ベランダ・バルコニーの置物は屋内へ
7 飛来物による窓の破損防止
8 窓サッシからの吹き込みを防ぐ
〇 管理組合の応急対策
1 「土のう」「止水板」の用意
2 管理委託契約「24時間監視」の確認
3 風水害保険への加入の確認
4 地下ピット駐車場のある場合車を地上へ
〇 分譲マンション総合保険の保険金請求の適用可能か。申請するためにも、被害に遭った部分の写真撮影は必ず行ってください。被害箇所1か所に付き、角度を変え4~5 枚、遠近それぞれ4~5枚撮影しておき、後日の証に備えて下さい。
1 地震対策
 2011年(平成23年)3月11日に宮城県北部で発生した我が国観測史上最大となる東日本大震災はマグニチュード9、震度7が観測され、埼玉県内においても幅広い市、町の地域で震度5を記録しました。いざと言うときの防災対策に努め、慌てずに減災に努めて下さい。
 緊急地震速報の活用、テレビ・ラジオ等の放送波、携帯電話(スマートフォンを含む。)による一斉同報機能(緊急速報メール/エリアメール)により、震度5以上の地震が来ることを予想反映した緊急地震速報が報知されます。家にいるときはとにかく自分の身を守ることを優先する必要があります。
 長周期地震動による被害は、高層階になるほど大きくなる傾向にあります。マンション上層階の揺れは、地上で感じる揺れの2〜3倍以上となることもあります。室内が大きく揺れることで転倒したり、家具が激しく倒れたりする被害が予想されます。
□ 自主防災組織の結成(消防計画による自衛消防隊を準用。)
管理組合内で、防災委員会を組成し、各担当を選任し共助による活動
□ 消防法による、防災訓練の実施、防火訓練と合わせて、防災訓練も一緒に実施すれば効果的
□ 管理会計に災害緊急時対策費用を予算化、年度予算に組み入れる。
□ 備蓄品(道具・備品・非常食類等)の購入、管理
□ 災害時要援護者の把握、高年齢特に独居老人の方への配慮
□ 緊急時の連絡先の確認、親戚、縁者の方の登録依頼、(個人情報保護法に留意。)
□ 広域支援体制の利用(外国人居住者への配慮。)
□ 住居を記した防災用名簿の作成(外部、第三者への情報漏洩は絶対に避ける。)
□ 居住者の安否確認体制の整備
□ 災害発生時における被害状況・復旧見通しに関する情報の収集・提供体制の整備
□ 災害時の避難場所の周知
□ 災害対応マニュアルの作成・配付
2 マンションにおける防火管理者の設置
 マンションは、「非特定防火対象物」に該当し、全体の収容人員50人以上の建物において防火管理者の選任が必要(消防法施行令別表第1(5)項)です。ここで、注意しなければならないのは、収容人員とは、マンションの戸数ではなく、マンションに常時居住している方の人数としますが、実際には、実態把握が困難なため、部屋の間取りによって1 戸あたりの算定居住者数で計算収容人員を計算します。
1K ・ 1DK ・ 1LDK ・ 2DK 2人
2LDK ・ 3DK 3人
3LDK ・ 4DK 4人
4LDK ・ 5DK 5人
となります。
1 棟に 2LDK が5 戸、3LDK が10 戸の場合
3 人×5 戸+4 人×10 戸=55人となり防火管理者の選任が必要となります。
〇災害想定に基づいた消防計画
消防法第8 条により共同住宅における共有部の管理について権原を有する者(管理権原者=理事長 )は、火災、地震等から自分達の共同住宅を守るために、 防火管理者を定めて、消防計画を作成させ、自衛消防組織を設置し、防火管理業務を行わなければなりません。
また、マンションなどの共同住宅には防災管理者の選任は義務付けられてはおりませんが、地震災害などに対応した防災体制の整備が大切です。
 防火訓練に準じて自衛消防組織を有効に活用し、マンション住民のマンパワーを生かして、実体のある防災管理体制を構築することが大切です。消防(防災)訓練を未実施のマンションでは、防災訓練も併せて計画を立てて、しっかりとした定期的な訓練を行うようにして下さい。
以上__

【NPO日本住宅管理組合連合会の回答】
国の中央防災会議における防災対策実行会議では、さまざまな検討結果を踏まえ、これまで首都直下地震対策の対象としてこなかった相模トラフ沿いの大規模地震も含め、様々な地震を検討対象としており、これまでの被害想定のように単に人的・物的被害等の定量的な想定をするだけでなく、防災減災対策の検討に活かすことに主眼を置き、それぞれの被害が発生した場合の被災地の状況について、時間経過を踏まえ、相互に関連して発生しうる事象に関して、対策実施の困難性も含めて、より現実的な想定を行いました。
防災・減災対策の対象とする地震は、首都中枢機能への影響が大きいと考えられる都心南部直下地震(Mw7.3)を防災対策の主眼としています。それに伴って埼玉県や県内の地方自治体も対策を進めています。
この地震による埼玉県における東部全域で震度6強〜6弱と、強い揺れが想定されており、人的被害や物的被害も多大であるとしています。

これらの直下地震は、いつ起きてもおかしくない状態にあるとの認識が必要です。自分が居るところに地震は来ないと思ってしまう「恒常性バイアス」は、楽観的になれますが、いざ大きな揺れが起きたときの対応はむずかしく、身の安全を確保することに影響を与えかねません。今のうちに減災と身を守ることについて考え、対策を立てておくことが必要です。

マンションでは大きな揺れにともなって、共用部分の脆弱な箇所がないかを、専門家と共に建物等を点検し、安全性を考慮することが求められ、場合によっては修繕や改修を行う必要があります。耐震についても確認しておき、安心できるマンションにしておくことがまずは大切です。耐震性については新耐震の建物であるか否ですが、旧耐震の場合、耐震診断について理事会等で検討することも必要になります。
ただし旧耐震でも、旧公団の5階建ての壁式構造の建物は、構造上地震に強いとされています。もちろん、絶対はありません。ピロティーや壁式ではない建物が混在している団地もあるので、確認することをお勧めします。
建物以外の問題として、熊本地震では液状化によって集合住宅が傾いた例がありました。

東日本大地震の事例
新耐震の建物でも、震度6強程度になると壁にひび割れ等が発生することが、東日本大震災や熊本地震で明らかになっています。つまり、大きな地震の場合、建物は無傷ではないということです。
外壁がタイルの場合、大きな揺れによって剥落して落下することも考えられます。下に居る人への被害の恐れがあるので、落下するような造作物がないかも確認しておきたいところです。
東日本大地震の時、仙台市にあるマンションでは、屋上の受水槽の大量の水が一気に落下したのですが、その様子が防犯カメラに映っていました。幸い、そこに人がいませんでした。そのマンションには集会所がなく、1階の狭いホールを最前基地とし、理事長が先頭に立って居住者の安否確認等を行いました。また、居住者に呼びかけ、余っている懐中電灯や水、食べ物、暖房器具などを基地に運んでもらい、必要な人には取りに来てもらいました。
一番困ったのはトイレと寒さだったと、当時の理事長は語っています。つまり、トイレに困ると水分を制限し脱水症になるなど、体調を壊すことにつながります。これらは、東日本大地震の多くのマンション等で発生ました。
トイレが使えなくなったのは、雑排水が破損したりつなぎ目がずれるなどして使えなくなったことと、水道も出なくなっていたことにあります。
理事長によると、「エレベータが使えない10階建てのマンションの上階から、水などをまとめて大きなバッグに入れて運ぼうとしたが、途中で足も手も動かなくなった」「家に戻り、小さなバッグを持ち出し、水などを少なめにして運んだ」とのことでした。日頃はエレベーターを利用しているので、非常階段を使ったこともなかったことを反省していました。高齢者は階段を降りることもできないので、水や食料を運び、頻繁に健康状態などを確認するために訪問したそうです。
防災訓練は行っていたのですが、「非常階段を含め、ありきたりの訓練に終わっていた」と理事長は述べていますが、車での出勤途中に大きな揺れに襲われた彼は、会社に行くことなくすぐにマンションに引き返し、その被害状況などの把握に努めたのです。それを可能にしたのは、「出勤していた管理員が、指示にしたがい適切に行動してくれ、また、それ以上にアドバイスもくれた」と、優れた管理員さんに感謝しています。

これらの教訓から得られるのは、地震だけではなく風水等による災害に対しても言えますが、共用部分の対策と専有部分の対策、物心両面の準備です。それには災害の想定とそれに伴う被害想定を見積もっておくことが重要になります。
 非常用食料・飲料やトイレ、女性の生理用品、赤ちゃんのミルクやオムツなどの備蓄、風呂の水の貯め置きなど、家具転倒対策を含め、自分で取り組むことも多いと言えます。

タイムラインを作成し、いざという時にそれに沿って行動できるようにしておきます。タイムラインは地震や河川の氾濫、強風などの発生後、いつ、誰が、何をおこなうかを明示し、災害を最小にし、身を守ることを主眼にしています。管理組合(自治会)のタイムライン(共助)と各々の住戸単位(自助)で作成するマイタイムラインを作成します。
タイムラインは、できればからだに覚えさせておくこと。そして玄関先やバッグの中に入れておき、いつでも確認できるようにしておきます。時々見直して、書き直すなどします。
管理組合においては理事、災害担当理事や委員会を設置し、連携するようにしたタイムラインが欠かせません。昼間は働いていてマンションには居ない理事等もいるので、それらも勘案して作成しなければなりません。
タイムラインは作成のプロセスが大切で、関係者が集まって行うワークショップスタイルが望ましいようです。マンションの立地を確認しつつ、地震や河川の氾濫等による浸水被害、強風等の被害想定を、みんなで考えながら作成します。管理組合のタイムラインはみんなで共有し、時々見直して修正を加えることも必要です。作成して終わり、では意味がなく、浸水しそうな場所や土砂崩れしそうな場所を訪れることなど、事前に十分に確認しておくことが大切です。
地方自治体が作成・公表しているハザードマップは、マンション周辺の内水被害や土砂災害などを知ることができる価値ある資料です。

専有部分の家具等の転倒対策
 震度6強以上(場合によってはそれ以下でも)になると、家具、冷蔵庫などの転倒、テレビなどが飛ぶなど、それらが凶器になることが、過去の大震災でわかっています。阪神淡路大震災では、死亡原因の8割が家具や倒壊した家の下敷きによります。
 これは直下型地震であったことが大きな要因ですが、家具を固定していれば、と考えさせられます。また、一部木造住宅の耐震性能の脆弱さも明らかになりました。直下型でなくても強い揺れによって家具などの転倒はあり得るので、日頃の備えが不可避と言えます。
 家具を壁に固定にする場合、管理組合は一定の仕様等を決め、それを居住者に守ってもらうことが必要になると考えられます。やたらに壁に穴を開けたりすることは、避けなければなりません。
 いずれにしても家具の固定は必須ですが、信頼できる方法によって行う必要があります。
家具の転倒対策をしている住戸も多くないという調査もあります。
  東京消防庁が東日本大震災時の東京都民の対策を聞いたアンケートでは、家具転倒対策を実施した理由で、最も多い回答は「自分や家族を守るため」であり、次いで多い回答が「簡単にできるから」です。家具転対策の普及には、自助意識を家族で話し合っておくことが重要になっています。
地震になってから考えるのではなく、震前、震中、震後についてしっかりと準備が大切になっています。

急速に発達した積乱雲の影響による強風にも注意が必要です。2019年の台風15号の接近や強風でベランダに置いてあった植木鉢などが飛び、窓ガラスや戸境壁を破ったという報告が、千葉県のいくつかのマンションで確認されています。「今までの台風ではそのようなことはなかったので、大丈夫だと思った」と、管理組合関係者や管理会社は話しています。
それらの管理組合は、損害保険がもらえたので一安心ということで、被害が忘れ去られようとしています。減災のためには自らの被害はもとより、他の管理組合などの被害をも教訓にして、それを生かして対策を立てておくことが大切です。
河川の氾濫にも、十分に注意したいものです。

これらは今まで経験したことのないことばかりですが、今後も想定を超える災害が起こることを考えた対策が求められています。管理組合で取り組むべきこと、居住者が準備しておくことなどを整理して、タイムライン作成から取り組みましょう。

 投稿日時: 2020-10-20 (626 ヒット)
【設問】
 大規模修繕工事を控え、設計監理方式で実施することがよいことがわかってきましたが、設計監理コンサルタントをどのように選定すべきかがわかりません。選定基準等についてお教えください。

【回答団体】
 ・NPO日本住宅管理組合連合会
 ・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
 ・NPO匠リニューアル技術支援協会

【NPO日本住宅管理組合連合会の回答】
 大規模修繕工事は管理組合とって、準備も費用も桁外れで、そのお金を目指して企業などが集まります。中には不適切なことを行う人々もいるので、十分注意をしながらコンサルタントを選定しなければなりません。
 そのためにも、中心となる考え方を述べながら選定についての考え方を示します。

1.大規模修繕工事とは
 主として「共用部分について健全な維持保全の達成を目的とし、一定の周期で全体的に行う計画修繕」を大規模修繕工事といいます。
  
2.長期修繕計画とは
 大規模修繕工事を行うには、「いつごろ(修繕時期)」「どこを(修繕項目)」「どのように(修繕工法)」「いくらぐらい(修繕費用)」で修繕をするのか、25〜30年程度先を予測して、あらかじめ長期修繕計画を策定することが不可欠で、主に共用部分の各部位ごとに示し、見やすく一覧表にするのが一般的です。

*修繕積立金の根拠
 長期修繕計画は計画修繕工事などに使うだけではなく、修繕積立金の根拠でもあるのです。
 その計画が団地やマンションのビジョン等と合致しているかなど、数年ごとに見直すことが不可欠で、それによって修繕積立金が適正なのかを判断することになります。

3.設計監理方式と責任施工方式
 大規模修繕工事を実施するには、工事範囲を決めることやその部分の調査・診断が不可欠です。その上で、長期修繕計画書は、「いつごろ(修繕時期)」「どこを(修繕項目)」「どのように(修繕工法)」「いくらぐらい(修繕費用)」で修繕するのかを設計し、工事の実施に必要な図面や共通仕様書などを作成します。
 仕様書は一定程度絶対的なもので、いわば憲法のような位置付けとも言えます。
 ただし、足場を掛けてから外壁の状態が明らかになるなど、調査診断のときにはわからないこともあり、それを確認してから「どのように」修繕をするのかを決めていくこともあります。

 仕様設計はマンションの大規模修繕工事の改修を重ねたプロフェッショナルが行う、非常に熟練を要するものです。管理組合はそのことを念頭に仕様設計を手掛けられるプロフェッショナルいわゆる設計コンサルタントを選定する必要があります。
 大規模修繕工事工は、仕様書を基に工事を進めますが、それに沿って工事が進められているかを確認することが必要になります。それを工事監理といいます。
 仕様は、一定の理由があってつくった原則ですから、そのとおりに施工することが求められます。仕様書にプロットした製品等が廃番になったとか、同額でそれ以上の製品が出たので変更をするといった場合を除き、仕様変更は認められません。

 大規模修繕工事は現在、大きく2つの方式に分けられます。
 設計を、どのような立ち位置の人や会社が行うのかは、極めて重要なことです。

(1)責任施工方式(設計責任方式)
 「設計」と「施工」を一つの会社で行う方式を責任施工方式といいます。
よくある誤解は、設計監理方式より「設計」の費用がかからないので、その分安くなるというものですが、前述のとおり、大規模修繕工事を実施するには「設計」は不可欠ですから、「設計」しないということはあり得ません。
設計費用を安く見せるために、その分を施工費用に乗せていることはよくあり、そのような操作をし、あたかも設計監理方式より安いように見せている例が見られます。

 責任施工方式の場合、そもそも仕様書が明示されないままでの施工業者選定になりがちです。数社から見積もりが出されても、そもそも施工の範囲やその方法を明らかにする仕様がバラバラなので比較することはできませんから、金額を見て選ぶこともできません。
 施工会社が「設計」も「施工」も行うので、「設計」どおりに「施工」を実施したのかのチェックは曖昧になり、品質面でも不安が残りがちです。

 責任施工方式を選択する場合の最大のポイントは、よほど信頼を寄せられる施工会社であることはもちろんですが、前述のように、他社との比較検討をしないので競争原理が働かず、費用面で高止まりするなどを是認することが前提となります。
 大規模修繕工事をすすめる上で不可欠なのは、組合員への透明度の高い民主的運営が求められます。それがあって組合員の真の合意形成が得られますから、責任施工方式の場合は、とくに説明できるようにしなければなりません。 

 ただし、極めて特殊な施工の場合、ある施工会社がそれを得意としている場合などは、特命して発注することはあり得ますが、改修工事の場合はあまりありません。

(2)設計監理方式
 「設計」と「施工」を分離し、工事の監理も第三者(多くの場合、設計をした者)が行うので、透明性が担保されやすく、設計の意図が反映され、施工でのごまかしが避けられます。
 仕様書とは異なる品質の部材を使用したり、指定されている工法とは違う方法で施工することも問題であり、さらに、いわゆる手抜き工事などがあってはなりません。
そこで、大規模修繕工事では、工事中に仕様書どおり施工しているかを確認し、場合によっては是正などを求める立場の「工事監理者」を置きます。これは仕様設計した同一の技術者が行う場合が多く、施工会社との利害のない、第三者的な立場で工事監理を行います。

 よくある誤解は、「設計監理方式は設計を行うので、その部分の費用が余計にかかってしまう」ということです。先ほど述べたとおり、工事を行うにはどのような方式であっても「設計」は不可欠であり、それ無くしては工事を行うことは不可能です。
 いわば、地図をもたずに、あるいは、ナビゲーターがないまま、まったく知らない町のあるところを探すようなもので、それは探検的であり、遊びの要素もあって面白いとは思いますが、大規模修繕工事を進めるためには不可能です。
 大規模修繕工事では、「設計」はどのような方式においても必要なのです。

 気をつけたいのは、設計監理方式のメリットを利用しての不適切な行為です。これは、談合などを設計コンサルタント(会社)が主導するといったもので、4年ほど前に社会問題となりましたが、今でも密かに行われています。
 これを、設計監理方式のデメリットとする場合がありますが、方式のデメリットではなく、談合などを行う人や組織の犯罪的行為自体が断じられる問題であって、方式の問題ではないのです。弁護士が犯罪を犯した時、弁護士という役割自体が問題になるのではなく、その弁護士個人の問題であるとされるのと同じです。
 問題の根本に気をつけないと、設計監理方式の本質を見失うことになります。

4.施工会社の選定
 設計監理方式は、「設計」と「施工」を分け、工事監理も第三者が行うので、施工会社への牽制機能を持つことが大きなポイントですが、もう一つのポイントが、仕様書に基づいて施工会社を公募や推薦し、その選定を行うということです。
 公募や推薦によって施工会社に応募してもらい、書類選考の後、仕様書を渡しそれを元に見積もりに参加してもらいます。
 共通の仕様書に基づいた見積もりなので、管理組合はその金額の比較が容易になります。これらを「見積もり合わせ」と言います。これは、最安値だからその会社にするとは限らず、現場代理人の経験や人柄、会社としてのバックアップ体制なども考慮に入れて施工会社を選定するのです。
 よく「入札」ということばが使われますが、これは最安値の会社が自動的に落札するということですから、入札とは基本的に違います。
 設計監理方式における最大のメリットは、施工会社選定における競争原理が極めて担保され、加えて、主導する委員会による透明度の高い運営によって、管理組合にとって有意な方式であると言えます。

 同じ大規模修繕工事なのに、設計監理方式は競争を促し、責任施工方式は最初から一社に決めてしまうので工事費等の妥当性に疑問が残ります。

5.設計コンサルタントの選定
 設計や工事監理は、マンションの大規模修繕工事の改修を重ねたプロフェッショナルが行う、非常に熟練を要するものです。管理組合はそのことを念頭に仕様設計を手掛けられるプロフェッショナルとしての設計コンサルタントを選定する必要があります。
 設計コンサルタントは、設計して仕様書を作成し、それに基づいて工事が行われているかを監理するという、大きく2つの仕事を行います。その両方は一般的には同じ人が行います。自ら設計した仕様は誰よりも自分自身が一番よく知っているので、合理的といえます。ここで重要なのは、設計コンサルタントと施工会社はまったく利害のない関係であるということです。
 それらの立ち位置をしっかりと保っているコンサルタントを選定しなけらばなりません。
 さらに、不適切な行為、具体的には談合を主導したりするなどのコンサルタントではないのか、吟味する必要があります。
 管理組合の利益を考えるのは当然ですが、管理組合に苦言を述べてくれるような、管理組合の真の利益を捉えて伴走してくれるプロフェッショナル・コンサルタントが望ましいのです。

・真のプロフェッショナルであること。
・管理組合の利益を第一に考えていただけること。
・不適切な行為をしていないこと。        

 理事や修繕委員は、様々な勉強会に参加して知識やスキルを向上させ、それによってコンサルタントを選定する目も育つのではないと思います。



【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
 マンションの大規模修繕工事においての施工方式には、設計監理方式と責任施工方式があり、それぞれメリット、デメリットがありますが、区分所有者に説明責任が果たせる方式としての設計監理方式の採用が望ましいと一般的には考えられている。
 施工会社の選考等が適正に行われるならば、この方式は妥当な工事方式と言えます。ただ、昨今の不適正コンサル事例(主として設計コンサルと施工会社の癒着)によって設計監理方式も問題あるのではないかとの声も出てきており、発注者のもとでコンストラクションマネージャーが、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や、工程、管理、品質管理、コスト管理などのマネジメント業務を行うCM方式も浮上しています。どのようにすれば適正な設計コンサルタントを選考することができるかの絶対的な法則はない。ただ、施工会社の選定と同様に、設計コンサルタントの選定においても「競争の原理」を働かせての選考が大切であり、それに要求される条件としては、
 ①マンション大規模修繕工事に関する実績があるか
 ②今回予定している改修工事についての技術や実績があるか
 ③管理組合の運営について知識やビジョンがあるか
 ④コンサルタント費用の報酬が明確であるか
 ⑤管理組合とコミュニケーションがしやすいか
というようなものがあると思われる。
 重要なことは、管理組合がコンサルタントに任せきりにすることなく、主体者として協同で工事をすすめていくという自覚を持つことであるといえましょう。
管理組合としては、窓口を一本化して、業務範囲、その責任の範囲を明確にし、疑問点には十分な説明が求め得るという関係の構築がコンサルと付き合う上で必要です。
 その点で、大規模修繕工事以前からも、竣工後もマンションのホームドクターとして付き合えることを選考条件とすることもあるでしょう。
 大規模修繕工事において不適正な行為が発生する段階は施工会社の選考にあると言われていることから、その応募条件、応募方法、選考方法について管理組合として細心の注意を払うことが必要であろう。そのために応募にはマンション管理新聞や建通新聞に募集を掲載し、民間(旧四会)連合協定マンション修繕工事請負契約約款書式を使用すること及び大規模修繕瑕疵担保保険の加入することをコンサルタントに説明することが必要である。
 また、特段の技術的要求が必要のないにも関わらず施工会社の応募条件に入れるとか、あるいは応募条件以外の条件を施工会社選考に主張するようなコンサルタントの行為は注意が必要である。建物全般として、セカンドオピニオンを「すまいるダイヤル」等の相談窓口に求めることも考えられる。



【NPO匠リニューアル技術支援協会】
 何故、コンサルタントが必要なのか。
管理組合理事の多くは1年から2年で交代する為、管理規約・細則等を熟知する事が難しく、修繕工事に対する専門的知識が不足していると考えられる。
また、委託会社が適正に業務を遂行しているかの確認ができず、委託費が適正か判断できない。
管理組合が、建物・設備の維持・保全を建物寿命まで総合的、継続的、経済的に行うために設計監理コンサルタントが必要と考えられる。
以下に、信頼できるコンサルタント会社を選ぶ基準を記す。

【設計監理コンサルタントの選定チェック項目】
 1 調査・診断・設計・監理を外注せずに統括して、専任可能な会社社員である。
 2仕様書に施工品質管理基準を明確に記載し、工事監理時に厳正な検査を実施している会社(材料使用料、膜厚検査、工程検査等)
 3コンプライアンスを重視している会社。
4 マンション寿命までの長期修繕計画を立案可能である。
5 大規模修繕工事コンサルタント業務を2回以上経験している。
6 大規模修繕工事を15年以上の周期で設定している。
7 同一管理組合からのリピート依頼が多く、管理組合から信頼されている。
 
 以上をチェックしたら、当該会社が実際に設計監理した物件を見学すべきである。

8 大規模修繕工事実施後10年経過物件を見学する。

 見学することによって、その会社の信頼度及び管理組合の満足度がわかる。品質管理が重要であり、劣化状況・保証期間の点検対応・再故障の有無等を確認する。

 投稿日時: 2020-10-20 (501 ヒット)
【設問】
 コロナ感染症禍のなか、管理会社から消防設備点検と排水管清掃作業を実施するとの予告がありました。この予告を聞いた住民からこのような時期に、部屋うちに入るようなことは中止すべきでないかとの申し入れが理事長にありました。この住戸の言い分は、消防設備点検では、火災報知機の機器の作動確認のためにすべての部屋に入り、また清掃作業にあたっては、作業員が入室するだけでなく、廊下に作業シート引きつめ、実施するが、このシートは使いまわしするので、感染する恐れがあるということであった。そして、理事会が実施を強行するならば、入室を拒否したいという住戸もかなり出ています。
 管理会社は、定期総会での決定事項であり、消防設備点検は法定点検であるので中止は難しいということで、細心の注意を図り実施したいということでした。理事会は、会場もなく開催することができません。
 しかし、理事長として反発があっても管理会社からの提案通り実施するのか、あるいは中止すればよいのか、どのように対応したらよいのでしょうか。

【回答団体】
 ・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
 ・NPO日本住宅管理組合連合会

【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
 住居に立ち入りが伴う設備点検として実施される消防設備は、火災報知機と住戸内ではないが、専用使用権のあるベランダに設置されている避難はしごである。これらを含む消防設備については、機器点検と総合点検により年2回点検し、消防長に報告義務がある。
 火災報知器は、火災を自動的に感知し、音響装置で火災の発生を報知するとともに、火災の発生場所を管理事務室に設置されている受信機に表示し、住民を安全に避難させる対応を促すシステムとして重要な共用部分の設備である。一部専有部分の火災報知等の消防設備の不具合があり、火災が起きた場合はマンション全体の住民の避難に影響を与えることも考えられる恐れがあり、消防法で点検し、報告義務を課していることの必然性があるといえる。
 しかしながら、強力な感染力を持つコロナウィルス感染症の拡散という昨今の状況において、コロナウィルス感染を防衛する観点から消防設備点検の専有部分への立ち入りを拒否したいというマンション住民の相談が寄せられている。管理組合として未だワクチンもなく無症状の感染者も存在するというコロナ禍にあっては、消防用設備の点検報告・届出等を実施することが困難な場合が想定される。
 このような設備点検をめぐる状況のことから、その際の運用について総務省消防庁より「消防予104号」という事務連絡が発出されている。
 その内容は、消防設備の点検や届出をしないことは、当然に消防法に違反することになることを前提に、「違反を是正するための措置が困難な場合は、当該事情を勘案した上で妥当な期間を設定し、又は必要に応じて期限を延長するなど、弾力的に対応されたい」としている。また、「違反期限が長期となる場合」や、「違反処理を留保する場合は、違反対象物の状況や地域事情に応じた適切な安全対策措置を講じられるよう指導されたいこと。」と助言している。
 管理組合としても、設備点検しないことは「消防法に違反する行為である」、「スケジュール的に決まっている」とし強行的な立ち入りを住民に迫ることなく、どのような条件であれば実施できるか話し合いを行い、弾力的に運用されることが望ましいと思われる。長期に延長する場合にはあらためて当該マンションにおける消防計画の安全対策措置を理事長、防火管理者により行う必要である。
なお、専有部分に立ち入る排水管清掃についても、運用について管理組合の責任で弾力的に対応することが望ましい。



【NPO日本住宅管理組合連合会】
 コロナウイルス感染防止には、「意識」と「対策」の2つが不可欠です。前提として、ある程度の居住者の安全・安心を担保することで設備点検等への協力を容易にできますから、管理組合は、業者に対する(社員や下請け業者)教育を求めることが不可欠です。ただし、行き過ぎないことです。
 「密閉」「密集」「密接」の「3密」を避けるための対策やマスクの着用、玄関ドアをはじめ、触れた箇所の消毒など、手間も時間も少しかかりますが、必要なことだと思います。
 管理組合としてのガイドラインも設定し、居住者の安心を得ることも必要です。
 一つの実験のような部分もあり、日々アップデートしながら、納得のある対策をとっていくことが必要になります。
 ガイドラインの基本は管理組合(理事会)の意識づくりです。コロナウイルス感染防止にとって必要な「密閉」「密集」「密接」の「3密」を避けることと、それぞれの具体的な施策を示すことが必要です。
 コロナウイルスの感染は飛沫感染と接触感染が考えられており、「うつさない」「うつらない」という意識と対策が欠かせません。

 次にガイドラインの要件を示しますので参考にしてください。
 ・作業員同士が「密接」しないこと。
 ・作業員も居住者もマスクを着用すること。
 ・接触した箇所をアルコール消毒をすること。(行える箇所のみ)
 ・「密閉」に気をつけ、換気を十分にするために、玄関ドアと窓を大きく開けることをすすめること。
 ・施工終了後の印鑑が必要な場合、居住者が印を押すこと。

 大切なのは業者任せにせずに、居住者と業者の安全について、管理組合がある程度関与することです。

 厚生労働省のホームページを参考にされるとよいと思います。
 https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kenkou-iryousoudan.html#h2_1

 投稿日時: 2018-12-12 (964 ヒット)
 一部の設計コンサルタントが不適切な行為を行なったという話を耳にしたが、具体的にどのようなことなのか知りたい。また、施工会社にも不適切行為を行う会社があるのかを知りたい。それぞれを選定する際に、いくつかの会社に見積もりを提出してもらい、その中から選定しようと考えているが、その入札はどのように行なったらよいのか。

 投稿日時: 2017-12-18 (1781 ヒット)
 築15年で60戸のマンションです。屋上に携帯用アンテナ設置、駐車場は平置きと機械式の併用駐車場で50台駐車可という現況です。以下の2点について教えていただきたい。

【質問①】
 マンション屋上に携帯電話会社のアンテナを5年以上前から設置している。最近になって税務署から「管理組合の収益事業にあたるので税申告しなさい」と言われた。
 アンテナ設置が収益事業にあたり、納税する必要があることを税務署から言われるまで全く知らなかった。しかも5年前から1度も督促もしていないのに、5年遡って延滞料もとると言われた。延滞料まで支払うのはとても納得いかない。

【質問②】
 最近、大型車に買い替えや、高齢化による車離れで空き駐車場が増える傾向にある。
 このままでは、機械式駐車場のメンテナンス等に支障きたすことになるので、一部外部貸しが可能か検討している。仮に一部外部貸しするとして、これは収益事業(課税対象)にあたるのでしょうか?又、それに伴う問題点があれば教えて頂きたい。

 投稿日時: 2015-03-03 (3940 ヒット)

 マンションの1部屋を所有しており、不動産屋を通して賃貸に出しています。3日前にその部屋の上階で火災があり、その消火活動のための放水により、壁や床の絨毯及び応接セット・ピアノ・タンス等の家具類が被害を受けました。漏水するような部屋に問題があるとして、部屋の早々の修復と家具類の損害額として200万円の請求を借主から受けましたが、どのように対処したらよいのでしょうか。

 ※ 本設問のような事例は、マンション管理組合の業務に含まれません。損害賠償請求は、民法等が適用されます。よくある事例ですので一般論として各団体に回答いただいています。あらかじめご承知おきください。


 投稿日時: 2011-03-29 (1754 ヒット)

 築30年のマンションです。「再生」か「建替え」かということが言われているようですが、どのように違いがありますか?


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