マンション管理コラムColumn
建物
コラム:給排水配管設備工事の施工を回顧して
給排水配管設備を専門にしている仕事柄、日頃、多くのマンションに伺います。僭越ですがその中で、最近、個人的に思ったことをお話しさせて頂きます。
昨年末に、築53年のマンションに伺う機会がありました。マンションの図面を見ながら、建物の中に入った瞬間、1980~1990年頃の自分の仕事の記憶が頭に浮かびました。自分がこのマンションの建築に係ったわけではありません。自分が若い頃に携わった仕事の記憶から、このマンションが作られた時の雰囲気が浮かび上がってくるような気がしたのです。
築50年を超えているマンション-昭和40年前半に建てられたマンションは、当時の建物の「作り手の意識」―建築士の考え方や施工者の技術が反映されています。築40年のマンション、築30年のマンション、築20年のマンションは、それぞれその時代の「作り手の意識」を反映しています。
築53年のこのマンションの当時は、給排水配管設備は、建物の「付帯設備」と称され、事実、デッドスペースにレイアウトされて、必要悪のように扱われていた時代です。
このマンションの給排水配管設備は、室内の台所流し台や浴室・洗面台の排水管が、コンクリート床スラブを貫通して、すぐ下のお部屋の天井裏で排水横引管に集合し、そのまま階下のお部屋の天井裏で排水立て管に合流しています。給水管は、メーターボックス内の水道メーターからコンクリート床スラブを貫通して、下のお部屋の天井裏をまわり、更に、コンクリートスラブを貫通して立ち上がり、台所流し台や浴室・洗面台に接続しています。
当時このマンションを設計した建築士の考え方―「階高を稼ぐ」。そのための配管設備のレイアウトでしょうが、今となっては、このマンションの室内の排水枝管・給水枝管はコンクリート床スラブを貫通して、下の部屋の天井裏に設備されているため判例により、これらの配管は全て共有部分扱い、つまり、配管全てがこのマンションの管理組合の責任範囲ということになります。
幸いというべきか、給水管も排水管も配管素材が樹脂製であったことから、漏水事例は多々あっても、配管設備全体としてはかろうじて保っていますが、配管素材の樹脂の劣化、接着接合のため接着剤の劣化、さらに、古くなった樹脂製配管は地震のような応力に必ずしも強くない、等考えると、早急に、給排水配管全体の改修工事計画と概予算案の作成を検討することを管理組合に提案しました。
おそらく、そんなに時間的な猶予はありませんし、入室がともなう給排水配管の更新工事は準備が重要であります。
全室入室調査のうえ、試験施工と、ステップを踏んで、と考えると時間が必要です。
今、建物の設備全般に関して、「作り手の意識」の上での「位置」は高くなりました。
設備がマンションの販売の上でポイントになる時代であり、賃貸の不動産屋さんをのぞくと、「インターネット」「カメラ付きドアフォン」「24時間換気」「追い炊き風呂」等、設備が重要な選択の基準になっています。
分譲マンションでも、「床暖房」「オール電化」「台所流し台のディスポーザー」等、設備が品質を表すある種の指標になっています。
一方で、問題になる可能性のある設備もあります。例えば、「ディスポーザー」はそのひとつであり、全室ディスポーザー標準装備のマンションは、将来、費用が掛かる設備を抱えていることに気付くことになるでしょう。
「ディスポーザー」がある以上、浄化槽を維持しないわけにはいかず、ディスポーザー専用排水管は粉砕された生ごみによる過度な負荷のため、年々、メンテナンス作業がかさむこととなり、さらに、十年を過ぎると、それぞれのディスポーザーのモーターは壊れはじめて、すべてのお部屋のディスポーザーが更新されるわけではないので、ディスポーザーの専用排水管には更に負荷が掛かる、悪い循環が起こることになる可能性があります。
後から分かることを今気付いて、マンションに住まわれている皆さんにお話しすることができればよいと思うのですが、なかなか思うようにいきません。 築53年のマンションに伺って、ふっと頭に浮かんだことを記載させて頂きました。
NPO法人匠リニューアル技術支援協会