マンション管理コラムColumn

居住者間のマナー

第20回:管理組合の運営に支障を及ぼす行為に対する措置について

第20回:管理組合の運営に支障を及ぼす行為に対する措置について

区分所有者の一人が今までも消防点検や排水管清掃、大規模修繕工事の際に立入りを拒否して協力してくれませんでした。今回は雑排水管改修工事に反対し、立入りを拒否したためこの区分所有者の住戸を含む縦系統の雑排水管改修工事ができなくなり工事に支障をきたしました。

 そこで複数の理事で何度か説得に行ったところ、「なんで協力する義務があるんだ」と怒鳴って理事に暴言を吐き、その後、理事長や理事のところに執拗に嫌がらせの電話をしてきたり、役員中傷のビラの配布や貼付をするため、工事が中断するだけでなく管理組合の運営にも支障をきたしています。
 このような管理組合の運営に非協力的な区分所有者に対する適切な措置はあるのでしょうか。

【NPO法人埼管ネットの回答】
設問を整理すると、管理組合の建物に対する立ち入りが必要な点検やメンテナンスにおいて立ち入りを拒否してきた区分所有者に対して、理事が何回か説得を行った。ところが、理事長や理事に暴言を吐いたり嫌がらせをしたり、役員中傷のビラをまいたりした。その結果、排水管改修工事が中断し、管理組合運営に支障が出てきた。
 回答としては、説得の方法を変えて何としても納得してもらうことです。納得の方法にはポイントがあると思います。
① 本人がなぜ立ち入りを拒否するのかを聞き出し、解決や解消の相談にのる。
  本人が独居老人であったりした場合は、他人を室内に入れたくないということは考えられます。自治会・民生委員・市町村の福祉からの解決が必要となることもあるかもしれません。
② 理事が本人に直接説得するのではなく、家族や近しい人から説得してもらう。理事長や理事は普段の付き合いがないと思われるので一度拒否すると頑なになりやすいので説得する人を変えると納得してくれる場合もあると思います。又管理会社の担当者が事務的に説得することも考えられます。
③ 理事との間には信頼関係は失われたと思われるため、法的手段に出ることを文書で通達する。
 標準管理規約23条に必要箇所への立ち入りの条項があります。管理組合は必要な範囲で立ち入りを請求することができ、請求されたものは正当な理由がなければ拒否できないとあります。そして正当な理由がなく拒否した場合は、その結果生じた損害を賠償しなければなりません。説得に際して、このことを説明したのかわかりませんが、工事が中断したことは工事業者として損害が発生していますので、賠償請求することができます。
 又、標準管理規約66条、67条には義務違反者に対する措置と理事長の勧告及び指示等の条項があります。区分所有法57条から60条に規定されています。いずれも訴訟を起こすことになりますが裁判で勝訴しても本人に対し有効かどうかを考えるとこのような手段が取られることを説明することにとどめるべきでしょう。
 いずれにしても感情問題を含む人間関係のもつれから一度脱却し、お互いに冷静になるにはどうしたらよいかを考え、方法を変えて説得し続ける必要があると思います。

【NPO法人匠リニューアル技術支援協会埼玉支部の回答】
集合住宅の特質から、それぞれの組合員の職業、生活時間帯等が異なります。
 ある組合員にとって、午後10時は生活時間帯であり、階下の組合員にとって、睡眠時間とすれば、上階の生活音が騒音として上下間でトラブルになるケースもあります。当然、上階の組合員にとって、迷惑をかけている意識はありません。事前に当事者間でコミュニケーションが取れていれば、お互いの事情が理解できていれば、トラブルに繋がらないことです。
 管理組合の排水管の清掃も、ある組合員は清掃日当日不在で実施できないことが数年続いたとします。当然、非協力的な組合員に批判が集まりますが、実は清掃日の設定も組合員である居住者の本意でなく、清掃業者の都合で平日設定ということはありえます。土・日曜日等の予備日を設定して、平日は仕事の関係で、不在せざるを得ない居住者の救済策を管理組合で取ることも必要ではないでしょうか。
 今回の設問のように、生活にかかわる工事を協力しない、そのために他の組合員宅も工事できない場合は、集合住宅に居住する管理組合員のルールとして、その居住形態の様式から、ある意味の制約と協力が求められています。
 管理組合員には建物の保存に有害行為の禁止や共同の利益に反する行為の禁止が求められている。
区分所有法第6条1・2項では、
1.今回の案件は、管理組合員の理事会運営に協力しないという不作為による「建物維持保全に有害な結果」をもたらしています。
 当該組合員の工事非協力という不作為が、工事中断等による損害を管理組合・施工者にもたらすことになります。
 当該組合員の行為は不作為という権利濫用であり、不法行為による損害賠償を求めるに値するといえます。
2.民事上、管理組合・施工者が裁判で勝訴しても、本来、管理組合の目的は、工事完工にあるわけで、裁判外での解決の知恵が求められます。
3.今回のような管理組合運営に非協力行為者に対して、区分所有法第60条による競売の請求を求められることも1案ですが、裁判所からは、当事者間で歩み寄りするようにとのアドバイスされるのではないでしょうか。
4.今回の組合員の行為は尋常ではありませんが、当該組合員がなぜ執拗な理事会攻撃をするようになったかを、理事会で検討しているのでしょうか。
 刑法に触れるような事案を当該組合員は抱えています。管理組合が表面的な行為だけで法的に対応することも可能でしょうが、それも解決に結びつきません。
 当該組合員がそれほどこだわるのかという、それらの要因の究明が先決でしょうし、それによって、当該組合員への説得方法も考えられるでしょう。
 実は工事計画を進めている理事会運営が不透明であったり、疑惑をもたらすようなことに対して、当該組合員が抗議の意味で振舞っている場合もかんがえられるでしょう。
 個々の理事で対応するのでなく、当該組合員を理事会に招集して、意見交換の機会を設ける、そしてお互いが納得する努力を重ねるしかないと考えます。それでも、当該組合員が応じなければ、最終手段として法的措置という選択になることもありえます。

【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
 管理組合がその責任と負担において管理するのは敷地及び共用部分等であり、専有部分は原則として各区分所有者がその責任と負担において管理すべきものです。しかし、雑排水管の清掃や給・排水管の更生・更新工事の場合には専有部分に立ち入らないと作業ができないだけでなく、本管・本線等の共用部分と構造上一体となった専有部分の管理については本管等の共用部分の管理と一体として行ったほうが効率的な場合が多いといえます。そこで、規約に「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」(標準管理規約第21条第2項)と規定することにより、本管・本線等の共用部分と構造上一体となった専有部分についても共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合が専有部分も一体的に行うことができます。
 問題は、管理組合が専有部分の配管も一体的に工事ができるとしても、工事に反対して立入りを拒否された場合にはどうしたらよいかということです。
 強制的な立入りは、法的手続によるのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむをえない特別の事情がある場合(例えば、当該住戸内で水漏れが生じているがその区分所有者が留守の場合)を除き、原則として許されないとされています。そのため、管理組合としては工事に協力してくれるよう繰返し説得する必要があります。繰返し説得する過程で相手方が感情的になり、理事長や理事のところに執拗に嫌がらせの電話をしてきたり、役員中傷のビラの配布や貼付をするため、工事が中断するだけでなく管理組合の運営にも支障をきたしたということですが、この様な行為は区分所有法(以下「法」という。)第6条第1項の「共同の利益に反する行為」に該当します。
 役員中傷のビラを配布したり、理事長や理事に暴行や嫌がらせをし、工事業者の業務を妨害した事案について、「マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らを誹謗中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害する等する行為は、それが単なる特定の個人に対する誹謗中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に当たるとみる余地がある。」(最高裁平成24年1月17日判決)としています。又、管理組合運営に対する継続的な非協力的態度を「マンションの住環境の保全・向上を図ることが妨害されている点で区分所有法6条1項の共同の利益に反する行為にあたる。」(横浜地裁平成22年11月29日判決)としている判例もあります。
 法第6条第1項の「共同の利益に反する行為」に対しては、義務違反者に対する措置として法第57条以下の措置をとることができます。そこで、文書等により勧告をしても中止しない場合には、法第57条第1項により、当該区分所有者に対して、嫌がらせの電話や役員中傷のビラの配布や貼付を止めることや管理組合の運営を妨害しない様工事等に協力を求めることができると考えます。
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