マンション管理コラムColumn

建物

第47回:エレベーターを設置することについて

第47回:エレベーターを設置することについて

【設問】
既存建築物に外付けのエレベーターを設置について、どのような手順で注意して進めればよろしいでしょうか。

【回答団体】
NPO日本住宅管理組合協議会
・一般社団法人埼玉県マンション管理士会

 

【NPO日本住宅管理組合協議会】
エレベーターの設置には、ハードとソフトの課題があります。まずハード面から見ていきます。
 エレベーターの設置には、既存建築物とは別にエレベーターを支える構造物(基礎・柱・梁)を独立させることが必要ですから、それが可能なのかを既存建築物の建築図や構造図を確認しなければなりません。もちろん、見た目でエレベーターを設置する場所があるのかの確認が第一です。
 その上で、何人乗りなのか、サイズはどの程度なのかなどによって設計はかわってきます。当然、建築基準法等に気を配りながら仕様などを詰め、図面を起こすことになります。
 その前に検討すべきことがあります。課題は、むしろソフト面ではないかと思います。
1つ目は、そのエレベーターは本当に必要なのかという十分な検討はなされているのか。エレベーターを利用する人と1階に住む人との恩恵の有無なども、しっかり議論する必要があります。マンション全体の価値を考えるとエレベーターは有益に思えますが、そのあたりの考え方がとても重要です。
 当然、設置費用との兼ね合いもあるはずです。コスト・パフォーマンスといってもよいと思います。設置後、後悔しないために、仕様を十分に検討しますが、設置費用を捻出できるのか否かです。
 ソフト面の2つ目の課題は設置費用だけでなく、設置後の維持・保全についての洗い出しも行います。電気使用料金に加え定期点検や部品の交換など、ランニングコストの支出などの試算も欠かせません。
 エレベーターの仕様等と工事等の試算及びランニングコストなど、全体を明示して検討することが必要です。さらに、維持・保全を含めた運用面の規則なども作成することをお勧めします。

 UR賃貸集合住宅の例なので分譲マンションの参考にはならないかもしれませんが、5階に住んでいた高齢者を、1階に移っていただいたという取り組みは実際に行われています。

 

【一般社団法人埼玉県マンション管理士会】
1.理事会において(又は理事会あてに)、なぜエレベーターの設置が必要なのかを書面にまとめて提案する。

2.対象自体が大掛かりな工事となることから、理事会においてその必要性の「検討」をすべきとの結論を得て、専門委員会(エレベーター設置検討委員会などの名称)を設置する決議を行ってもらう。
 1)あくまで、設置の可否を判断するための委員会であり「設置ありき」の前提とならないように注意。
 2)役員の変更があると協議の振り戻しとなる可能性があること及び通常の維持管理の検討時間が優先されることから「委員会設置」をお勧めいたします。

3.組合員に対して委員会の委員の募集を掲示・広報等で行う。
 1)委員に関しては、組合員以外は組合財産の関係当事者とはならないことから、原則候補としないこと及び役員の選任基準の範囲内での親族関係者に制限すること。
 2)設置反対者については、排除する方向ではなく、「なぜ、設置に反対なのか」の有益な情報源として参加いただくのも効果的。

4.委員会において、設置のニーズを検討。
 1)例として下記のことが考えられます。
    ①車いすでの居住形態が可能となる。
    ②高齢者のみではなく、子育て世代にも居住しやすくなる。
    ③マンションの資産価値の向上 など
 2)設置に反対される理由も併せて検討
    ①費用対効果(設置費用・維持管理費)
    ②外観などへの悪影響 など

5.委員会において、設置の可能性・工法・費用などを検討。
 1)下記の2つの方法から選択
    ①建築士等専門家に支援を依頼してプランを検討。
    (メリット)
      マンションの立場で検討を進めることができる。
    (デメリット)
      費用が発生する。
      ※場合によっては、総会にて予算確保の上行う必要がある。
    ②エレベーター製造会社にプラン提案を依頼
    (メリット)
      費用の発生がない場合が多い(調査実費など発生する場合があります)
    (デメリット)
      その会社の仕様のみに偏る可能性がある。
      (他社では他の仕様が可能な場合もあります。)
      ※依頼段階で、発注に関しては、他社との比較となる旨、明確に伝える必要がある。
 2)設置に関する設備仕様の前提を明確にする。
  (例)
    ①車いすが支障なく各戸から敷地通路まで移動できること
    ②地震対応型(最寄り階出口停止・自動復旧など)であること など
 3)工事費用・維持管理費用の概算を取得
    工事費用等の概算が出てこないと費用対効果の判断が組合員にとって行いにくい環境となりますので、概算費用は必要となります。

6.委員会での取りまとめ内容を理事会に報告し、組合員向けの説明会の開催の承諾・協力を承認していただく。
 1)考え方としては、理事会は公式な組合員の組織であり、全体に説明を行う前に、理事会にて各種意見等を収集することにより、説明会での質疑応答に効果的
 2)理事会での説明により、全体説明の運営体制の準備となる。
 3)全体説明の実施時において、「説明会」の行為が、理事会運営の一環として、その後の総会対応などが行いやすくなる。

7.説明会での意見・要望などを踏まえて、「管理組合としての基本仕様書」を作成

8.「管理組合としての基本仕様書」をベースに他社の見積書を取得
 1)基本仕様書に基づく見積書と提案見積書を要望する。
 2)工事費用だけでなく、その維持メンテナス費用も確認
 3)保証関係・アフターメンテナス・緊急対応・メンテナンス計画なども確認
 4)他社見積もりの募集に関しては、必ず、組合員に募集要項等を開示し、組合員からの推薦も受け付けるよう実施。

9.委員会にて、各社プレゼンを実施
 1)特に提案見積もりで有益である部分については基本仕様書の変更を行う
 2)プレゼンには、できるだけ各社が顔合わせしないように注意
 3)専門用語につき、一般の組合員でも理解できるレベルでの説明を行っているか注意して聞く。

10.各社プレゼン終了後に「管理組合としての最終仕様書」を作成
 1)可能であれば、最終仕様書及び概算見積もりでの「総会承認」を受けることが望ましい。
 2)最終仕様書に基づき、各社見積書を取り寄せ
    ①開封は、理事会若しくは委員会に理事立ち合いで行うことが望ましい。
    ②価格が高すぎる・最終仕様書と内容が異なる・期日までに提出がないなどの場合には候補事業者から外すことも検討

11.最終仕様書に基づき作成された見積書をベースに管理組合として全体プレゼン
 1)上記6.と同じく理事会での承認を得て行うこと
 2)プレゼン時に各社の評価を記入できる用紙を用意すること
 3)総会に提案される最終候補者については、評価用紙を参考に、委員会で決定し、理事会の承認を受けて行う旨明確に事前説明すること。
 4)組合員に対して、工事金額やメンテナンス費用のみで判断するのではなく、保証や顧客対応なども含めて判断いただくよう十分説明すること。(工事中の対応など生活に大きな影響があります。)

12.プレゼンの結果を検討し、議案書として理事会に提出

13.総会可決後、工事説明会を実施して工事に着手
《その他参考事項》
 ①この回答書は、単棟型のマンションを前提に作成しております。団地型の場合には、他の検討すべき事項もありますのでご注意ください。
 ②計画としては、3年程度の期間で確実かつ着実に進めることが良いかと思われます。
 ③作業実施においては、仕様書の他、各種広報などの作成がありますが、専門家としてのマンション管理士の活用により効率的に行うことも可能です。
 ④管理会社に管理を委託している場合には、管理会社も友好的(有効的)に活用されることをお勧めいたします。
以上

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