マンション管理コラムColumn
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コラム:大規模修繕工事の設計事務所選定のポイント
★不適切な設計事務所問題となった要因 先ず「マンションの大規模修繕工事の設計、工事仕様書は誰が作成するか?」が問題となります。マンションの大規模修繕工事に関与する専門家は、マンション管理士・建築士・施工監理技士等です。同工事が公明性、公平性、透明性を保って履行し竣工するには、関係する専門家が相互に監視するシステムを構築しなければ、適正な工事の質向上に寄与することは難しいと思えます。マンションの大規模修繕工事の総括監理者は誰が務めるのでしょうか。マンションの区分所有者で組織された団体の組合員には、「工事の発注等は利益相反等及び適正性を監視する職責があり、そしてこれ等に対して、公明性、公平性、透明性を保持していかなければなりません。」この重責を担う処に、管理組合の役員(理事)の就任を躊躇する要因があるのではないでしょうか?そこの間隙に問題の温床があり、顕在化してきたとも言えます。
★不適切設計事務所の事例 其処で最近の事例ですが、さいたま市内に所在するマンション(築13年、RC造7階、130戸)の第1回大規模修繕工事の計画の中で、設計事務所職員の試算日額は¥28,000/日・人、業務試算額総計¥3,062,880に対して、その委託設計業務を公募してきた際の設計委託業務見積は、最高額¥4,276,800~最低額¥1,188,000と約¥300万円の差があります。この差額の分析が重要です。即ち、安易に最低額の事務所に業務発注して良いのか?一般区分所有者からみれば最低額の業者に委託すれば良いと応えるでしょう。しかし管理組合役員、修繕委員は、大規模修繕工事が予算内での竣工を見届ける責務があります。結果、この管理組合は、ヒヤリング(見積額の算出方法)、会社としての取り組み姿勢、ブレーン、提案力、担当者の資質等の総合的判断で、㈱○○設計事務所を選定し委託契約を締結しました。その際に重視したのは見積額の算出方法です。特に○○設計事務所㈱はその算出根拠を明確に示せなかったばかりか、調査業務並びに設計図書・工事仕様書の内容については「当社の基準で作成し、仮設計画、直接工事仕様、施工会社選定基準等については一括提案させてください」と発言しました。一見これは重責を担うが如き発言であり、管理組合役員、修繕委員にとっては気忙しい責任業務から解放されるので楽になりますが、実は非常に無責任な発言であり、設計業務を施工会社、材料メーカ等に一括丸投げする危険性が潜んでいるのです。此れを見過ごすと実施業務の進捗に於ける設計業務の追加請求、大規模修繕工事の実数精算等の追加請求、さらに工事品質の低下が想定されるのです。
★大規模修繕工事の設計者は誰? 一般的なマンションの大規模修繕工事は、建築基準法の定めによる建築確認申請が必要か否か?問題となります。必要であるとすれば、建築士がその業務を受託して遂行していく事になります。即ち、上記の記載に該当する事になると建築基準法の定めによる建築確認申請を要する建築工事になります。とすると、一般的に行なわれている「マンションの大規模修繕工事の設計、工事仕様書は誰が作成するか?」が問題となります。「制限があるか?あるとすればその理由を考えてみましょう?」⇒誰が作成しても良い!無資格者でも良いのです。要するに管理組合若しくは修繕委員会が作成しても何ら問題が無いのです。
★設計者への業務報酬額の疑問 それでは、マンションの大規模修繕工事を建築設計事務所に依頼する時の、建築設計・工事監理等の業務報酬基準について考えてみます。その基準は建築士法第25条の規定に基づき、建築主と建築事務所が設計・工事監理等の契約を行う際の業務報酬の査定方法を示したものが、平成21年1月7日(平成21年国土交通省告示第15号)が定められました。しかしこの報酬基準は新築工事が主題となっています。即ちマンション等の大規模修繕工事を念頭に於いた構成ではありません事を認識してください。そしてその構成は、①実費加算方法、②略算方法がありますが、多くの設計事務所は、②略算方法を参考に算出しています。分譲共同住宅(マンション)等は、建物類型六の共同住宅の用途として業務量が示されています。業務量表では、10,000㎡の共同住宅で、総合設計8,100人・時間、工事監理等で3,100人・時間と示されています。さらに建築士の標準日額は、技術者AランクからFランクに区分されて、平成23年度版で¥51,800から¥22,700と選定されています。故に、マンションの大規模修繕工事の設計、工事監理業務を受託している多くの設計事務所は、上記の業務報酬基準を参考に算出しています。要するに、基準がある様で無いのです。
★古より言われている都市伝説 此処に施工会社、資材メーカ、等との癒着が古くから示唆されていました。設計事務所の経費は殆んどが人件費です。其処が安価な金額設定は留意しなければなりません。故に、設計監理者方式を採用する場合は、設計コンサルタントが利益相反行為を起こさない中立的な立場を保つ形で施工会社の選定が公正に行われるよう注意する必要があります。この国土交通省の相談窓口の周知について(通知)は、果たしてマンションの管理(大規模修繕工事の設計、工事発注、設計工事監理業務等)の適正化を促す有効手段に働くでしか?何故に疑問を投げかけるか、建築設計事務所(個人、法人を問わず)は営利企業だからです。継続して営業を存続していくには利益を生み出さなければなりません。ましてや発注する側が、応募してくる業者に対して企業営業力(組織力、キャッシュフロー、)の優劣を求めているからです。その発注者側の要求に過度(?土俵に上がる為)に応えようとすると、企業としての倫理、技術者としての自負が薄くなり、前項の様な業者が顕われて来ます。残念ながら、建築業界を代表とする製造業界や、他の業界も含め、日本の風土にはこの風習が良きにつけ、悪きにつけ、底辺に根強く必要悪感があります。この傾向は潜在的に全ての企業・個人は持ち合わせていると考えています。事案の大小に関わらず筆者もその一人に気が付いたら足を踏み入れる恐れがあるかも知れません。公明性、公平性、透明性を保ち、またそれ等を確保しながら、営利企業(個人)を営んでいく事は難しい課題です。それ故、それらを担保して発注する、委託するシステムを構築する事が、受け手側だけでなく発注する側にも求められているのです。留意すべきです。
★設計事務所への業務依頼の注意点 マンション建築物等を代表とする大規模修繕工事の設計コンサルタント業務の基準は、建築工事費、設備工事費等の工事規模から平均的な所要工数を算出しています。設計事務所の裁量により算出されています。 また標準日額は個別の契約において当事者間の合意に基づいて定められるもので強制力は有りません。さらに設計事務所の選定については、先入観を持たずに選定する事が肝要です。特に法人、個人、事務所としての規模を選定の最重要な要素とするのは最終段階で良いと考えています。従って、建物調査・劣化診断調査・報告書の分析結果により、建物診断の概要(工事区分による分類)にて次の4つの工事区分に分類することも一案です。ア、建築工事区分 イ、衛生設備工事区分 ウ、電気設備工事区分(エレベーター設備を除く)。オ、外構工事区分(機械式駐車場設備を除く) これ等、前記のアからオの工事区分を網羅した見積体系が構成されていることが、設計事務所のコンサル業務としての大枠であると考え、長期修繕計画の工事科目、工事項目及び修繕計画設計仕様書、設計図書、工事内訳明細書(数量表を含む)等と同系列に構成されることを要望していく事が肝要です。
一般社団法人埼玉県マンション管理士会(旧首都圏会) 新井 斉