マンション管理コラムColumn
建物
第63回大規模修繕工事について
【設問】
大規模修繕工事について
【回答団体】
・NPO日本住宅管理組合協議会
・(一社)埼玉県マンション管理士会
【NPO日本住宅管理組合協議会】
大規模修繕工事は外壁を中心として建物自体の維持・保全を第一の目的としますが、建物の耐久性やグレードアップを視野に入れ、屋上の防水層の上に断熱材を張り、その上に新たな防水シートなどを覆い断熱性を高めたり、外壁の外側に断熱層を設置し、さらに、サッシの交換(多くはカバー工法)や耐熱性能ガラスに交換したり、玄関ドアも含めて省エネ性能を高めるといった取り組みも近年では増えており、国の補助金も活用できる場合もあります。
それらの工事の範囲を大まかに決めるのですが、そのためには修繕委員会を設置し、修繕積立金の収支状態、設計コンサルタントの選定、建物劣化診断、長期修繕計画の見直し、施工会社の選定など、取り組むべきことがさまざまあります。
大規模修繕工事を成功させるには、マンションのビジョン(将来展望・あるべき姿)の策定(見直し)が欠かせません。ビジョンを土台として長期修繕計画の見直しをすることで、マンションのあるべき方向性が明示され、同時に修繕積立金の不足などにも対応することが可能となります。
ある管理組合では、建物等委員会を設置し、半年ごとに定期日常点検を実施しています。屋上、建物、外構を目視点検し、どこがどのように問題があるのかを記録しています。半年後にあるいは1年後に劣化が進んでいるのかを確認していきます。
メンバーは全員素人ですが、経験豊かな設計コンサルタントに依頼し、建物等について、例えばコンクリートのひび割れやタイルの浮きなどがなぜ起きるのか、どのように見つけるのかなどを学び、実際にひび割れの状態を見たり、タイルを点検棒で擦って音を確認するなど、実地訓練も受けました。
この定期点検によって、建物等の劣化度もわかると同時に、自分たちのマンションへの愛着心につながるとともに、建物等を大切にしなければ、とも思うようになります。つまり、一石三鳥の取り組みとも言えます。
点検で明らかになった劣化箇所については、緊急性を要しなくても、要注意や次回点検時注意など、注意深く経過観察をしていきます。それらの点検結果は、大規模修繕工事の実施にあたって建物の状態を把握(建物診断)する際に十分に活かすことができたということです。
次に大規模修繕工事の進め方について示します。
A.大規模修繕工事の進め方
国土交通省が示す、マンション大規模修繕工事の進め方は、主に以下のとおりです。
ここで注意したいのは、管理組合が主体となり、ビジョンの見直しや長期修繕計画に基づいて進めることをお勧めします。
- 長期修繕計画の作成
(1)新築時または建物の築年が浅いうちに、将来的な修繕工事を見据えた長期的な計画を策定します。事務的・機械的に策定するのではなく、マンションのビジョンをみんなでつくり上げ、それを土台に長期修繕計画を見直すことで独自の計画書になります。
(2)長期修繕計画は、建物の経年劣化に対応し、適切な修繕を実施するために、また同時に修繕積立金の根拠となりますから、適時適切な見直しが不可欠です。
(3)2021年9月には、「長期修繕計画作成ガイドライン」の内容が見直されています。
- 修繕委員会の設置(前段を修繕準備委員会などと称している管理組合もあります)
(1)大規模修繕工事の約2~3年前に、工事の準備や検討を専門的に行う「修繕委員会」を設置します。
(2)委員会は、以下の工事内容や発注方式などを具体的に検討します。
- 修繕積立金の見直し
国土交通省のガイドラインの長期修繕計画では、長期修繕計画の期間は30年以上で、大規模修繕工事が2回含まれる期間とすることが原則です。大規模修繕周期:12~15年が目安とされています。これは建材の劣化や工法によって個別に判断する必要があります。
(1)2021年の改定では、建材の進化などを踏まえ、より実情に即した柔軟な周期設定を可能にしました。
(2)省エネ性能向上改修(外断熱、窓の断熱化など)の有効性や、エレベーターの点検に関する指針も盛り込まれています。
(3)2025年6月の改定で、修繕積立金の段階増額方式における具体的な基準が明示され、より実効性の高い計画策定が可能になりました。
(4)長期修繕計画に基づいて、修繕積立金が適切に設定されているかを定期的に確認し、必要に応じて見直します。
(5)修繕積立金が不足すると、必要な修繕工事が実施できなくなるため、適切な積立を計画します。
- 劣化診断と修繕設計
(1)建物の劣化状況を把握するため、専門家による劣化診断を実施します。
(2)診断結果をもとに、具体的な修繕内容や仕様をまとめた修繕設計を行います。
優先すべき箇所や内容を検討します。
- 工事発注方式の検討
(1)工事の品質や透明性を確保するため、発注方式を検討します。
(2)国土交通省は、設計コンサルタントの活用や、透明性の高い発注を促すよう管理組合に通知しています。
管理組合の状況に合わせて、設計・施工を分離して発注する方式である設計監理方式や、一体で発注する責任施工(設計責任)方式などを検討します。
- 工事業者の選定と契約
(1)設計監理方式の場合、設計コンサルタントによる仕様設計が出来上がったら、複数の工事業者から見積もりを取り、比較・検討します。見積もり参加してきた工事業者の書類選考で数社に絞り、ヒアリングを行います。価格が安いということだけで選定するのではなく、工事業者の規模・経験・サポート体制や現場代理人候補者の経験やコミュニケーション能力はとても重要なポイントです。
(2)総会で承認を得る。工事内容、業者、費用などを含む計画案を総会で決議します。
(3)契約の締結。 総会決議の成立後、工事業者との工事請負契約、および工事監理者との業務委託契約(この契約は設計コンサルタントの選定後に総会決議し、その直後に行うことが多い)を締結します。 - 工事実施
工事期間中は、以下のプロセスが進められます。
(1)工事説明会: 居住者向けに工事内容、期間、注意点などを説明し、協力を求めます。
(2)工事中の広報:居住者に向けて、工事内容や範囲などについて逐一広報し、理解と協力を求めます。居住者からのクレームなどの対応も十分に行う体制が必要です。問題等は迅速に解決し、管理組合・設計コンサルタント・施工会社及び居住者と共有することも必要です。
(3)工事監理: 工事監理者が、工事工程や施工状況を厳正にチェックします。
(4)住民との連携: 居住者の生活に配慮し、工事中の騒音、安全対策、防犯対策などについて配慮します。
- 竣工とアフターサービス
(1)竣工検査: 工事完了後、管理組合、工事業者、工事監理者が立ち会い、計画通りに工事が適切に完了しているかを確認します。
(2)アフターサービス: 竣工後の不具合に対応するため、工事業者との間でアフターサービス体制を確認します。
※大規模修繕工事を成功させるために
<マンションのビジョンの策定と居住者の意向調査>
大規模修繕工事や長期修繕計画を見直すには、居住者の意向調査が欠かせません。そもそもマンションに住み続けたい居住者がどの程度いるのか、あるいは多くの居住者が転居を考えているのか。それはなぜなのか。それらのニーズをもとに、対策等を考える必要があります。
長期修繕計画に示された時期なので大規模修繕工事を行うというのは、タイミングとしては良いかもしれませんが、マンションの居住価値づくりにとってはどうなのか。したがって、早めにビジョンの見直し等を実施するために、居住者アンケートによって居住者の意向調査の実施が欠かせません。
その上で、アンケートの集計を全戸にレスポンスし、同時に説明会やワークショップによって、居住者の考えていることや他のマンションの事例などを説明し、ワークショップを行ってみんなでワイワイガヤガヤと意見を出し合い、マンションのあるべき姿を見つけていくのです。
それによってマンションが、思っても見なかった長所や改善・改良すべき点などが見出されていきます。それらはハード面とソフト面があるので、ハード面は長期修繕計画に落とし込めるのかを専門家を交えて費用面も同時に検討します。ソフト面はアンケート、説明会、ワークショップ、そしてなんといってもコミュニティの醸成を意識した取り組みが欠かせません。これらが大規模修繕工事を成功に導くことにつながります。
意見交換会とワークショップはそれぞれ異なります。前者は発言した人はそれなりの満足感はあるものの、結論や成果はあまり期待できません。ワークショップはテーマに沿ったアンケート結果の説明や事例などを共有し、批判厳禁で自由に意見をポストイットに書いていき、人の意見をうまく使ってさらなるアイデアや角度の異なる意見を書くこともできます。つまり、意見の輪が広がり、成果が出やすいのです。これらの作業によって一体感などができ、マンションで大事なコミュニティが醸成されていきます。
このような積み重ねが大規模修繕工事を成功に導くのです。
【(一社)埼玉県マンション管理士会】
大規模修繕工事を実施する前に、大規模修繕工事とは、下地補修、シーリング工事、外壁の塗装、外壁タイルの補修や洗浄、屋上やバルコニーの防水工事、廊下・階段床の改修工事や化粧防水工事を行うことで言わば「建物のお化粧直し」です。そして①建物を見る・知る、②みんなに知らせる、③どんな修繕をするのか、④組合組織の体制づくり、⑤中立性を保持したパートナーの選定、等々を図る事により工事の重要性と緊急性が明確になり工事の優先順位が定められます。特に建物診断と組合員の意見聴取による建物を総合的に知り修繕履歴・修繕方法・概算費用を周知することが意思決定の基準になります。長期修繕計画に惑わされない事も思料してください。低コストな代替策はありません。修繕積立金から拠出できる予算範囲と次の大規模修繕工事の為に残原資を想定することが大事です。借入金にて工事費を賄う手段は最後の切り札としてください。修繕費用の動向は、年度末(2月中旬)に国土交通省が公表する「公共工事設計労務単価・技術者単価・保全業務労務単価」が参考になります。長期修繕計画に物価上昇率を考慮して工事費支出を計上し中長期計画(10年~15年)でみる場合と短期計画(5年)にて計上する場合があります。マンション建物の築経過年数により選定してください。工事範囲の精査は、直接仮設工事(足場仮設費)の多寡により左右されます。その工事の足場架設の有無を確認してから、その工事が延伸できるかを見定めてください。決定権は組合員の皆様にあるのです。