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管理組合運営

第3回:修繕積立金を無駄に使いたくないのですが・・・

第3回:修繕積立金を無駄に使いたくないのですが・・・

管理会社から、中期修繕計画の中で5年周期で実施することになっている鉄部(玄関扉等)の塗替え工事の時期なので、早急に検討してほしいとの話がありました。これを受けて理事会で話し合った結果、鉄部の塗替え工事の周期を大規模修繕工事と同じ10年に変更し、修繕積立金の支出を抑えようとの意見で一致しました。

 ところが、管理会社に計画の見直しを指示したところ、5年周期でなければ保証はできないと一蹴されてしまいました。この管理会社が言うように、鉄部は本当に5年周期で塗り替えなければいけないもの
なのでしょうか?

【NPO匠リニューアル技術支援協会の回答】

鉄部の塗替え周期を10年にすることは、技術的に不可能なことではありません。また一般論ですが、5年周期から10年周期に変更することにより、長期的(30年間)にはコストを2割程度削減することができます。

鉄部を塗装する主な理由はさびを防ぐためです。建物鉄部に発生するさびの多くは、鉄部が雨や結露といった水に触れることにより発生します。これを防ぐために、鉄部の表面を塗装して薄い膜を作り、鉄部を保護しているのです。この膜の耐久年数が塗り替え周期となるので、この膜をしっかりと作り上げればいいのです。そのためには、次のことに注意する必要があります。

●塗料の選定
建物に使われている鉄材には、玄関扉のような薄い板状のものから、外階段などに使われているH型鋼材など鉄のかたまりに近いものまで様々なものがあります。また、常に日照や雨にさらされている鉄材や結露しやすい場所にある鉄材もあります。こうした形状や環境条件の違いにより最適な塗料は異なってきますので注意してください。

●工法
塗る場所の下地処理の仕方や、塗り重ねる回数など、工法によって耐久性は大きく違ってきます。

●施工業者の選定
施工業者の技術力も重要です。業者を選定する際には、できればその業者が10年前に施工した物件の現場視察を行い、技術力を確認しましょう。

こうした作業は、管理会社の言いなりではなかなか正しく行えません。やはり設計コンサルタントなどの専門家に相談したほうがいいでしょう。なお、専門家の選定においても施工業者選定と同様に現場視察などを行い、信頼性を事前に確認することが肝要です。

なお、玄関扉の末端部や鋼材の溶接部など、均一な塗膜を作るのが難しい場所はどうしてもさびやすくなります。これらの部分には日ごろから目を配り、できるだけさびを発生させないよう気をつけましょう。


【NPO日本住宅管理組合協議会の回答】

NPO日本住宅管理組合協議会からは、修繕積立金の節約について、別の観点から事例を交えてご説明します。

管理組合は計画的な修繕のために「修繕積立金」を積み立てています。「長期修繕計画書」とはその根拠となるもので、長期の計画修繕について「どこを」「どのように」「いくら」で修繕するかが記されています。大規模修繕工事は原則としてその計画書に基づいて定期的に行います。しかし、修繕積立金を無駄に使わないためには、ただ漫然と計画書どおりに行えばいいというわけではありません。大規模修繕工事が実施される少なくとも3年前には「大規模修繕委員会」を設置するなどして、準備段階から慎重に、かつ失敗のないよう取組みましょう。

【事例より】
さいたま市のあるマンションでは、大規模修繕委員会による年2回の目視点検を実施しています。大規模修繕工事にその結果を生かすのが主たる目的ですが、同時に、委員すなわち住民に、自分たちのマンションに愛着を持ってもらうことも目的としています。

目視点検は、コンクリートのヒビ割れ、塗装の剥離、敷地の凹凸、屋上の防水状態等について、いくつかの班にわかれて実施します。関係者は朝9時に集合して、点検時の注意点を確認した後、点検者・撮影者・記録者の3人1班で建物を点検していきます。約2時間後に関係者は再度合流し、各班から問題点などを報告してもらい、話し合います。

ある時、この目視点検の結果、屋上防水について疑問が生じたことがありました。後日、専門家に確認してもらった結果、シートの防水塗装が必要だと判断されました。修繕計画書によると、その工事はまだしばらく先の予定でしたが、屋上防水の重要性を考え、臨時総会に諮り即実施しました。また、修繕が必要なタイルの浮きを発見したこともありました。委員会のメンバーは月1回の勉強会で事前学習をしていたとはいえ、素人もかくの如く、なかなかのものです。

この事例からわかるように、長期修繕計画書が策定されているからといって、建物を見ずに、計画書だけを見ていたのでは、大変な失敗をしてしまうことがあります。あるマンションでは、給水管が錆びて赤水が出ているのに、「給水管の交換時期はまだ先だ。」と考え、放っておいたそうです。やがてその給水管は破裂し、そのマンションの住民は大損害を受けました。

定期的な健康診断によって異常を早期に発見し、大事に至らないようにするという「予防医学」の考え方は、人の体だけでなく、マンションの建物の維持管理にも当てはまります。長期修繕計画書はあくまでも「目安」と考え、日常の目視点検や専門家による建物診断を重視しましょう。手間ひまや経費はかかりますが、それによって無駄な費用や不要な費用の発生を抑えることができるのです。

なお、工事の実施にあたっても注意が必要です。修繕積立金を無駄に使わず、かつ、質の良い工事を行うためには、「公正性」と「公開性」の確保が絶対条件です。業者を決定する際には、業者を比較するための基準を明確に定めるとともに、その業者に決まるまでのプロセスを公開しましょう。このことは、費用の節約だけでなく、工事へのマンション居住者の理解を深めるのにも役立ちます。

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