マンション管理コラムColumn
居住者間のマナー
第4回:我慢できない生活騒音
【NPO日本住宅管理組合協議会の回答】
まず、最近あった共同住宅での生活騒音についての裁判の事例を紹介します。
この裁判は、板橋区のマンションの1階に住む男性が、2階の男児が騒ぐ音により精神的苦痛を受けたとしてこの男児の父親を提訴したものです。男性は、この家族が2階に引っ越してきて以来、男児が室内を走り回ったり跳びはねたりする音に悩まされるようになりました。抗議をしても、男児の父親は「文句があるなら建物に言ってくれ」などと取り合わず、やがて男性の奥さんは不眠症となり体調を崩してしまいました。そこで男性は、騒音計などで音を測り、この裁判を起こしたのです。
この裁判の判決は、平成19年10月3日、東京地裁でありました。裁判官は、当時3?4歳だった男児がほぼ毎日大きな音を出していたと認定し、「騒音の程度は50?60デシベルとかなり大きく、深夜に及ぶこともあった。騒音が夜間階下に及ばないよう、被告は男児をしつけるなど住み方を工夫し、誠意ある対応をするべきだった」として、男児の父親に36万円を支払うよう命じました。「被害のわりに金額が少ない」と思われるかもしれません。しかしこれまで、「受忍の限度は超えているが、我慢すべき」というような、なんとも歯切れの悪い判決ばかりだったこの種類の裁判においては画期的なものでした。
次に、生活騒音について考えてみましょう。生活していく上で、ある程度の音をたててしまうのはやむをえないことです。問題は、その音をどのように感じるかということです。一般的に私達は、「自分」が出す音には鈍感で、「他人」が出す音には敏感です。まずはそのことを意識して生活することが大切です。「他の部屋の音がうるさい」と感じている人が、実はその階下の人から「もっと静かに歩いてくれないかな」と思われているということもありえます。
また、「他人」である階下の赤ちゃんの泣き声は、気になりだすと無制限に耳に届きます。しかし、「自分」がよく知っている階下の赤ちゃんの泣き声は、あまり不愉快には感じないものです。日ごろから近所づきあいがきちんとできるようなコミュニティが形成されていれば、音をなくすことはできなくても、音を原因とするトラブルを減らすことはできるのです。
コミュニティは自然発生的に形成されるものではありません。夏祭りや防災訓練、挨拶運動などを通して意図的・計画的に作り上げていく必要があります。また、総会も重要です。オープンで発言自由な雰囲気の総会がきちんと行われていれば、自然とよいコミュニティが作られていくはずです。
冒頭に紹介した裁判で訴えられた男児の父親も、近所付き合いを普通に行い、「階下に迷惑をかけてはいけない」という極めて当たり前の考え方をもって行動をしていたら、男児がたてる多少の音は我慢してもらえたかもしれません。
生活騒音問題の解決は容易ではありません。一人で抱え込まず、管理組合など他の人と連携して、地道に努力していくことが必要でしょう。
【社団法人埼玉県建築士事務所協会の回答】
まず、上階の騒音についてです。そのマンションの防音性能や構造的状況(床スラブ厚、二重天井など)が不明ですが、「L-45」といった遮音性能の非常に高い床材を使用した場合でも、子供がフローリングの上を走る音は防ぎきれず、階下に響いてしまうことがあります。
物理的な防音対策としては、床にカーペットを敷いてもらうことが考えられます。その際に、カーペットの下に防振マット・防音マット等を入れてもらえれば、一層の効果が期待できます。
しかし、物理的な対策だけで音を完全に防ぐことはできません。お互いに住みよいマンションにするために、騒音防止に関するルールを定め、住民の音に対する意識を高めることも必要です。
次に、階下の飲食店の騒音についてです。夜間の騒音が一定の基準を上回っているのであれば、飲食店は、基準値を超えないよう対策を講じなければなりません。管理組合を通じて、飲食店に対策を講じるよう申し入れてみてはいかがでしょうか。それでも対応してもらえないときは、お住まいの市町村等に相談してみてください。
なお、騒音問題に取り組むには、管理組合等の力が必要です。より良いコミュニティを形成する意味でも、日ごろから管理組合の活動には積極的に協力・参加するよう心がけましょう。