マンション管理コラムColumn

建物の不具合

第13回:空調用スリーブの設置について

第13回:空調用スリーブの設置について

同一の管理組合において建設年次の古い棟と新しい棟を管理している。新しい棟にはすべて空 調スリーブが設けられているが古い棟の北側バルコニーには設けられていない。このため、古い棟の入居者から空調スリーブを設ける多数の要望があった。

このため理事会において、管理組合負担でバルコニーのない1階を除くすべての住戸に空調スリーブを設ける議案を総会に諮ることを決め、総会において過半数(3/4には不足)で決議した。

総会後、スリーブ開けは構造躯体に穴を開けるため、供用部の変更となり決議には3/4以上の賛成が必要であり、決議された議案は無効であるとの抗議があり苦慮している
そこで次の点について教えてほしい。
①総会議決は、過半数の賛成でよいか、議決権もしくは議決権者の3/4以上の賛成でよいか。

②総会決議がなされ、工事を実施する際にスリーブの穴開けを区分所有者から拒否された場合、工事を強制できるのか、強制できない場合は管理組合として取り得る対応策にはどのようなものがあるのか。

(※なお、当該管理組合の規約は、旧標準管理規約を流用している。)


【NPO埼管ネットの回答】

前提1:団地関係
スリーブの設置について棟総会に諮ったとしていますから、基本的に各棟は単棟型の標準管理規約を使用し、団地附属施設についてのみ全棟の区分所有者で規約が設定されている(各棟の管理に関することは各棟総会で単独に決議できる)ことを前提とします。

前提2:工事内容
北側のバルコニー(に面する壁)にスリーブを設ける(躯体に穴を開ける)工事が建物の構造上支障の無い工事であることを前提とします。

前提3:規約は平成16年1月改正前の標準管理規約(以下旧標準管理規約)を使用

旧標準管理規約では 敷地及び共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)(45条3項二)は 組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する特別多数決となっています。

前提1,2については議論の余地はありませんからこの問題は旧標準管理規約単棟型を採用している管理組合で空調スリーブの設置工事(壁の穴あけ工事)の実施決議が普通決議でよいか否かの問題になります。

抗議者の過半数での決議は無効であり4分の3以上の特別多数決議が必要とする根拠は、
1)空調スリーブ工事が改良を目的とした工事ではない。
2)著しく多額の費用を要する工事である。
の2点にあると思われます。

ところで、平成14年に改正された区分所有法(以下改正区分所有法)では、「共用部の変更はその形状又は効用の著しい変更を伴うものに限り4分の3以上の特別多数決」(法17条1項)としました。
つまり、共用部の変更における費用の多い少ないは特別多数決の要件からはずされました。
これを受け平成16年1月に標準管理規約(以下改正標準管理規約)も同じ内容に改正されています。(規約47条3項二)
従ってこの管理組合が標準管理規約の改正にあわせて規約の改正を行っていれば工事費用の多少に関しては特別多数決の要否の議論は起こらないことになります。
この問題は区分所有法が改正され、遅れて標準管理規約が改正されて数年以上過ぎた現在でも管理規約が改正されていない管理組合で生じる問題です。

それでは上記の区分所有法及び標準管理規約の改正がされている現状を踏まえて上記の2点について検討を進めます。

「一問一答改正マンション法解説」(法務省民事局参事官編著)2003年(株)商事法務発行に質疑応答に似た事例が掲載されています。

(以下引用)
Q:大規模修繕工事の決議要件を4分の3以上の特別多数決と定めてあるマンションで大規模修繕を実施するには、どのような手続が必要ですか。………以下省略

A:これまでは、共用部分の変更について、その形状又は効用の著しい変更を伴わないものであっても、著しく多額の費用を要する行為を実施するには、4分の3以上の特別多数決が必要でしたが、これでは、建物の維持保全の観点から定期的に実施することが予定されている大規模修繕の円滑な実施が阻害されるという指摘がありました。そこで今回の改正では、共用部の変更について、その形状又は効用の著しい変更を伴うものに限り、4分の3以上の特別多数決議を要することとしています。(17条第1項)
ところで、相当数の分譲マンションが中高層共同住宅標準管理規約(平成9年2月7日住宅宅地審議会答申)に準拠して規約を定めているようですが、同標準管理規約では「共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)」については、4分の3以上の特別多数決で決めるものとされており、こうした規約に従えば、著しく多額の費用を要する大規模修繕については特別多数決議が必要になるとも考えられます。
しかし、前記標準管理規約は、その規定振りから、区分所有法で特別議決事項とされているものを確認的に明らかにした趣旨にすぎないものと考えられますから、区分所有者の意思解釈からいっても、今回の法改正後も、こうした規定の効力がそのまま維持されると見るのは無理があるでしょう。また、仮にこうした規定の効力が維持されるとすると、結局、4分の3以上の特別多数決が必要な規約の変更の手続を経なければ大規模修繕を実施することが不可能になって、今回の法改正の趣旨が没却されることになります。前記標準管理規約のような規定がある場合(大規模修繕の決議要件を4分の3以上の特別多数決と定めている場合も同様に考えられます。)でも、一般的には改正法施行後は、普通決議で大規模修繕を実施できるものと考えられます。(引用終わり)

以上の文章から旧標準管理規約の共用部分等の変更についての4分の3以上の特別多数決は旧区分所有法を「確認的に明らかにした」に過ぎない。また、旧標準管理規約の規定が維持されると今回の区分所有法改正の「趣旨が失われる。」従って、旧標準管理規約のような規定がある場合でもマンション法改正後は共用部の変更について、その形状又は効用の著しい変更を伴うものでなければ、著しく多額の費用を要する場合でも普通決議で実施できると結論付けることができます。

この結論を当該問題に当てはめると空調スリーブ工事の費用の額は特別多数決議の要件にならないことになり、空調スリーブ工事(壁の穴あけ工事)が「形状又は効用の著しい変更伴う工事であるか否か」が特別多数決議か普通決議かの判断要件になります。

改正標準管理規約コメントで「IT化工事に関し、光ファイバー・ケーブルの敷設工事を実施する場合、その工事が既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えることなく実施できる場合や、新たに光ファイバー・ケーブルを通すために、外壁、耐力壁等に工事を加え、その形状を変更するような場合でも、建物の躯体部分に相当程度の加工を要するものではなく、外観を見苦しくない状態に復元するものであれば、普通決議により実施可能と考えられる。」(コメント47条関係(5)エ))としています。

団地内の築年の遅い棟では空調スリーブが新築時から設けられていることを考慮すればスリーブ設置工事は明らかに改良工事であること、構造的に問題の無い工事であること(前提①)、特段に外観を見苦しくする工事ではないこと等を勘案すればこの空調スリーブ工事は「形状又は効用の著しい変更伴わない工事」であり、IT化工事と同様に普通決議により実行可能と考えられます。

当該議案の総会議決がなされ工事を実施する際にスリーブ穴あけを区分所有者から拒否された場合工事を強制できるか。強制できない場合の管理組合がとりえる対応策は?

スリーブ設置工事は一般的には専用部である内部仕上げ材(石膏ボードやビニルクロス)の穴あけ工事を伴い、躯体(共用部)の穴あけだけでは済まない工事です。また空調スリーブ工事はある区分所有者の部屋の工事が出来ないことで他の区分所有者に影響を及ぼす工事ではありません。従って、当該区分所有者の同意なしに強制的に工事をすることは難しいと思われます。工事を拒否する区分所有者に工事の趣旨を十分説明し粘り強く説得し同意を得ることが肝要と思います。


【一般社団法人首都圏マンション管理士会埼玉県支部の回答】

Q-①

〔回答〕
組合員及び議決権の4分の3以上の多数による決議が必要です。

共用部分の変更は、区分所有法第17条1項の総会決議が必要ですが、その決議要件の内容は、変更が
ア) 共用部分の形状または効用の著しい変更を伴う場合、
イ) それ以外の場合、とで異なります。

ア)の場合は、組合員及び議決権の各4分の3以上の多数による総会の決議で決しなければなりません(特別多数決議)が、イ)の場合には、普通決議で決することができます(標準管理規約によるとのことですので、普通決議は、議決権総数の半数以上を有する組合員が出席し、出席組合員の議決権の過半数の決議となります)。

なお、設問の管理組合は旧標準管理規約を使用しているとのことですので、上記区分所有法の定めと異なり、規約上は、改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要する場合に特別決議によらなければならないという内容になっているものと思われますが、平成14年に上記の内容に区分所有法に改正されたことに伴い、規約も変更に要する費用の多募でなく、形状または効用の変化の度合いによって決まると読みかえてよいと考えられます。

それでは今般の空調用スリーブの穴明け工事は、「著しい」形状または効用の変化に該当するかどうかですが、設問の「別棟の1階を除く階」という限定された共用部分への形状、効用の変化とはいえ、構造躯体への穴あけ工事は、棟建物全体の躯体部分に相当程度の危険を及ぼす可能性がありますし、配管のカバーの取付けは、外観や外壁の修繕工事に支障を及ぼすことから、特別決議を要する著しい形状の変更にあたると解すべきでしょう。

また、裁判例としても、換気装置の設置目的で、建物の外壁に円筒型の開口部を空けた行為を建物の保存に有害な行為に当たるとするものがあります(東京地判平3・3・8)ので、こうした点からも、より慎重な決議である特別多数決議で決するべきといえるでしょう。

Q-2

〔回答〕
法律的には、総会決議にしたがい、工事に協力するよう、請求できます。ただし、・・・・・。

専有部分へ立ち入らなければ施工ができない工事は多々考えられますが、それら各種工事の拒否を各区分所有者が主張すると、総会の決議が無意味になり組合運営に支障をきたす事になりかねません。

こうしたことにならないように、区分所有法も、各組合員が総会決議に従う義務があるとしています(同法6条1項、46条1項参照)ので、法律的には、総会決議に従う義務や妨害行為が共同の利益に違反する行為にあたることを根拠に、工事への協力を請求したり、妨害を排除したりできるということになります。

ただし、マンションは、共同生活の場ですので、こうした法的強制の手段をとる前に、構造躯体への穴あけをしても建物の安全性に問題が生じないことについて理解を得られるよう、できる限り努力するのが大前提となります(上記で紹介した裁判例からもわかるとおり、構造躯体への穴あけは、建物に重大な影響を与える可能性があるため、不安を持つ組合員がいることは当然ともいえます)。

専門家による調査・指導のもと、建物の安全性に問題が生じないための措置をとり、これについて十分な説明を行ったとしてもなお妨害行為が予想される場合には、工事の拒否によって生じる不利益を、前もって書面にて周知しておくことが妨害予防のために一定の効果があると思われます。

例えば、「今般の工事部位は、共用部分であるため、今回の工事完了後に、各区分所有者が独自の判断で工事を行うことはできない。工事費減額分相当の管理費等の返還は規約の定めにより応じられない。」等の形で生じうる不利益を列挙して通知しておくことなどが考えられます。

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