マンション管理コラムColumn

建物の不具合

第32回:専有部分の給湯管の経年劣化による漏水トラブルと対応について

第32回:専有部分の給湯管の経年劣化による漏水トラブルと対応について

築25年80戸のマンションです。昨年4月頃から給湯管の経年劣化による漏水事故が相次いで発生しました。昨年3件、今年2件計5件となっています。
今年の漏水事故の内、特に被害が大きかったのは305号室の漏水事故で、下階205号室だけでなく104号室迄被害が拡大してしまいました。
管理組合としてもマンションの土地建物、設備等の維持管理をする立場から、「専有部分である給湯管の更新をするかどうかは各区分所有者の自主判断」では済まないと思っています。
管理組合として給湯管の経年劣化に対する対応を今後どのようにしたらよいでしょうか?
また、給排水管の改修を考えていますが、専有部分はその区分所有者の負担でやるのが良いのか、修繕積立金を使っても良いのか、悩んでいます。他の管理組合ではどのように行なっているのでしょうか。


【NPO日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】

専有部分の配管(排水管、給水管、給湯管)については、法に基づくと、その持ち主である区分所有者の負担することになっています。
しかし、調べると以下の4つの考え方に分類されているのが実態です。

(1)規約は改正せずに、総会決議で、専有部分を管理組合が工事し、費用は各区分所有者が負担したケース
・規約通りに行った。

(2)規約は改正せずに、総会決議で、専有部分を管理組合が工事し、費用は修繕積立金より支出したケース
・専有部分を各区分所有者の負担とすると、やらない住戸がでてきて、漏水などの諸問題が起きる。
・「改修委員会」が検討し、理事会へ答申するというシステムが古くから機能し、その答申が住民全体の信頼を得ている。
・常日頃、住民同士の意思疎通があり、そのマンションに合った問題解決していくという意識が醸成されている。

(3)規約を改正し、総会決議によって、専有部分を管理組合が工事し、修繕積立金より支出したケースA
・共用部分と専有部分との分け方は、極めて恣意的で、不明確なものも相当ある。
・修繕積立金とは、区分所有者から集めた修繕費であり、自分たちで工事できにくい部分の費用も修繕積立金の中に入っているという意識がある。
・共用部分とか専有部分とかの区別よりも費用負担をシッカリすることが大事である、との認識から、規約に「修繕費用負担区分」を設け、ここに「共用部分であるが、個人負担としている部分」を修繕積立金の負担として入れた。

(4)規約を改正し、総会決議によって、専有部分を管理組合が工事し、修繕積立金より支出したケースB
・規約に「共用部分と一体化した専有部分について、修繕積立金で行なう」ことを入れた。
・「一体化した専有部分」だけでなく、「一体として(管理組合が)行わなければ共用部分の管理が実施困難な場合」「(管理組合が)一体として実施する合理的な必要性がある場合」も、規約に反映した。

以上の4分類があり、給湯管も含めた専有部分の配管もこれらに当てはめて考えることができます。どれが自管理組合とって他のこととの整合性があるのかなども含めて考えていくとよいと思います。
給湯管の劣化が著しいと考えられることから、管理組合として実施することが望ましいと思います。費用については4分類を参考にしてください。
以上


【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
専有部分である給湯管及び給排水管等の枝管の維持管理は、本来それを所有する各区分所有者の責任と負担で行うべきものですが、専有部分から給湯管の経年劣化が原因と思われる漏水事故が昨年から相次いでおり、被害は305号室の漏水が下階では済まずに104号室にまで被害が拡大していることから、マンション設備全体の管理上、給湯管更新工事が急務と思われます。
管理組合はマンション建物・設備等に漏水事故等(経年劣化による)の影響がある給湯管や共用部分と専有部分とが構造上一体となった給排水管の枝管の管理については、管理組合の業務としてこれを行うことができます。(第21条2項)
しかし、各区分所有者による工事のために必要な資金の一時的調達の難しさから円滑な一斉工事の実施が困難となる事態が想定されます。そこで、その事態を回避し円滑な一斉工事を行うために、管理組合が、給湯管及び枝管工事(専有部分)費用を修繕積立金から支出することも可能とする必要があります。そのためには、この根拠となる管理規約の一部を改正する必要があります。
修繕積立金から支出可能とする管理規約の一部改正案を以下に提示します。

管理規約改正案(骨子)
① 管理規約(管理規約第21条第2項)の_部分を挿入する改正で可能になります。
「専有部分である設備のうち給湯管及び共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がその責任と負担においてこれを行うことができる。」
② 「専有部分の給湯管更新工事及び枝管改修工事(専有部分)費用を修繕積立金から取り崩しが可能である」(第28条1項)
③「専有部分の給湯管更新工事及び枝管改修工事(専有部分)が管理組合の業務」(第32条8号)
④「その工事は修繕積立金を取り崩す必要があるので総会の特別決議(各3/4以上の賛成)とする」(第48条6号)
⑤「総会での管理規約の一部改正案は特別決議事項」(第48条4号)

規約改正にあたっては、慎重を期すために、マンション管理士等の専門家に相談されることをお勧めします。また、工事実施の際には、専有部分の費用負担に関して、各戸の事情の違い(組合員が、すでに自費で工事を実施済みである場合、一定の補填金を支給等)が想定されますので、区分所有者間の衡平を十分に考慮して決議する必要があります。
以 上


【NPO匠リニューアル技術支援協会埼玉支部の回答】

「築25年での給湯管の漏水」とのことですが、給湯用銅管の劣化の現象として、多くのマンションで今までも起こっているケースです。
給湯用銅管(CU管)の劣化は、材料である銅管の素材―銅の金属腐食のメカニズムとして、マンションが建築されて築25年程度を経過すると、ピンホール(孔食)の形で現れてきます。このピンホール(孔食)という劣化の症状は、一か所で発生すると、同時多発的に発生し、また、毎年も発生し続け、避けることは出来ない現象です。
マンションの維持管理として、管理組合の視点から考えると、お考えのように、「給湯管」は給湯器から室内部分の配管設備であることから、区分所有法では「専有部分」であり、管理組合の管理対象の「共用部分」ではないということになります。
ですので、専有部分―室内の配管設備は基本的には所有者個人の問題、ということになります。ただ、ご質問をいただいた方の疑問のように、漏水事故による被害の発生―という事例が多くなってくると、マンションの管理組合としてそのまままでいいのか、という意見が増えてきていることは事実です。
現在、この問題についての考え方として、国土交通省が作成した「マンション標準管理規約」21条2項では、「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。」とされ、専有部分の配管設備も共用部分の配管設備と一体という考え方も出てきて、この問題についての認識が少しずつ変化してきています。(但し、標準管理規約21条2項は、具体的には、排水管の定期メンテナンス―排水管ジェット清掃作業を想定した記述です。)
また、埼玉の例ではありませんが、東京都住宅局の「長期修繕計画ガイドブック」では、「室内の給水排水配管設備」については「専有部分だが、規約により共有部分とすべき部分」と、表現されています。
実際、今、マンションの管理組合では、「室内の給水排水配管設備」については、管理組合の管理範囲扱にする、あるいは、そのような形で検討を進めている管理組合が増えているように伺います。
おそらくそれは、本来、「所有者個人の判断」に任すべきところではありますが、漏水事故は階下の住戸に被害が及ぶことから、同じ管理組合の組合員同士で「被害者」「加害者」の関係が発生してしまう、そのことを避けるためにどうすればいいか、ということが理由と思われます。さらに重要なことは、専有部分―室内の配管設備を管理組合の管理対象の範囲にする―ということは、マンションの全ての住戸を対策工事の対象にすることができることになります。つまり、「もれなく」、問題の原因を対策できることになります。
ご質問いただいた方のマンションは、今、この問題を真剣に検討するいい機会と思います。
「専有部分の給水排水配管」は、管理組合の「長期修繕計画」の対象にはされていないケースがほとんどです。「長期修繕計画」の対象ではないということは、この専有部分―室内の配管設備の対策の問題は「長期修繕計画」の予算に含まれていないということになります。また、「専有部分の配管設備」は、給湯管だけではなく、キッチンの流し台を見ていただいてもわかりますように、給水管・排水管もあります。もし、給水管も金属製配管、排水管も金属製配管とした場合、そのすべてを対象とした対策工事―「専有部分の配管設備」の改修工事の費用は、マンション全体でおよそ、大規模修繕工事1回分の費用に相当するものと想定されます。
その意味でも、なるべく早い時期から検討されることが、マンションの維持管理上、非常に重要なことと思われます。

NPO法人 匠リニューアル技術支援協会
設備(給排水部門) 専門委員 檜山裕一

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