マンション管理コラムColumn

管理組合運営

第16回:役員の資格と住民活動協力金について

第16回:役員の資格と住民活動協力金について

築39年の4棟、868戸の団地で、管理組合の活動のほか、自治会活動(防犯パトロ-ル、夏祭り、消防訓練、公園清掃等)も行っています。現在、868戸のうち、不在組合員は214戸(賃貸戸数134戸、空き家80戸)であり、70歳以上の世帯数は277戸(348人、独居者81人)といった状況です。管理規約には役員の資格について「理事及び監事は、団地に現に居住する組合員のうちから団地総会の決議で選任する。」と規定されているため不在組合員は役員になれません。又、役員の選任は輪番制を採用していますが、最近、高齢を理由にして役員を断る組合員もおり、不公平感が高まっています。

そこで、役員の資格について管理規約を改正して、現住組合員以外にも役員の資格の範囲を広げることを検討していますが、どのように規約を改正したらよいでしょうか。又、不在組合員に対する不公平を是正するために、規約を改正して住民活動協力金を課すことを検討しています。その場合、印刷代・通信費等の実費相当額を超えて住民活動協力金を請求できる規約の改正は可能でしょうか。住民活動協力金の額はいくら位が妥当でしょうか。


【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
管理規約に「理事及び監事は、団地に現に居住する組合員のうちから団地総会の決議で選任する。」と規定されている場合には、居住組合員以外の不在組合員や組合員の同居人、賃借人等の占有者は役員になれません。

役員資格を居住組合員に限定するのは、「役員は管理組合の業務執行等に関して重要な職責を担うものであるから、現にマンションに居住して管理の現状を知るとともに一般組合員の声が聞け、機動的に開催される理事会へ容易に出席できる者」であることが必要であり、又、「マンションの管理の主体は区分所有者であり、区分所有者こそが共有財産の管理に最も関心が深く、かつ、管理の自覚も高い」という理由からです。

しかし、居住要件についていえば、大部分の区分所有者が当該マンションに居住していることが前提であるため、設問の団地のように不在組合員が214戸もいる場合には居住要件の見直しをしてもいいでしょう。

又、組合員要件についても、組合員よりも同居人や占有者の方が日常の管理状況をよく認識している場合もあり、理事会にも容易に出席でき、管理に関心が高く、積極的に役員になりたいという者もいるでしょうから見直しをする必要があるでしょう。

管理規約を改正して居住組合員以外の者を役員にするためには「現に居住する」要件と「組合員」要件を見直すことが必要です。即ち、不在組合員を役員にするためには「現に居住する」という文言を削除して「理事及び監事は、組合員のうちから団地総会の決議で選任する。」と規定し、又、同居の親族や占有者を役員にするためには「組合員」の文言を削除するかその後に追加して「理事及び監事は、団地に現に居住する者のうちから団地総会の決議で選任する。」とか「理事及び監事は、団地に現に居住する組合員又は同居の親族若しくは占有者のうちから団地総会の決議で選任する。」と規定します。

設問の管理組合の様に868戸のうち不在組合員は214戸(賃貸戸数134戸、空き家80戸)と多く、しかも70歳以上の世帯数が277戸(348人、独居者81人)と高齢化している場合には、輪番制で役員になるとしても居住組合員の負担が大きく不在組合員に対する不満や不公平感が強くなってきます。
そこで、この不公平感を解消するために不在組合員に対してだけ管理費等とは別に住民活動協力金を課すことはできないかが問題になってきます。
不在組合員だけに月額2,500円の住民活動協力金を負担させる規約は区分所有法第31条1項後段の「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当し、不在組合員の承諾のない規約改正は無効であると訴えた事案において、最判平成22年1月26日では、①居住組合員だけが役員に就任し、組合員全員のためにマンションの維持管理に努めているのに対して、不在組合員は役員になる義務を免れ、その利益のみを享受している。管理組合の業務は組合員全員が平等に負担すべきものであり、業務分担が一般的に困難な不在組合員に対して一定の金銭的負担を求めることにその必要性と合理性が認められる。②金銭的負担が管理費等17,500円の約15%増しの月額2万円にすぎない等の理由により「本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、住民活動協力金の額も含め、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず、本件規約変更は、法66条、31条後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。」として規約改正は有効としました。

この判決では、不在組合員の割合、管理費等との割合、反対者の割合等を比較衡量して有効としたものです。この管理組合では当初5,000円とした住民活動協力金を裁判の過程で高いとされ2,500円に変更しています。ただし、2,500円なら有効と判断するのは危険であり、不在組合員の割合、管理費等との割合、反対者の割合等からみて2,500円でも無効になる可能性があると考えるべきです。

従って、住民活動協力金の額についていくら位が妥当であるか一概に判断することは困難であり、不在組合員の割合、住民活動協力金の管理費等との割合、反対者の割合等を総合的に判断しその額を決定することになると考えます。


【NPO法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】
内容に入る前に二点、前提としてのべておく問題があります。第一点ですが、マンション管理組合は、区分所有法などの関係法律と公序良俗に反しない限り、区分所有者の合意で自由に規約を決めることができるということです。ですから裁判の判決も、その組合でどういう規約や細則、総会決定をもち、実際にどういう運営が行なわれているか、その規約などは関係法規に違反していないか、社会一般の守るべき秩序や常識に反していないかなどを判断するだけで、一般的にどういう規約を決めなければならないか、組合費などがいくらなら妥当かなどは管理組合の判断にまかせ、裁判所がこまかく干渉しないのが通例だということです。第二点は、この「マンション問題研究室」というのは、個別問題についての単なるQ&Aではなく、広くいろいろなケースに参考にしてもらうために、いくつかの角度から役に立つ情報や見解を複数の団体から提供するシステムをとっており、一般に決まりきったこと以外はこれが正解だと断定するものではないということです。

本題に入ります。まず役員の資格の範囲ですが、それは組合員の要求や意見によって、合意によりどのようにも決めることができます。そもそも区分所有法では、役員の資格に限定がなく、区分所有者以外のまったくの第三者が役員になっていけないという条文はないのです。標準管理規約では役員の資格を「居住している区分所有者」に限っていますが、これはあくまでも「標準」であって強制力のあるものではありませんから、管理組合で必要だと考えたらいつでも変更が可能です。しかし、この規定はもともと居住していない区分所有者では役員の仕事が務められないので除外してあるわけで、区分所有者全体に広げても実際にはあまり効果が上げるとは思われません。質問に書かれている事例は、最近(2010.1.26)最高裁判決のあった大阪のマンションのケースを部分的に変えて利用しているようです。この大阪の事例では役員の範囲を「(本件マンションに居住する)区分所有者、その配偶者、3親等以内の親族」としています。標準管理規約と比較すると親族まで範囲を広げており、一般にはそれが有効に働きます。しかし、このケースではそれだけ範囲を広げても役員体制の確立が難航しているという点が、そもそも次の住民活動協力金という考え方が出てきた理由ですから、「当該マンションに住んでいる親族に広げる」では答にはなりません。それ以上広げるとしたら賃貸居住者を対象とするしかありません。ただし、逆にそうした場合、今度は住民活動協力金制度との矛盾が生じます。つまり、不在所有者から“私の賃借人が役員になって管理組合の活動に参加しているのに、それでも協力金を払わなければならないのか”という異論が出るのは必然です。ですから役員の範囲を広げるということと、住民活動協力金制度を設けることとは両立しない恐れがあり、いずれにしろ制度のメリット、デメリットをよく検討し、合意を図る必要があります。

また、役員資格の点はさておくとして、不在組合員に連絡などの実費以上に住民活動協力金の制度を設けることそのものについて一応検討しておきたいと思います。最高裁は、極端な多額でないかぎり、適法であるとの判決を下しており、管理組合が相当範囲で自由に内部の規約・細則を定められることからいっても、一般に規約にその旨の規定を入れることは違法ではありません。しかし、その根拠は、区分所有者が特別多数で合意すれば違法ではないというだけのことです。「影響を受ける個々の区分所有者の承認がなくてもいいよ」と判断しただけです。しかし、この点について、地裁では認める、高裁では認めない、最高裁では認めると判断が分かれた経過からみられるように、論議の余地がある問題です。また、最高裁の判決にもあるように、不在組合員から協力金を徴収するとなった場合に現住組合員の高齢者で役員ができない人はどうかとか、さらに問題が広がる可能性もあります。そうすると若い現住組合員でも協力金を出せば役員を免れることができるかなど次々と論点が広がる可能性もあり、一層解決が困難になる恐れもないわけではありません。

ですから、住民活動協力金の導入は、安易に提起するのでなく、いろいろの方策を十分検討した上で、区分所有者の圧倒的な合意で、どうしても止むを得ないとなった場合に例外的に導入するといった性格のものです。あまり一般的には導入は勧められないと考えます。


【一般社団法人首都圏マンション管理士会埼玉県支部の回答】

★役員資格についての規約改正の件

同様の問題で苦慮されている管理組合が多数存在し、組合活動の健全な運営を図る事を目的に組合員の不公平の是正を図る規約改正は、喫緊にして重要な課題かと判断致します。規約なり、役員の業務は、組合員の共同の利益を増進し良好な住環境を確保(共有財産の維持管理)する為のものであり、その為には権利義務の公平性を保持しつつ組合員の利害の衡平が図られる様に一定の規制の中で行われなければなりません。

現在、輪番制での運営であれば棟(又はブロック)毎に理事の順番の一覧表を作成される事又新入居者のあった場合は一定期間(仮に1年間)免除し、その後は名簿の一番初めに持ってくる等(勤めた方は一番最後に記載していく)そのマンションの実情に合わせたル-ルを作成される事が必要です。この案件は理事会の引継事項として年度ごとに見直し確認が大切です。具体的な資格の範囲として、(1)現に居住する組合員(法人に有っては当該法人が自ら使用している場合その代表者若しくは役職員で代表者の委任を受けた者) (2)組合員の配偶者で現に居住している者 (3)組合員の1親等又は2親等以内の20才以上の親族で現に居住している者・・・等に拡大する条項の規約改正を総会で特別決議し、これで運営されている組合も有ります。

★不在組合員への住民活動協力金について

居住組合員と不在組合員との不公平を是正する為の規約の改正と不在組合員に対して「協力金」を求めた訴訟の上告審で、その必要性・合理性と当該組合員が受ける不利益(負担増)の比較衡量が判断基準となり、マンションの実情に即した範囲内で「特別の影響」には当たらないとし、それなりの金額を認めた最高裁の判例があります。(平成22年1月26日)

事案の概要は、総戸数868戸のうち180戸の不在化が進み、一部在居組合員の役員等の管理責任が過重負担となり、不公平感が増大し、組合運営に困難を来たす様になったために不在組合員へ月額5,000円の協力金を求める規約改正を決議した。その後2,500円へ減額し「住民活動協力金」として理解を求めたが一部不在組合員が支払いを拒否して争われた事案です。

最高裁は「管理組合を運営するに当たって必要となる業務及び費用は本来その構成員である組合員が平等にこれを負担すべきもの」と判断した上で 2,500円の負担は管理費月額17,500円の15%でありその妥当性は評価出来ると判示しています。

判断基準として(1)不在組合員が大多数を占めている事。(2)其れが管理体制なり、組合活動に甚だしく支障をさせている状況である事。(3)住民協力金の負担は衡平性を保持し得る必要性や合理性がある。(4)金額の相当性もある。(5)不在組合員の90%以上が支払いに合意しているので、区分法31条1項の後段の特別の影響には当たらない「受忍限度内」と判示しています。

即ち、その不在となった事情の如何を問わず画一的に協力金を課す事には一定の必要性、合理性、相当性、等が判断の重要な要素であると推測されます。

これらが大いにご参考になる事例ではないかと考えます。

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