マンション管理コラムColumn
管理組合運営
第21回:白紙委任状と議決権行使書
私どもの管理組合の総会はいつも出席者が少なく、ほとんどの組合員が委任状を提出されます。その委任状には「代理人を記載していないものは、議長に一任したものとみなす。」と記載してあり、ほとんどの委任状は代理人を記載していないため、実際にはすべての議案が議長の判断で決定してしまいます。
このように白紙委任を受けた議長の判断で総会の議案が可決してしまうと総会に出席して議案を審議しても無意味です。このような議決は有効なのでしょうか。
【NPO法人埼玉マンション管理支援センターの回答】
【NPO法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】
まず設問の順序からいうと後のほうからのべます。
「委任状」と「議決権行使書」は、区分所有法に規定されている制度なので、総会の招集通知に添付されているかどうかとか、規約に明示されているかどうかとかにかかわらず、どんな場合にも行使ができることはいうまでもありません。かりに規約に何も書かれてなくても、「委任状」や「議決権行使書」を拒否することができないのは当然です。
「議決権行使書」は、指定された議題への賛否を文書(電子的方法をふくむ)で表明するもので、それによって総会に参加し、その議決に参加したことになります。
「委任状」は、総会参加者(理事長、議長、他の区分所有者など)に議決権の行使を書面で委任するもので、基本的に受任者(委任状を受けた者)の見解で議決への態度を決めるという性格です。委任状に議題ごとの見解を記して委任することもでき、それを尊重するのは望ましいことですが、かりに受任者が記された見解と逆の態度をとったとしても、受任者の態度が有効な議決となります(委任者と受任者の矛盾の問題は残りますが、それは当事者同士で解決すべき問題です)。
つぎは「白紙委任状」の問題です。総会の議決の委任状のばあい、委任状を出す人は、誰かに議決についての態度を任せるわけですから、ほんらい自分の議決権を「この人なら任せられる」という信頼ができる人を指定してお願いする性格のものです。その宛名を指定しないで出すわけですから、株主総会など一般のこの種の会議の常識からいっても、理事長や議長など(標準管理規約では同一人ですが)しかるべき人に任せたとして扱ってもよいと理解されています。設問のばあいは、「代理人を記載していないものは、議長に一任したものとみなす」と記載してあるわけですから、そのことを承知で出したものとみてよく、「すべての議案が議長の判断で決定」してしまうことを了承していると判断されるのもやむを得ないと思います。このような議決であっても、有効なことはもちろんです。
法律上の見地からいえば、白紙委任状や議決権行使書が圧倒的多数であっても、議決の有効性については、まったく問題がありません。
しかし、設問でいわれている「白紙委任を受けた議長の判断で総会の議案が可決されてしまうと総会に出席して議案を審議しても無意味です」という指摘は、マンション管理組合のあり方について重要な問題を提起していると思います。「白紙」でなくても、理事長委任状がほとんどであったり、議決権行使書の提出が多数で、総会の場でどんなに一生懸命討議しても、結果は原案どおりで動かないとなれば、審議をしてよりよい結論に達するという会議本来の目的に合致していないといわざるをえません。
基本は、総会の会議に区分所有者の可能な限り多くの人に参加してもらうことです。それには理事会が、管理組合員とどれだけよく結びついているか、マンションのコミュニティがどれだけよく形成されているかが根本で、日常的な管理組合活動の内容が問われることになります。
それと同時に、総会での採決の仕方にも一定の改善が必要だと思います。その点で、ある管理組合では、次のような例があり、参考になるかと思います。それは、総会への参加をできるだけ多くするように働きかけるのは当然ですが、委任状の宛名を「理事長」「議長(標準管理規約と違い、出席区分所有者から選ぶ)」「他の組合員等」の3種類に分け、議長委任状は、総会の賛否の議決の多い方に加えるというものです。そうすれば総会の審議が実質的になる可能性が高まります。委任する人は一般に、どうしても賛否どちらかでなくてはならないというより、総会の審議結果に任せようという気持ちの方がつよいと思われますので、この管理組合の実際の状況でも、理事長委任状より議長委任状の方が多く集まるようになっています。
なお、制度としての議決権行使書はもちろん規約にもあり、排除されてはいません。
【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
総会は管理組合の最高意思決定機関であるため、多くの区分所有者が総会に出席して活発な意見交換を行って議決することが望まれます
しかし、議決権は、区分所有者本人が総会に出席して自ら行使する他、書面(議決権行使書)で行使することや代理人によって行使することも認められます(区分所有法第39条第2項)ので、総会の出席者が少なく、委任状や議決権行使書によって議案が可決されても有効な決議といえます。
白紙委任状とは、代理人による議決権行使の場合に誰を代理人とするか記載のない委任状をいいますが、白紙委任状の効力や議決権行使上の取扱いについてトラブルとなる場合があるため、白紙委任状の書面の様式の中に「代理人を記載していないものは、議長に一任したものとみなす」と記載してある場合があります。この様な白紙委任状を議長一任とみなす取扱いは有効なものといえます。
ただし、総会の議決は、区分所有者が総会に出席して意見交換を行って各区分所有者が意思決定を行うのが本来の姿であり、議決権行使書や白紙委任状で可決することは望ましいものではありません。
マンション管理標準指針では、総会の出席率を「少なくとも半数程度の区分所有者が実際に出席している」ことを望ましい対応としています。そこで、総会の出席率を上げるために、理事会の広報で管理組合の情報を開示して区分所有者に管理組合の運営に関心をもってもらうことや総会の招集通知の送付に先だって開催日時及び場所を予告する等総会に出席してもらうための努力が必要です。
総会の招集通知には委任状や議決権行使書が添付されている場合が多いでしょうが、委任状だけ添付されている場合もあります。委任状だけ添付されている場合にも議決権行使書によって議決権行使することはできます。議決権行使書で議決権を行使することは区分所有法第39条第2項により認められた権利だからです。
議決権行使書による議決権の行使とは、総会に出席しないで、総会の開催前に各議案ごとの賛否を記載した書面を総会の招集者に提出することです。他方、委任状による議決権の行使とは、代理権を証する書面(委任状)によって区分所有者本人から授権を受けた代理人が総会に出席して議決権を行使することです。
このように、議決権行使書と委任状は、いずれも区分所有者本人が総会に出席しないで議決権を行使する方法ですが、議決権行使書による場合は区分所有者自ら主体的に賛否の意思表示をするのに対し、委任状による場合は賛否の意思表示を代理人に委ねるという点で性格が大きく異なります。区分所有者の意思を総会に直接反映させる観点からは議決権行使書によって区分所有者本人が自ら賛否の意思表示をすることが望ましいといえますが、そのためには総会の招集の通知に議案の内容があらかじめ明確に示されることが重要です(標準管理規約第46条コメント⑥)。