マンション管理コラムColumn

管理組合運営

第24回:住民の高齢化に係る理事会の取組みについて

第24回:住民の高齢化に係る理事会の取組みについて
 築30年超のマンションで、住民が高齢化し、認知症や孤独死が心配になっています。
 理事会として、住民の認知症や孤独死にどこまで取り組む必要があるのでしょうか。
 理事会が住民の認知症や孤独死対策に取り組む場合の注意点について教えてください。

【NPO法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】

2013年10月1日現在の我が国の総人口は、1億2,779万9千人(総務省統計局)。65歳以上の人口は2,980万人、総人口に占める割合は23.3%となりました。5人に1人が65歳以上、9人に1人が75歳以上という高齢社会となりました。

2012年時点で、認知症の人は全国で462万人。これは、65歳以上の15%にあたり、約7人に1人が日常生活に支障をきたす状態になっています。埼玉県内でも約23万7千人(県推計)が認知症になっているとされています。つまり私たちも、その予備軍であると言えます。

認知症はいくつかの原因がある病気です。病気ですから、治療が必要になります。

しかし、「認知症の診断技術・根本的治療薬、発症後の介護ケア技術等の研究開発が不十分である」(社会保障審議会 介護保険部会(第45回)平成25年6月6日)という報告が、認知症治療の難しさを物語っています。部会では「ケアの流れを変える」として3. 地域での生活を支える医療サービスの構築、4. 地域での生活を支える介護サービスの構築、5. 地域での日常生活・家族の支援の強化」という新たな取組の必要を訴えています。つまり、「地域での支援」の大切さを訴えているのです。

認知症の人に対応する際には、病気による認知機能低下があることを正しく理解していることが必要です。偏見を持たず、もし自分や家族が認知症だったらと考え、認知症の人やその家族が、どんなにつらい思いをしているかを想像できることが大切です。「認知症を抱える人が、安心して生活できるように支えよう」という姿勢が重要です。

基本的には、認知症の人も一般の人も、付き合いの仕方に変わりはありません。その上で、認知症の人には、認知症という病気への正しい理解に基づく対応が必要になるわけです。

病気による記憶力や判断力の衰えから、社会のルールに反することをしている場合は、家族と連絡を取り、相手の自尊心や尊厳を守りながら冷静に対応をすることが大切です。

認知症を支える制度はさまざまあり、まず高齢者が暮らし続けられるための総合相談窓口が市町村の「地域包括支援センター」です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーといった専門家がいて、介護や保健・医療・福祉などの幅広い分野の支援をします。

成年後見制度、日常生活自立支援事業、もの忘れ外来、地域包括支援センター、家族代行サービス、見守りサービスなど、認知症を支える仕組みはさまざまあります。

マンション内で支える対象は、認知症の人だけではありません。

団地に住んでいる82歳の男性は、10年ほど前に妹さんが亡くなるまで2人で暮らしていました。その妹さんは精神が病んでいて、時折り近所のお宅のドアをノックしては、意味不明なことを言うのです。兄は、妹を守るために2人で暮らしていたのです。兄は、ご近所の家に足を運び、妹は病気であること、ご迷惑をお掛けして申し訳ないけれどよろしくお願いいたします。ということを再三、お詫びとお願いをしていました。そのお陰で、ご近所の妹さんへの理解が深まり、妹さんは亡くなるまで、ご近所から見守られていたそうです。

その兄は「精神が病むというのは本人には責任はないし、かと言って、他人様に迷惑をかける訳にはいかない。でも、ご近所の理解があって助かった」と語っています。

さいたま市のある団地は、毎年夏祭りが恒例となっています。そこでは盆踊りとそれにつきものの盆太鼓が活躍します。そのために、夏祭りの数週間ほど前からそれらの練習を重ねます。

昨年の春過ぎ、知的障がいをもっていて特別支援学級に通っている中学生の父親が、「息子を練習に参加させたいが、いいでしょうか」と盆踊りと盆太鼓の指導者のAさんに尋ねました。「もちろん」と、Aさん。昨年は事情があったそうで来ませんでしたが、今年は母親と中学生が盆踊りの練習に参加しました。

1回目の練習が終わったところで、Aさんが中学生に「盆太鼓もやってみない?」と問うと、「やりたい!」という元気な返事。母親は少し戸惑っているようでしたが、盆太鼓の練習に参加するようになりました。

Aさんは毎回、ハイタッチで中学生を迎えました。盆踊りはどのように踊っても、迷惑をかけることはないのですが、盆太鼓は音を出しますから、リズムが狂うと大変困ります。中学生は、ある特定のリズムができないのですが、他の子供たちのようにやりたい。そういう気持ちが伝わってきます。しかし、練習を重ねてもできません。

Aさんはある日中学生をそっと呼び、2人だけになったところで、とても上手くなったけれども、「あそこの叩き方はどう思う?」と訊きました。「上手く叩けるところだけをやったほうがいいと思うけれど…」と言うと、中学生は小さくうなずきました。その間、アイコンタクトをしっかりと取り合ったそうです。

その後、中学生はできるリズムだけを叩くようになったので、狂いがなくなりました。

他の子どもたちやおとなたちも普通に接したことも、中学生に対するフォローとして好ましく、Aさんと中学生との距離感もよかったのではないかと感じます。

 

管理組合・自治会の枠を超えて学びましょう

つまり、認知症だけではなく、さまざまな病気などを抱えた人の存在を知ることがスタートです。まず、心のバリアーを取り払っておかないと病気や障がいをもった人と接することはできません。管理組合、自治会の枠を超え、合同で病気や障がいを学ぶ必要があるのではないでしょうか。

大切なのは、こちらから懐に飛び込むこと、その際、知識やスキルはあったほうがうまくいきます。

 

ユニバーサル・ポリシー

「健常者」という言い方がありますが、その言い方や見方自体が、そうでない人たちを差別や区別をしていると思うのです。

知識がなければ学習が必要です。スキルがなければスキルを身に付けたい。

高齢者、健康弱者、障がい者、独居生活者を含めてすべての人が安心して暮らせるように、もっと全体を俯瞰するユニバーサル・ポリシーとも言うべき観点を共有することが必要ではないでしょうか。

それは、管理組合と自治会が一緒になって取り組むことが大切です。「老若男女」という言い方は以前からありますが、それもユニバーサル・ポリシーのひとつです。それに加え、「高齢者」「健康弱者」「障がい者」「独居生活者」などを加えてみてはいかがでしょうか。

「自分が、そうなるかもしれない」という観点が、ユニバーサル・ポリシーの考え方を敷衍するのではないかと思います。自分が見守られる側、支えられる側になったとしたら、家族を含めた周りの人たちは「サポーターになり得るか」と俯瞰してみてください。とても安心できる状態ではないのではないでしょうか。

日頃から、ユニバーサル・ポリシーに関して、家族をはじめ管理組合などで、何を、どのようにしたらよいのかを話し合っておくことが必要です。

自己を含めたサポーターの育成には、マンションコミュニティの醸成に向けた取り組みがなければ形になりませんから、そのために何を、いつまでに、どのように行うかといったプランニングと行動が必要になります。さまざまな人が、それぞれ安全で安心して住むことができるマンションが求められています。

管理組合の運営にはコミュニティが分母として必須であることを意識した取り組みが大切です。コミュニティ醸成のための仕掛けとして、ある管理組合では、夏祭り、芋掘り、果実の収穫祭、防災訓練などを開催しています。もっと大切なのは、管理組合活動としての理事会、総会を通して、普段顔を合わせない人が議論し、知り合うことができる非常に有効な場であり、コミュニティの場とも言えます。

普段はお付き合いがない人たちが顔を合わせ、それぞれの役割を果たすことで管理組合コミュニティがつくられていき、病気などでお困りの人たちをどのようにその輪に入っていただけるかを考えることも、とても意義のあることと言えます。

孤独死、あるいは孤立死は隣近所とのお付き合いがほとんどない状態であることから生じるケースが多いのです。管理組合として、日頃のお付き合いの具体案を示していくことも必要になります。前述の各種イベントの開催や独居者の把握とその人たちへの訪問など、すぐにできること、少し準備が必要なことなど、さまざまな取り組みがあります。

自己のマンションの高齢者、健康弱者、障がい者、独居生活者の把握からはじめることをお勧めします。その際、その方たちのプライバシーを守ることがとても大切です。

参考:埼玉県内では、「認知症サポーター養成講座」を開催しています。
県福祉部地域包括ケア課 TEL.048-830-3251
メール a3240-05@pref.saitama.lg.jp

NPO日本住宅管理組合協議会 埼玉県支部
柿沼 英雄


【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】

区分所有法では、マンション管理の規約事項として、「建物等の管理」とその管理・使用に関する「区分所有者相互間の事項」を規約に定めることとなっており、その範囲外のことを規約に定めても無効とされています。平成16年の標準管理規約改正では、「コミュニテイ形成は、日常的なトラブルの未然防止や大規模修善工事等の円滑な実施などに資するものであり、マンションの適正管理を主体的に実施する管理組合にとって、必要な業務である」として、第32条に管理組合の業務として位置付けられ、第27条に、管理費の支出項目として規定されました。しかしながら、平成28年の標準管理規約改正で、旧32条十五に記載されていた「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」という条文が削除され、管理組合の活動はより建物および付属施設の維持管理を重視する方向に向きました。これは、ともすれば任意団体である自治会活動と加入が法的に強制される管理組合との活動が無制限に混同され管理費支出を巡る訴訟ケースが発生したことから、それぞれの領域を明らかにして管理費支出の適正化を狙うものでした。

昨今では、災害・防災対策や高齢者福祉対策として、行政の側からその末端組織としての位置付けである町会(自治会)の役割を管理組合に求める事例も生まれています。東日本大震災による防災計画の見直しの中で、災害時その他で、高齢者等いわゆる社会的支援の必要な人々への対策として、現実の強い必要もあり、行政側からの要請であり、住民の側からの要望もあるからです。一方で、管理組合が担えることには、その法的性格から限界があることも事実であり、行政-自治会-管理組合が連携し、協働して対応する必要が種々あると考えられます。

管理組合に「町会の役割」までは求めないとしても、マンション管理組合と組合員を対象として、高齢者福祉の諸制度の登録(例えば、災害時避難要支援者登録制度や平時の高齢者の見守り活動、認知症対策や孤立死防止の取組み)等の呼びかけをする自治体も出てきました。

また、増え続ける餓死、孤立死対策として、行政は、町会や民生委員だけでなく、電気、ガス、水道などライフライン関連企業との提携により、高齢者の見守り活動を進めていますが、管理会社との提携を実施する自治体も出てきました。管理員が居住者の異変に気づいたら行政の窓口と連絡する提携です。管理員の日常活動に着目した施策といえるでしょう。

その他、管理費の滞納、ゴミ屋敷問題やルール違反等の迷惑問題なども、取組んでみると居住者の認知症に遭遇することも度々あるなど、マンション管理にも福祉の観点が求められる事例が数多く発生しています。

健常者でも深酔いして自宅にたどり着けなくて、マンション内を徘徊し、現実に他家のドアを開けようとした事件もありますが、認知症の徘徊行為がマンション内で発生した場合を考えれば、平穏で安全な住環境を守る目的行為や、「共同の利益に反する行為」を回避・防止する活動は、規約に係わらず、理事長・理事会としても現実に取組まざるを得なくなる、あるいは放置出来ない立場に置かれます。その意味で、一定の範囲までの取組みは不可欠という点は誰もがたやすく理解できると思われますが、問題はどこまで深入りするかです。

先ずは近隣に迷惑をかける、共同の利益を侵害することに至らないように、理事会活動として啓蒙を進め、防護、予防措置を取組むことです。その場合には行政との連携が不可欠です。高齢者や認知症対策として包括支援センターの活動や民生委員・福祉委員による行政の諸活動がありますが、これらと連携を強め、相互の関係、守備範囲を確認しあいながら取組むことが不可欠となります。

叉、管理組合は管理上の必要からも正確な区分所有者及び居住者の名簿を整備・保持することが求められています。法人には組合員の整備された名簿作成が義務付けられていますが、法人でなくともこの趣旨を生かし、名簿には緊急連絡先はもちろん、災害避難時要支援者登録の有無などを記載して、組合員の命と安全を守るために活用できるようにして置くことも大切ではないでしょうか。

 


【NPO法人匠リニューアル技術支援協会埼玉支部の回答】

高齢化の問題は、高経年マンションではどこでも問題になっています。

理事会として、住民の認知症や孤独死に取り組むべきこととしての決まりはありませんが、次のような取り組みがあれば、望ましいと考えます。

① 理事会内や別の専門委員会などで、高齢者対応の組織を立ち上げ以下のような活動を行う

・高齢者見守り、ふれ合いサロン(茶話会)やカルチャー教室の運営、などを行う

・高齢者に必要な情報提供(介護保険、高齢者向け行政サービス、年金、認知症、高齢者向け商品、サービスなど)

② 管理会社に委託している場合は、次のようなサービス提供が考えられ、導入を検討する

・管理員による見守り(声かけ、新聞受け・郵便受けなどの確認)

・高齢者支援サービス(日常生活支援サービス:緊急時駆け付けサービス、電球交換、配食、買物、小修繕、ゴミだしなど)

・警備会社等が提供する安否確認・通報システム

③ 行政のサービスと連携をとり、見守りサービス、民生委員、地域包括支援センター、市町村の緊急通報システムなどの活用を図る

④ 防災対策の一環で災害時の要支援高齢者を把握しつつ、訓練の実施やイベント活動を通じてコミュニティー形成を図る

 

注意点

① 本人の意向・プライドを尊重すること

② 本人の状況または病状(認知症の場合など)を理解すること

③ 本人だけでなく、家族や親類とコミュニケーションをとり、いつでも連絡が取れる状態としておくこと

④ 行政等の対応組織(民生委員、地域包括支援センター等)といつでも連動できる体制を整えておくこと

⑤ 行政や民間(管理会社を含む)の高齢者向けのサービスや施設を上手に活用すること

 

NPO法人匠リニューアル技術支援協会 消費者支援部会

マンション管理士  平田 英雄

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