マンション管理コラムColumn
管理組合運営
第25回:管理組合の権限について
3年前に総会の承認を得て、携帯電話会社がアンテナを屋上に設置しました。昨年の12月に、理事長が独断で電波を2倍にする工事を承認してしまいました。私の部屋はアンテナの真下にあるため電磁波の影響が心配です。
今年5月の総会で,工事に対する反対が強く,契約が無効だとする決議がされましたが、管理会社は、これは保存行為だから理事長権限で有効だといいます。保存行為だと、総会でも反対できないのでしょうか。
また、アンテナを撤去させるにはどんな手順が必要でしょうか。
【NPO法人埼玉マンション管理支援センターの回答】
携帯電話会社間の競争を反映してか、最近はアンテナ設置に関わるトラブルが増えてきました。
アンテナ設置会社が直接に管理組合と設置交渉をすることは少なく、ほとんどの場合、何らかの形で管理会社が両者の仲介役になっています。そのため管理会社のフロントの質次第で思わぬトラブルが発生することもあります。
3年前にはきちんと総会の承認をとったのですから、この時点での問題はないでしょう。しかし、電波の出力を倍にするのは設置機械の交換、使用電力量の増加、基礎工事のやり直し、環境への影響等様々な検討すべき事項がありますから、単なる契約期間の更新(保存行為)ではなく、新たな契約と見るべきです。
普通1年交替の理事長が、独断で工事を承認するということは考えられません。専門家(であるはず)の管理会社担当アドバイスに基づいて認めてしまったというのが事実ではないでしょうか。
フロントの性癖として、トラブルが発生した際に問題を根本から解決せず、曖昧に対応して先延ばしにする傾向がないとはいえません。管理会社を中に入れず、アンテナ設置会社と直接に撤去交渉されることをおすすめします。場合によっては、アンテナ設置の責任者である携帯電話会社(ドコモ、au、ソフトバンク等)に文書で正式にクレームを申し出ることも検討すべきでしょう。
【NPO法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】
まず一般論として、管理組合の総会は、区分所有者の意思決定の最高機関ですから、理事長権限に属する保存行為であろうと、理事会で正式に決定した対応方針であろうと、総会で自由に論議し、管理規約に定められた正規の手続きをふめば、反対や中止の決定ができることは当然です。ですから、総会で「契約が無効だ」と決議したのですから、その決議通りに対応しなければなりません。
それでは、昨年12月に理事長が電波を2倍にする工事を独断で承認したことの可否はどうでしょうか。前に総会で承認された理由は、共用部分への新たな施設の建設(共用部分の変更)ですから、大規模な変更として特別決議をしたのか、軽微な変更として普通決議だったのかは分かりませんが、いずれにしても当然のことだったと思われます。
そうすると同種の工事であれば、新規工事でなく(電波を2倍にという)増設工事であっても、同じように総会にかけるのが順当だと思われます。工事の規模・内容からいって、それほどの必要性はないということであっても、理事会の会議にかけての承認は最低限必要であったと考えます。したがって、そういう手続きを踏まなかったこの理事長の独断行為は、管理組合員との関係では無効だとして取り消されるべきで、理事長の責任も発生します。
しかし、管理組合と携帯電話会社との関係では、ただちにアンテナを撤去できるかというと、簡単に解決できるとはかぎりません。というのは、「理事長が独断で工事を承認した」というのは、たぶん工事の契約を締結していると思われ、その契約は、携帯電話会社が管理組合の代表者である理事長との契約ですから、相手側が内部手続きは当然行なわれていると思うのは当然で、対外的には有効とされるからです。
まず、時間がたっていますから、工事が完了したのか、まだなのかが分かりませんので、いろいろな場合を考えてみます。工事がまだであれば、はじめのアンテナ設置契約の期間が切れれば撤去させられます。ただし、電波を2倍にする工事の契約が終わっているとすると、契約破棄にともなう契約上のペナルティが発生することがありえます。
工事が終わっているとすると、電波を2倍にしたあとの新たな契約期間に入っているわけですから、契約書に別段の規定があればともかく、通常では新たな契約期間の経過をまたないと撤去できない可能性が高いと思われます。
なお、設問では理事長本人でなく、管理会社が「保存行為で有効」という主張をしているようです。そうすると理事長は管理会社の言うがままに動いたとも考えられ、その場合には理事長とともに、管理会社の責任も追及する必要があります。
特定非営利活動法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部
柳沢 明夫
【一般社団法人首都圏マンション管理士会埼玉県支部の回答】
設問で要求された問いは、『電波を2倍にする工事』の具体的内容が不明なので、新たなアンテナ設置が追加された契約をめぐり①「契約は無効であるとする」総会決議より「契約を締結した」理事長権限が優先するのかどうか②携帯電話会社のアンテナ撤去の手順についてという前提で回答します。
①の回答の前提として、マンションにおける規範の優先は「区分所有法―管理規約―総会決議」の順となります。よって、この件において、管理規約に基づく保存行為を行ったとする理事長の権限が優先するということを管理会社が主張しています。
理事長の権限について整理してみると、理事長は管理組合を代表する者であり、規約において区分所有法(以下「法」と呼ぶ)上の「管理者」とする旨定めているのが通常です。したがって、理事長は法の「管理者」の規定の適用を受けることになります。管理者と区分所有者との関係は、法及び規約で定めるほかは、民法の委任の関係にあります。また対外的には、区分所有者を代理する権限を有し、対外的関係において法律行為をするときは、区分所有者の代理人としてこれを行い、その法律効果は、区分所有者の全員に及びます。そして、その管理者である理事長の権限および義務のひとつとして、理事長は、共用部分並びに当該建物の敷地及び附属施設を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負うとしています。
さて、今回のアンテナ工事の理事長による承認が理事長の保存行為権限にもとづくものであるのかどうかということですが、保存行為とは、日常の軽微な修繕、施設の点検共有財産の現状の維持をするための必要な行為をさすものであり、保存行為の対象は共用部分並びに当該建物の敷地及び附属施設です。今回の件のアンテナは当該マンションの付属施設ではなく、携帯電話会社が所有する設備です。よって理事長の行為の対象とした設備は当該マンションの付属施設ではない設備であるので、法がいう保存行為とはいえません。管理会社の言い分は不適切な主張であります。よって、理事長の「アンテナ工事更新工事の承認」の行為は規約に違反する行為であるといえます。
しかしながら、理事長の行為が規約に反する権限外の行為であるからといって、直ちに総会決議の求める「契約が無効」となるとはいえません。「管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」と法が言うことから、理事長が契約を行う権限がないことを携帯電話会社が知ることなく、あるいは理事長が権限がある旨を表明して行った契約は有効となります。よって、この場合は、アンテナの撤去の手順は、管理組合として契約解除の意思を表明、契約に基づき改めて携帯電話会社に契約の解除の申し入れを行うことが必要です。
また、携帯電話会社が理事長に契約を締結する権限がないことを知りながら契約した場合は、契約は無効となりますので、管理組合は携帯電話会社にアンテナ撤去を求めることができます。