マンション管理コラムColumn

管理組合運営

第30回:マンション外壁の看板の取り外しについて

第30回:マンション外壁の看板の取り外しについて

築40年の25戸の通りに面した分譲マンションですが、マンションの外壁にボルトで固定した看板が4つあり、1~2階にある4つの事務所の名前がそれぞれ入っています。それらの看板の所有者や設置された経緯等について住民や事務所に聞いても全く分かりません。
経年で看板が落ちて下を通る人に怪我をさせた時、誰が責任を負うのでしょうか。
また、万が一を考えてこれら老朽化した看板を取り外すことを管理組合として考えていますが、反対する事務所があった場合にはどのように対処したらよいのでしょうか。


【NPO埼玉マンション管理支援センターの回答】

台風や最近の異常気象による突風により飛ばされた看板や地震等で落下した看板により怪我をする人が出ていますが、外壁に取り付けた老朽化した看板への対応を考えておくことはマンションの管理組合としても急務です。

一般的に、経年で落下した看板により人に怪我を負わせたり、自動車等を傷付けた場合の責任ですが、被害者は看板の占有者(そのものを実際に使っている人)又は所有者に対し民法の「不法行為」※1または「土地工作物責任」※2により訴訟を提起してくることが考えられます。 この場合は、損害賠償請求は財産上の損害及び慰謝料など精神上の損害の両方が可能です。
即ち、民法の大原則である「過失責任主義」に基づく「不法行為」に問われれば、看板の占有者は故意または過失によって被害者に損害を生じさせた場合には、損害を賠償する責任を負うことになります。  また、民法の「土地工作物責任」に問われれば、看板の設置又は保存に瑕疵(建物等が通常備えるべき安全や設備の欠陥を意味し、過失の有無を問いません)がある場合には、被害者は一次的には看板の占有者に損害賠償責任を請求することができ、占有者に過失がない場合には、二次的に看板の所有者は過失がなくても損害賠償責任を負うことになります(これを「無過失責任」と言います)。
更に、自然災害によって発生した事故であっても、建物の設置又は保存に瑕疵があり、その瑕疵と自然力とが競合して損害が生じた場合には、一定範囲で「土地工作物責任」が認められる場合があります。

この設問の場合は、区分所有建物であるマンションは「土地工作物」であり、その共用部分である外壁に取りつけた看板が対象で、この「土地工作物責任」が適用されますので、被害者にしてみれば、責任の所在がはっきりしない場合もありますから、看板の占有者又は所有者のいずれをも訴えることができます。また、区分所有法第9条の「推定」規定によって、被害者は「建物の設置・保存に瑕疵があること」を証明しさえすれば、マンションの管理組合に過失が無くても損害賠償を請求することができることになります。
しかし、「推定」ですので、管理組合側で看板の占有者に責任があることを立証できれば、自らの責任を免れることはできます。 なお、占有者が必要な注意をしていたということが証明できなければ、占有者と所有者で連帯責任を負うという判例(平成4年3月19日東京地裁判決)もあります。

従いまして、管理組合としては看板落下の原因を究明すると共に看板の占有者は看板に名前の入った事務所であることは明らかですが、看板の所有者を明らかにすることが先決となります。 築40年ということで看板の所有者や設置経緯等が全く分からない場合には、裁判においてそれらを解明していくことになりますが、当時のマンション分譲販売においては、駐車場の場合と同様に、分譲業者が外壁に看板を取りつけて、看板を希望する事務所の購入者に対して看板の専用使用権を分譲し、その対価を取得するやり方で事務所を販売された可能性も考えられます。
しかしながら、マンションの共用部分の外壁に取り付けた看板の占有者は夫々名前の入った事務所で専用使用権があり、所有者は管理組合とみなされ、管理組合の「土地工作物責任」が認められる可能性は高くなるものと考えられますので、理事会として看板を取り外すことを考えているのは妥当なことです。

また、看板を取り外すことに各事務所に同意してもらうためには、専門の業者による老朽化の状態を調査診断の上、その報告書を以って要請することが必要です。
この要請に対し、取り外す費用負担で反対される事務所がある場合には、総会の承認を得て管理組合の費用負担で行うことも考えられます。 それでも反対する事務所がある場合には事故時の全責任を負って貰う文書を内容証明で送達することが考えられます。
問題は、看板を取り外すことには同意するが、新たな看板を取り付ける条件を付けた事務所がある場合ですが、外壁に取り付けた看板を出さなければ営業できない事務所でない限りは、基本的には今後は看板の設置は認めないことを規約に謳うことが考えられます。 また、看板設置を認める場合には、規約でその管理責任と費用負担等を明確にしておくことが必要です。

なお、「工作物責任」においても、所有者への過剰な責任負担を回避するために損害の原因について、他にその責任を負う者があるときは、その者に対して求償権行使することができるようになっています。今回のケースでは「他にその責任を負う者」として、看板の法定点検業者及び管理会社が挙げられます。 ここでの直接の求償権者は看板お所有者になりますが、彼等にも間接的に責任を問うことができます。

今後は、頻発する地震や異常気象等による自然災害が発生した場合の備えとして、マンションの管理運営においては、管理規約において責任の所在とその範囲を明確にし、管理会社への委託業務の範囲を明確にしておくと共に日頃の建物・設備等の点検調査の実施・不具合箇所の改修等に、より一層の取り組みの強化を図ることが大切となります。
なお、看板の設置・管理については、当該地区の都道府県市等の条例に基づき対処することは言うまでもありません。

※1 不法行為 民法709条
故意または過失によって他人の権利または法律上、保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

※2 工作物責任 民法717条
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた
ときは、その工作物の占有者は被害者に対してその損害を賠償する責任を負
う。ただし、占有者が損害を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が
その損害を賠償しなければならない。

※3 区分所有法第9条
「建物の設置又は保存に瑕疵がることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する。」と規定。

一覧に戻る

相談受付フォームConsultation Counter

マンション管理に関する相談を受け付けています。

相談受付フォーム