マンション管理コラムColumn

管理組合運営

第31回:マンションの孤独死への対応

第31回:マンションの孤独死への対応

駅近の築20年、110戸、15階建てのマンションで、管理形態は全面委託です。直近で続けて75歳(死因不詳)と57歳(脳梗塞)の共に女性が孤立死しました。57歳の女性は町内会の活動にもよく顔を出し活動的な方で亡くなられたことが信じられなかったそうです。郵便受けに新聞が溜まり、それに気づいた近隣の方が管理会社を通じ緊急連絡先の親族から警察に通報し、警察官が立ち入った結果、死後10日も経過していたとのことです。
管理組合としては、現在防災対策も兼ねて規約及び細則により居住者名簿・緊急連絡先を作成し、年1回変更の有無を確認しており、長期に不在する場合は管理組合に届け出るようにもしており、また孤立死を防ぐために65歳以上の単身世帯には管理組合に届け出てもらうようにしているが(現在110戸中8戸)、他に何かよい対策はあるのでしょうか。


【NPO法人埼玉マンション管理支援センターの回答】

我が国は「高齢化社会」(65歳以上が7%超え、日本では1970年=昭和45年以降)から「高齢社会」(65歳以上が14%超え、日本では1994年=平成6年以降)へと短期間に移行し、また核家族化の進展と共に単身の男女が増える社会構造となり、更にプライバシーや個人情報保護法の限定的な解釈により、孤立死が増えるのは避けられない状況にあります。
このような状況下に於いて管理組合における孤立死への対応は、対象は高齢者とは限らず、若年層でも突然病に襲われることもありますので、単身居住者を把握することが不可欠であり、災害時の対応と同様に、居住者名簿(緊急連絡先)の作成(更新を含)とその運用・保管に尽きると言えるでしょう。
この対策をより効果的にするためには、居住者間の良好なコミュニティ形成を図り、「自助」・「共助」・「公助」の面から取り組むことが必要です。
まず、言うまでもなく防災の場合と同様に大事なのは「自助」であり、本人が日頃から親兄弟や友人と連絡を取り合い又近隣と交流を深めると共に警備会社等(見守りシステム)の活用により自己防衛や他者に迷惑をかけないように心がけることが必要であり、管理組合としては自助努力のために必要な各種見守りシステム等の最新情報を提供することが大切です。
特に、持病のある方は、掛かり付けの医師の氏名・連絡先及び常用している医薬品等を記載したものを分り易い所に貼ったり、冷蔵庫にペットボトルに入れて保管しておくとよいでしょう。自治体によっては、専用のペットボトルを無償配布しているところもあります。
しかし、高齢者が主体的に近隣と交流したり、見守りシステム等を活用するだけの費用負担をすることは難しい面もあります。
次に、「共助」として、主体的に助けを求められない人たちに管理組合として有志を募り、定期的に訪問するなどして、お互いに助け合うことが必要です。
更に、「公助」として、各自治体は様々な高齢者向け公的サービス(高齢者安心コール、宅配サービス等)を提供していますので、管理組合としては、所属する自治体の各種サービスを提供し、それらを活用できるよう援助することが大切です(公的サービスの説明会開催及び手続きの支援等)。
なお、これらの孤立死への対応活動は、管理組合が主体となって管理会社及び自治会と共働して行うことが不可欠です。管理会社の団体である「管理協」も管理会社として考えられる高齢者への対応・支援策(認知症や孤立死への対応策)を用意していますので連携を密にすることが大切です。
最後に、早期に安否確認を行いたくても本人の許可なく勝手に住戸に立ち入ることはできないため、発見を遅らせていますので、東京都は迅速な安否確認ができるように、下記の緊急時における具体的な入室判断基準を策定し、公表していますので、ご活用ください。
(1)次の1~3の項目のうち、1つでも該当する場合、直ちに入室
① 室内から応答があるが、扉が開かない。
② 対象世帯が室内に在室しているのが明らかであるが、応答がない。
③ 室内から異臭がする。
(2)次の「住宅の状況」と「世帯の状況」に該当する場合、直ちに入室
<住宅の状況>
・ 応答がないのに電気メーターの動きが大きい、テレビがつけ放し、昼間なのに室内の照明がつけ放し、などの状況が確認される。
・ 郵便物や新聞が溜まっている。
・ その他、通常の生活と相異する異変の情報がある。
<世帯の状況>
・ 対象世帯の世帯員に高齢者がおり、これまで現場の状況から推定される期間、留守(不在)にしたことがない。
・ 対象世帯の世帯員に障がい者がいる。
・ 対象世帯の世帯員に生命に係わる持病(人工透析など)や要介護(寝たきり、認知症など)の情報があるが、入院などの情報はない。
・ 生活を支える世帯員が一人のみで、他の世帯員が幼少など自ら救出を求めることができない。
(3)再調査時に、次の①と②に該当する場合、直ちに入室
① 現地調査以外の調査において、対象世帯の状況が分からない。
② 調査後、ただちに現地で行う再調査の結果、対象世帯の状況に変化がなかった。
(水道メーターの動きがなく、郵便物や新聞が溜まり続けている)


【NPO法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】
「近いのに遠いおつきあい」からの脱却
マンションは壁ひとつで仕切られ、上下階も階段やエレベーターで簡単に行き来できるのですが、居住者間のおつきあいはマンションや棟、階によって随分と濃淡があるのが現実です。
孤立死を防ぐことは難しいことですが、それを即座に気づく対策はいくつかあり、実行している管理組合があります。場合によっては、異常の早期発見も可能ではありません。
それには先ず、コミュニティーの醸成を図ることがとても大切だと思います。
ある団地では、毎週一回、集会室をカフェとして解放し高齢者を受け入れています。当初は女性のみだったのですが、徐々に男性も参加するようになっているようです。
別の団地では、お困りごとのある高齢者のサポートを事業化しており、部屋の片付け、買い物などを通して当該高齢者の健康状態なども把握しています。

あいさつはマンションの潤滑油
設問にあるように、新聞の状況は一目でわかり、異常を感じることができます。ところが居住者の中には、帰省や旅行などで留守にする際、お隣さんに何も連絡をせずに出かけ、新聞がたまることを意識しない居住者もいます。
ある管理組合では、年末年始とお盆の時期になると、火の元・戸締り・新聞屋さんへの連絡・お隣さんへの声かけをするように、全戸配布の便りで積極的に呼びかけをしています。それによって、ちょっとした挨拶のキッカケができます。
もちろん、あいさつをしない人もおり、嫌な感じを受けることもありますが、めげずに積極的にあいさつをすることは、マンションの潤滑油となります。潤滑油がなければ人間関係の歯車はギクシャクしかねません。ちょっとホッとして楽しく快適なマンションにするもしないも、居住者のほんのわずかな、しかも極めて自然なあいさつが決め手になります。
そのような当たり前のおつきあいができていないと、孤立死だけではなく、災害時(現在の災害は非常にゲリラ的にどこでも起こり得る)などでも混乱を起こすでしょう。
それらを居住者だけの問題とせず、管理組合と自治会の協働促進策の一環として認識することが必要です。

居住者名簿によって、弱者などを知る
ある300戸ほどの団地では、孤立死が起きたことをキッカケに、毎年12月に居住者名簿の更新を実施し1月1日を更新日としています。既に10年以上継続しており、どの住戸に、誰と誰が住んでいるかというだけでなく、得意なこと、病気の度合い、いざという時助けてほしいか否かなどを記入する項目を設けており、日常の弱者への気配りや、いざという時の体制も想定しています。
ここでは個人情報の扱いにも配慮して運用規則を厳格にし、居住者の理解を得ています。これは理事会が常に誠実であることが認められないとできないことです。当時の理事たちは、「孤立死をさせてしまった」ことを未だに後悔しており、それがこの活動の原動力となっているのです。

見え隠れする距離感
マンション内のおつきあいは、「相互干渉ではなく、見え隠れするような、ほど良い距離感のあるおつきあい」が大切だと感じます。お互いに少しだけ気にし合うが干渉はしない。変化があれば声をかけ、異常があればあらかじめ決めてある手順に従って対応する。そういったことを管理組合全体(自治会も含めて)で考え、構築していくこと、さらに進化させるように見直しのための活動も行いたいものです。
以上


【NPO法人匠リニューアル技術支援協会埼玉支部の回答】

人口推計の結果2007年に、65歳以上の総人口に占める割合は21%をこえ超高齢社会となり、2016年にはその割合は27.3%となり、日本は急速な高齢化が進行しています。
又、高経年のマンションにおいては高齢化の進行が顕著になっており、標題の孤立死、すなわち「一人で亡くなり、亡くなった事実が長期間誰にも気付かれずに放置された死」という状態への対応が管理組合として喫緊の課題となっています。
設問では、「管理組合としては、現在防災対策も兼ねて規約及び細則により居住者名簿・緊急連絡先を作成し、年1回変更の有無を確認しており、長期に不在する場合は管理組合に届け出るようにもしており、また孤立死を防ぐために65歳以上の単身世帯には管理組合に届け出てもらうようにしている(現在110戸中8戸)」とあり、書類等の整備はなされているようですが、書類だけでは「孤立死への対応は不十分」といえるでしょう。
管理組合としては、65歳以上の単身世帯に限らず、単身世帯においては孤立死の可能性があるということを意識した活動が必要になります。
孤立死への対応を、単身世帯としての対応と管理組合としての対応に分けて検討する必要があります。
1 単身世帯としての対応には次のようなことが考えられます。
イ)見守りシステムの導入
安否確認のシステムには、センサーによるもの、電気使用料によるもの、オート電話によるもの、定期訪問によるもの等、いろいろなタイプのものがあります。
見守りシステムには行政の補助・支援が有る場合もあります。
ロ)親族・知人等との定期的な連絡
ハ)管理組合及び町内会等への催事等への参加
等々
2 管理組合としての対応には次のようなことが考えられます。
イ)第一の対応は「ソフトな見守り意識の構築活動」となります。
この「ソフトな見守り意識」=「異変に気づく」ということは、孤立死対応だけではなく認知症対応等においても必要なことになります。
ソフトな見守り意識高揚のためには、自分の周囲における気がかりな事象等に反応し、行動してもらうように繰り返し広報等をすることです。いわゆる「気づき」に基づく活動です。
<気がかりな事象例>
・ 郵便受けに郵便物・新聞がたまっている。
・ 夜になっても明かりがつかない。
・ 住戸を訪問しても、顔を出してくれない。又は、反応がない。
・ 何度か電話をしたがつながらない。
・ 最近、外出している姿を見ない。
・ いつも出席しているサークル(集まり)等への無断欠席
・ 最近、元気がなく、顔色も悪く、やせてきたよう気がする。
等々
ロ)「ソフトな見守り意識の構築活動」のベースとして必要なことは、マンション内及び地域との良好なコミュニティ形成です。
<コミュニティ形成活動例>
・ 集会室等での定期的お茶会等コミュニティ形成活動の実施。
・ 管理組合主催の消防訓練、防災訓練等の実施
・ 町内会行事等への参加(防災訓練、夏祭り等)及び組合員等へ行事等の周知活動。
等々
ハ)次の対応としては、イの気づきの受け皿の準備です。
管理組合理事会、自衛消防隊、防災委員会等の中に、気づき情報の連絡先(受け皿)担当を設置し、組織的に対応していくという準備です。
組合内の担当準備と合わせて、管理会社と協議し、居住者と面談等する機会が多い管理員さんにも気づき意識(ソフト見守り)への協力をしてもらうようにすることです。
ニ)次の対応としては、1で記載した単身世帯の対応について、単身者及び緊急連絡先の親族等にご案内すること。この場合は、地元行政等と協力しての活動が考えられます。
ホ)地元行政等と協議し、行政等の制度の活用を図る。
<行政の制度例>
・ 見守りネットワークへの参加。
・ 高齢者向け緊急通報装置の活用等。
・ 管理組合が気づき情報を受けたときの行政等の支援部署等について。
等々
以上のように、いろいろな対応が考えられますが、孤立死を特定の方だけの問題と捉えることなく、誰にでもありうるリスクと考え、各管理組合の事情に応じて検討・実行され、安全に安心して暮らしていける居住環境の創出にご尽力ください。

NPO法人匠リニューアル技術支援協会
荻原健(マンション管理士)

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