マンション管理コラムColumn
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第42回:設計監理コンサルタントをどのように選定すべきか
【設問】
大規模修繕工事を控え、設計監理方式で実施することがよいことがわかってきましたが、設計監理コンサルタントをどのように選定すべきかがわかりません。選定基準等についてお教えください。
【回答団体】
・NPO日本住宅管理組合連合会
・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
・NPO匠リニューアル技術支援協会
【NPO日本住宅管理組合連合会の回答】
大規模修繕工事は管理組合とって、準備も費用も桁外れで、そのお金を目指して企業などが集まります。中には不適切なことを行う人々もいるので、十分注意をしながらコンサルタントを選定しなければなりません。
そのためにも、中心となる考え方を述べながら選定についての考え方を示します。
1.大規模修繕工事とは
主として「共用部分について健全な維持保全の達成を目的とし、一定の周期で全体的に行う計画修繕」を大規模修繕工事といいます。
2.長期修繕計画とは
大規模修繕工事を行うには、「いつごろ(修繕時期)」「どこを(修繕項目)」「どのように(修繕工法)」「いくらぐらい(修繕費用)」で修繕をするのか、25〜30年程度先を予測して、あらかじめ長期修繕計画を策定することが不可欠で、主に共用部分の各部位ごとに示し、見やすく一覧表にするのが一般的です。
*修繕積立金の根拠
長期修繕計画は計画修繕工事などに使うだけではなく、修繕積立金の根拠でもあるのです。
その計画が団地やマンションのビジョン等と合致しているかなど、数年ごとに見直すことが不可欠で、それによって修繕積立金が適正なのかを判断することになります。
3.設計監理方式と責任施工方式
大規模修繕工事を実施するには、工事範囲を決めることやその部分の調査・診断が不可欠です。その上で、長期修繕計画書は、「いつごろ(修繕時期)」「どこを(修繕項目)」「どのように(修繕工法)」「いくらぐらい(修繕費用)」で修繕するのかを設計し、工事の実施に必要な図面や共通仕様書などを作成します。
仕様書は一定程度絶対的なもので、いわば憲法のような位置付けとも言えます。
ただし、足場を掛けてから外壁の状態が明らかになるなど、調査診断のときにはわからないこともあり、それを確認してから「どのように」修繕をするのかを決めていくこともあります。
仕様設計はマンションの大規模修繕工事の改修を重ねたプロフェッショナルが行う、非常に熟練を要するものです。管理組合はそのことを念頭に仕様設計を手掛けられるプロフェッショナルいわゆる設計コンサルタントを選定する必要があります。
大規模修繕工事工は、仕様書を基に工事を進めますが、それに沿って工事が進められているかを確認することが必要になります。それを工事監理といいます。
仕様は、一定の理由があってつくった原則ですから、そのとおりに施工することが求められます。仕様書にプロットした製品等が廃番になったとか、同額でそれ以上の製品が出たので変更をするといった場合を除き、仕様変更は認められません。
大規模修繕工事は現在、大きく2つの方式に分けられます。
設計を、どのような立ち位置の人や会社が行うのかは、極めて重要なことです。
(1)責任施工方式(設計責任方式)
「設計」と「施工」を一つの会社で行う方式を責任施工方式といいます。
よくある誤解は、設計監理方式より「設計」の費用がかからないので、その分安くなるというものですが、前述のとおり、大規模修繕工事を実施するには「設計」は不可欠ですから、「設計」しないということはあり得ません。
設計費用を安く見せるために、その分を施工費用に乗せていることはよくあり、そのような操作をし、あたかも設計監理方式より安いように見せている例が見られます。
責任施工方式の場合、そもそも仕様書が明示されないままでの施工業者選定になりがちです。数社から見積もりが出されても、そもそも施工の範囲やその方法を明らかにする仕様がバラバラなので比較することはできませんから、金額を見て選ぶこともできません。
施工会社が「設計」も「施工」も行うので、「設計」どおりに「施工」を実施したのかのチェックは曖昧になり、品質面でも不安が残りがちです。
責任施工方式を選択する場合の最大のポイントは、よほど信頼を寄せられる施工会社であることはもちろんですが、前述のように、他社との比較検討をしないので競争原理が働かず、費用面で高止まりするなどを是認することが前提となります。
大規模修繕工事をすすめる上で不可欠なのは、組合員への透明度の高い民主的運営が求められます。それがあって組合員の真の合意形成が得られますから、責任施工方式の場合は、とくに説明できるようにしなければなりません。
ただし、極めて特殊な施工の場合、ある施工会社がそれを得意としている場合などは、特命して発注することはあり得ますが、改修工事の場合はあまりありません。
(2)設計監理方式
「設計」と「施工」を分離し、工事の監理も第三者(多くの場合、設計をした者)が行うので、透明性が担保されやすく、設計の意図が反映され、施工でのごまかしが避けられます。
仕様書とは異なる品質の部材を使用したり、指定されている工法とは違う方法で施工することも問題であり、さらに、いわゆる手抜き工事などがあってはなりません。
そこで、大規模修繕工事では、工事中に仕様書どおり施工しているかを確認し、場合によっては是正などを求める立場の「工事監理者」を置きます。これは仕様設計した同一の技術者が行う場合が多く、施工会社との利害のない、第三者的な立場で工事監理を行います。
よくある誤解は、「設計監理方式は設計を行うので、その部分の費用が余計にかかってしまう」ということです。先ほど述べたとおり、工事を行うにはどのような方式であっても「設計」は不可欠であり、それ無くしては工事を行うことは不可能です。
いわば、地図をもたずに、あるいは、ナビゲーターがないまま、まったく知らない町のあるところを探すようなもので、それは探検的であり、遊びの要素もあって面白いとは思いますが、大規模修繕工事を進めるためには不可能です。
大規模修繕工事では、「設計」はどのような方式においても必要なのです。
気をつけたいのは、設計監理方式のメリットを利用しての不適切な行為です。これは、談合などを設計コンサルタント(会社)が主導するといったもので、4年ほど前に社会問題となりましたが、今でも密かに行われています。
これを、設計監理方式のデメリットとする場合がありますが、方式のデメリットではなく、談合などを行う人や組織の犯罪的行為自体が断じられる問題であって、方式の問題ではないのです。弁護士が犯罪を犯した時、弁護士という役割自体が問題になるのではなく、その弁護士個人の問題であるとされるのと同じです。
問題の根本に気をつけないと、設計監理方式の本質を見失うことになります。
4.施工会社の選定
設計監理方式は、「設計」と「施工」を分け、工事監理も第三者が行うので、施工会社への牽制機能を持つことが大きなポイントですが、もう一つのポイントが、仕様書に基づいて施工会社を公募や推薦し、その選定を行うということです。
公募や推薦によって施工会社に応募してもらい、書類選考の後、仕様書を渡しそれを元に見積もりに参加してもらいます。
共通の仕様書に基づいた見積もりなので、管理組合はその金額の比較が容易になります。これらを「見積もり合わせ」と言います。これは、最安値だからその会社にするとは限らず、現場代理人の経験や人柄、会社としてのバックアップ体制なども考慮に入れて施工会社を選定するのです。
よく「入札」ということばが使われますが、これは最安値の会社が自動的に落札するということですから、入札とは基本的に違います。
設計監理方式における最大のメリットは、施工会社選定における競争原理が極めて担保され、加えて、主導する委員会による透明度の高い運営によって、管理組合にとって有意な方式であると言えます。
同じ大規模修繕工事なのに、設計監理方式は競争を促し、責任施工方式は最初から一社に決めてしまうので工事費等の妥当性に疑問が残ります。
5.設計コンサルタントの選定
設計や工事監理は、マンションの大規模修繕工事の改修を重ねたプロフェッショナルが行う、非常に熟練を要するものです。管理組合はそのことを念頭に仕様設計を手掛けられるプロフェッショナルとしての設計コンサルタントを選定する必要があります。
設計コンサルタントは、設計して仕様書を作成し、それに基づいて工事が行われているかを監理するという、大きく2つの仕事を行います。その両方は一般的には同じ人が行います。自ら設計した仕様は誰よりも自分自身が一番よく知っているので、合理的といえます。ここで重要なのは、設計コンサルタントと施工会社はまったく利害のない関係であるということです。
それらの立ち位置をしっかりと保っているコンサルタントを選定しなけらばなりません。
さらに、不適切な行為、具体的には談合を主導したりするなどのコンサルタントではないのか、吟味する必要があります。
管理組合の利益を考えるのは当然ですが、管理組合に苦言を述べてくれるような、管理組合の真の利益を捉えて伴走してくれるプロフェッショナル・コンサルタントが望ましいのです。
・真のプロフェッショナルであること。
・管理組合の利益を第一に考えていただけること。
・不適切な行為をしていないこと。
理事や修繕委員は、様々な勉強会に参加して知識やスキルを向上させ、それによってコンサルタントを選定する目も育つのではないと思います。
【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
マンションの大規模修繕工事においての施工方式には、設計監理方式と責任施工方式があり、それぞれメリット、デメリットがありますが、区分所有者に説明責任が果たせる方式としての設計監理方式の採用が望ましいと一般的には考えられている。
施工会社の選考等が適正に行われるならば、この方式は妥当な工事方式と言えます。ただ、昨今の不適正コンサル事例(主として設計コンサルと施工会社の癒着)によって設計監理方式も問題あるのではないかとの声も出てきており、発注者のもとでコンストラクションマネージャーが、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や、工程、管理、品質管理、コスト管理などのマネジメント業務を行うCM方式も浮上しています。どのようにすれば適正な設計コンサルタントを選考することができるかの絶対的な法則はない。ただ、施工会社の選定と同様に、設計コンサルタントの選定においても「競争の原理」を働かせての選考が大切であり、それに要求される条件としては、
①マンション大規模修繕工事に関する実績があるか
②今回予定している改修工事についての技術や実績があるか
③管理組合の運営について知識やビジョンがあるか
④コンサルタント費用の報酬が明確であるか
⑤管理組合とコミュニケーションがしやすいか
というようなものがあると思われる。
重要なことは、管理組合がコンサルタントに任せきりにすることなく、主体者として協同で工事をすすめていくという自覚を持つことであるといえましょう。
管理組合としては、窓口を一本化して、業務範囲、その責任の範囲を明確にし、疑問点には十分な説明が求め得るという関係の構築がコンサルと付き合う上で必要です。
その点で、大規模修繕工事以前からも、竣工後もマンションのホームドクターとして付き合えることを選考条件とすることもあるでしょう。
大規模修繕工事において不適正な行為が発生する段階は施工会社の選考にあると言われていることから、その応募条件、応募方法、選考方法について管理組合として細心の注意を払うことが必要であろう。そのために応募にはマンション管理新聞や建通新聞に募集を掲載し、民間(旧四会)連合協定マンション修繕工事請負契約約款書式を使用すること及び大規模修繕瑕疵担保保険の加入することをコンサルタントに説明することが必要である。
また、特段の技術的要求が必要のないにも関わらず施工会社の応募条件に入れるとか、あるいは応募条件以外の条件を施工会社選考に主張するようなコンサルタントの行為は注意が必要である。建物全般として、セカンドオピニオンを「すまいるダイヤル」等の相談窓口に求めることも考えられる。
【NPO匠リニューアル技術支援協会】
何故、コンサルタントが必要なのか。
管理組合理事の多くは1年から2年で交代する為、管理規約・細則等を熟知する事が難しく、修繕工事に対する専門的知識が不足していると考えられる。
また、委託会社が適正に業務を遂行しているかの確認ができず、委託費が適正か判断できない。
管理組合が、建物・設備の維持・保全を建物寿命まで総合的、継続的、経済的に行うために設計監理コンサルタントが必要と考えられる。
以下に、信頼できるコンサルタント会社を選ぶ基準を記す。
【設計監理コンサルタントの選定チェック項目】
1 調査・診断・設計・監理を外注せずに統括して、専任可能な会社社員である。
2仕様書に施工品質管理基準を明確に記載し、工事監理時に厳正な検査を実施している会社(材料使用料、膜厚検査、工程検査等)
3コンプライアンスを重視している会社。
4 マンション寿命までの長期修繕計画を立案可能である。
5 大規模修繕工事コンサルタント業務を2回以上経験している。
6 大規模修繕工事を15年以上の周期で設定している。
7 同一管理組合からのリピート依頼が多く、管理組合から信頼されている。
以上をチェックしたら、当該会社が実際に設計監理した物件を見学すべきである。
8 大規模修繕工事実施後10年経過物件を見学する。
見学することによって、その会社の信頼度及び管理組合の満足度がわかる。品質管理が重要であり、劣化状況・保証期間の点検対応・再故障の有無等を確認する。