マンション管理コラムColumn

管理組合運営

第46回:管理組合としてリノベーションの申請があった場合の注意点について

第46回:管理組合としてリノベーションの申請があった場合の注意点について

【設問】
高経年化マンションにおいてリノベーションによる住戸のリフォームにより、住みやすい住戸に再生を図る動きがあります。ただこの結果、階下の住戸との騒音トラブルが発生しているようです。管理組合としてリノベーションの申請があった場合どのようなことに気を付ければよいのですか。また、トラブルが起きた場合はどう対応すればよいのでしょうか。

【回答団体】
・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
・NPO日本住宅管理組合連合会

 

【一般社団法人埼玉県マンション管理士会】
1)最近住戸の間取りを区分所有者の意向に沿ったリノベーションと言われる工事方法を行った住戸に、入居してくるマンション購入者が見受けられる。従来からのシステムキッチンやユニットバスの入れ替えあるいは壁紙の貼り替えなどの設備の変更や更新などの程度の工事については「リフォーム」工事と言われてきたが、一方、間取り、水道管、排水管、冷暖房換気設備の変更など間取りから内装・配管などすべてをゼロから考え直し、これから住む人たちの暮らしに合わせてつくり替えることで機能を刷新し、新しい価値を生み出す改修をリノベーションと呼ばれ、「フルスケルトン」といって全てを解体し、躯体構造だけにして改修を行うケースも珍しくないと言われています。
2)最近の新たな資産価値の向上のためのリノベーション工事が広がっていることを踏まえ、平成28年マンション標準管理規約の「専有部分の修繕に関する規定」について平成23年標準管理規約までの条項の改正が行われた。平成23年標準管理規約までの規約では「専有部分の修繕等をおこなおうとする区分所有者は予め理事長に工事の申請し、承認を得なければならない。」とし、すべての専有部分の修繕工事を申請の対象としていたが、「共用部分及び他の専有部分に影響を与える恐れのあるものを行おうとするときは」理事長に工事の申請することに規約は変更された。
3)そして、「区分所有者が行う工事に対する制限の考え方」として、専有部分の修繕や共用部分の窓ガラスなどの開口部の改良工事の一般的なルールを表にして別添資料として掲載している。(後段別掲)専有部分の管・配線、設備、天井・床・壁及び共用部分の窓、玄関、面格子又は躯体、梁・柱・床スラブという部位ごとに提示している。この一般ルールをマンションそれぞれの特有の条件に加味し、決めてゆく必要があるだろう。このような工事の制限に関する基準を明示することにより、区分所有者も専有部分の改修工事の限界を知ること、またリノベーション工事の申請の承認の可否を理事会として示すことができる。
4)平成28年標準管理規約改正においても、平成16年標準管理規約から維持されてきた「承認した専有部分の修繕工事の立ち入り、必要な調査」をすることがリノベーション工事では必要である。例えば、ファミリー向けの3LDKの間取りをひとり暮らしに適した1LDKなど自由で大幅な改修することは可能であるが、自由に間取りが作れるとはいえ壁式構造のマンションでは壁が建物を支える躯体であるので、この壁を取り外しての間取りの変更はできない制約がある。このような工事を実施させないためにも、予めの申請と工事の立ち入り調査は不可欠となるだろう。
5)平成28年標準管理規約で「専有部分の修繕」に関する改正で新たに加えられた条項がある。
「工事後に共用部分又は他の専有部分に影響が生じた場合は、工事を発注した区分所有者の責任と負担で必要な措置を取らねばならない」とした。この工事の結果をめぐる紛争で、申請を承認した理事長にも責任があるかのような主張があるが、これにより、この工事の責任は、発注した区分所有者であることを明らかにしている。この条項は規約に取り入れる必要がある改正点である。
6)このようなトラブルが起こった場合、最後的には裁判で裁断を仰ぐこともあると思われるが、裁判の過程、裁判後にマンションの共同生活に大きな影響を与えることも予測される。マンションはその空間を様々な価値観を有する区分所有者が生活する場であることから、共存できるような紛争の解決が必要であろう。調停人が介在し、ウインウインで話し合い解決をはかるADRという手続があり、日本マンション管理士会連合会が法務大臣認証裁判外紛争解決手続の「マンション紛争解決センター」を設立し、マンションADRでの手続で解決を提示している。また、国の機関である公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターにおいても弁護士等により裁断型調停も行われている。

 

【NPO日本住宅管理組合連合会の回答】
騒音トラブルがどの時点であったのかが示されていませんが、リフォーム工事中なのか、リフォーム後なのかです。工事中であれば、工事に際しての注意を示したルールを作り、これを守っていただくこと。もちろんこれは住戸の持ち主である区分所有者が理解し、工事業者にそれを守ってもらうということになります。

実際にあったことですが、「日曜・祝祭日は工事を行ってはいけない」というルールを設けていた管理組合で、ある住戸内をスケルトンにした後、リノベーションを行なっていた工事業者がルールを無視して工事を2回ほど行った結果、理事会は一切の工事停止を求め、半年もの間工事が止まっています。これにより、区分所有者は仮の住まいに居続けなくてはならず、困り果てています。とは言え、工事業者にきちんと守るべきルールを伝えていなかったことに問題があります。
この場合、区分所有者が責任を持って工事業者にルールを説明し、これくらいはいいだろうなどとルールを疎かにしないよう、強く伝えておくことが必要でした。
工事業者を選ぶ際は、安価であるといったことだけで選ぶのではなく、信用がおけるのか、経験は豊富なのかといったこと、評判なども踏まえて選び、工事業のトラブルを起こさないようにしたい。それらを踏まえ、何を、どのように、いくらで、いつまでにといった内容を明文化した契約書と仕様書を作成しておくことは必須で、口約束は避けるべきです。
「友人だから信用したが、約束した機器やカラーと違うし、出来栄えも相当落ちている」といった苦情もあります。新築の戸建の家の話ですが、同様に「友人の紹介の工務店に建ててもらったが、車が通っただけで、とくに3階部分揺れがあり、地震があった時を想像すると怖い」ということで、5年後にマンションに転居した例があります。

管理組合があらかじめ準備しておくのがリフォームやリノベーションの申請書です。氏名と住戸番号、工事内容と範囲、その図面、期間、工事業者名と連絡先などの添付を求めます。これは、リフォーム細則や規則などにしておきます。
問題は、申請書と添付書類を誰が確認するかです。担当理事がいたとしても、工事内容の詳細を理解することができるのか、です。ある管理組合は一級建築士に確認を依頼し、不明な場合は、申請者に追加書類の提出を求めるなど、慎重にリフォーム申請に向き合っています。それは、次のような事例を学んだことから生まれました。

ある団地の区分所有者はエアコンの室外機をベランダに設置し、室内に設置したエアコンと繋ぐために、躯体に穴を開けてしまいました。これによって鉄筋を切り、大騒ぎになりました。このように、もっとも注意したいのがリフォームやリノベーション等によって躯体を傷めてしまうことです。
この管理組合は当該区分所有者に対して、即刻原状回復を求めましたが従わなかったため、訴訟を起こし、原告勝訴となり、原状回復となりました。管理組合は専門家に依頼し、穴の部分の鉄筋が切られていたことを確認し、その復旧も含めた工事を管理組合主導で行い、その費用を当該区分所有者に請求したのです。

リフォーム等についての細則等にヌケやモレはないのか、見直すことも必要です。それを区分所有者に周知し、円滑なリフォームが行えるようにし、いざトラブルが発生した場合は毅然と対応することも必要です。
理事長が細則等を無視して、自ら勝手に判断してリフォーム等の許可をし、それがトラブルの元になっているという事例は多くありますから、感覚的な対応をしないよう十分に注意したいところです。

工事後の騒音トラブル
フローリングの張り替えの杜撰な工事の結果、音が響くようになったというトラブルはよくあります。
床が直床なのか二重床なのかによって、使う材料も工法も異なります。それなりの知識と経験が施工会社にあるのか、これもしっかりと選ぶ必要があります。
「工務店からそれなりのL値の床材を使ったが、階下の人からうるさいと言われた」と言いうクレームもあります。そもそもL値は推定値で、空間性能を推定したものです。それに対してΔL(デルタエル)等級は床材が床衝撃音をどれだけ抑えられるかという、製品単体の低減性能を表しますが、これは床材と施工の両方の性能がクリアすることが求められています。
これら理解がない施工会社もありますから、要注意です。

以上のようなリフォームやリノベーションをする際のルールとともに理事会でも理解をし、問題部分は細則等に反映させるとともに、占有部分と共用部分についても加えて居住者に周知し理解を求めるための広報を行っていくことが必要です。

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