マンション管理コラムColumn
管理組合運営
第50回:『相続人不在』の場合の管理組合の対応について
【設問】
管理費等滞納者が死亡し、戸籍上相続人の存在、不存在が不明のとき「相続人不存在の場合」あるいは相続人全員が相続を放棄した場合の「相続人不存在の状態」の管理組合の対応として、管理費・修繕積立金の滞納分の回収の適切な方法を知りたい。
【回答団体】
・NPO埼玉マンション管理支援センター
・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
【NPO埼玉マンション管理支援センター】
1.相続人不存在の場合
相続が開始されたのに相続人のあることがはっきりしないとき、相続財産は独立の法人とされ、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求により相続財産の管理人を選任し、遺産整理を実施させる。
相続人の不存在とは、通常、戸籍上相続人の存在、不存在が不明のときをいうが、相続人全員が相続を放棄した場合も相続人不存在の状態となる。
この間、管理人の選任公告、相続債権申し出を促す2か月以上の期間の公告・相続人捜索の6か月以上の期間の公告が行われる。
この期間内に相続人の権利を主張するものがいないときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻や養子・同居の継子(ままこ)など)・被相続人の療養看護に努めた者(養老院など法人でもよい)など、いわゆる特別縁故者の請求を待って、これを相当と認めるときは清算後に残存するであろう遺産の全部または一部をこの者に与えることができる。
この申立ては上記に述べた6か月以上の公告の期間が満了した後、3か月以内に限られる。
この処分もなかった遺産は国庫に帰属する。
2.組合員が死亡し、相続人全員が相続放棄した場合の管理組合の対応
民法では、相続は死亡によって開始し(法882条)、相続人は、被相続人(死亡者)の財産に属した一切の権利義務を承継します(法896条)から、死亡した人の遺した相続債務が相続財産を上回る場合にも当然相続することになると、相続人には余りにも不合理、不都合な場合もあり、相続人は相続財産を調査して、相続を承認、限定承認(相続財産の範囲で相続債務の責任を負うこと)または放棄するかを一定の期間(相続を知ったときから3か月)、考慮できることにしました。(法915条)
組合員が死亡し、相続人全員が相続放棄した場合、新しい区分所有者が決まるまで管理組合には、管理費・修繕積立金が納入されません。
相続人は全員相続を放棄する意思を示していますが、相続を放棄するためには、家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。(法938条)この手続きをしない場合は、適法な相続放棄とはなりません。
さて、相続人が適法な相続放棄の手続きをした場合には、相続財産を管理する人がいなくなりますので、相続財産は法人(会社の財産のようなもの)となり(法951条)、これを管理する相続財産管理人を選任して(法952条)、相続債権者は相続財産に権利を行使することになります。
相続人全員が相続放棄し、管理費・修繕積立金の滞納分を回収するために、通常は抵当権の付いた住宅ローン債務が残っているので、マンションの登記簿謄本を調査し、抵当債権者を捜し出して、抵当権者にマンションを競売してもらうのが一般的です。
管理組合も、滞納管理費等は一般債権者に優先する先取特権を認められるので、マンションを競売することもできますが、抵当債権は先取特権に優先し、長期間不動産価格が低迷している状況では、競売価格が抵当債権を下回ることも多く、競売手続きが取消されて実効性に乏しいといえます。
そこで管理組合は抵当権者にマンションを競売(この場合、相続財産管理人が当事者)してもらい、その配当手続きに加わって配当請求を行い、競売代金が抵当債権を上回った場合には、優先的に配当を受けて回収することにします。
また、例え競売代金が抵当債権を下回った場合にも、競売物件の調査報告書には、滞納管理費等の存在が明記されるので、滞納管理費等の存在を知って、競落することになります。
その結果、管理費等は特定承継人(競落人も特定承継人)にも承継されるので(区分所有法第8条)、管理組合は、競落人に対して滞納管理費等を請求することになりますが、競落人が滞納管理費等のあることを知らないというトラブルを避けられ、回収も容易になるでしょう。
【一般社団法人埼玉県マンション管理士会】
相続人不存在の場合には、最終的に、国庫に帰属することとなりますが、特別縁故者(内縁の妻など)や共有者が存在する場合には、それらが財産を取得することとなり、国が共有者となることはありません。(分譲マンションの場合には、土地及び建物の共有部などが共有名義となるため他の区分所有者全員に帰属することとなります。)しかし、被相続人において、債務が発生している状況で、その債務が確定している場合には、その結果を待っていては、管理組合運営に支障(他の債権者・租税債務の対応などもあります)をきたす状況が多く発生することから、管理組合としては、債権者として次の手続きを行うことが有益と考えられます。
1.裁判所への相続財産管理人の選定依頼
この場合に、選定依頼を行うことができるのは、債権者の権利となります。つまり、管理組合においては、長期間の前納や管理費等の引き落とし金融機関に区分所有者=預金者の死亡が通知されていない場合や引き落とし口座が区分所有者以外の場合(すでに亡くなった親族や法人など)などで、滞納が発生していない場合には、債権者とならないため、債権者として選定依頼を行うことができませんのでご注意ください。
なお、裁判所に選定依頼を行う場合には、弁護士に依頼することとなりますが、その依頼を受けた弁護士は、債権者の弁護士となりますので、相続財産管理人に選任されることはありません。
ただし、弁護士事務所においても複数の弁護士が所属する場合には、他の債権者からの異論がなく、裁判所の判断で不適切でないと判断された場合には、同じ事務所の他の弁護士が相続財産管理人に選定されることもありますので弁護士に依頼する場合には、効率を考慮する上での判断の1つかと思われます。
2.管理規約等の確認
裁判所に滞納管理費等の債権者として相続財産管理人の選定依頼を行う場合には、次の事項につき管理規約を確認してください。
1)訴訟の提起につき、理事会決議が可能となっているか。
2)訴訟を行う場合に、訴訟費用及び弁護士費用等につき、訴訟の相手方に請求できる旨の記載があるか。
※上記の規約が、しっかりしていないと手続き不備や支出した費用の回収ができないことがありますのでご注意ください。
(参考)裁判所に提出する書面には、各種の証拠書面が必要となります。弁護士事務所にその整理まですべて依頼すると金額的も大きな負担となり、すべての金額が、物件処分の配当になるとも限りません。ましてや、適切な会計処理が行われていない場合には、弁護士からも引き受け拒否の可能性も有ります。そのようなことの無いように、業務委託をしている管理会社又はマンション管理士を上手に活用して、弁護士との事務手続きをスムーズに行えるようにされることをお勧めいたします。
以上