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コラム:『マンション管理適正化法及び建替え円滑化法の一部を改正する法律』について

コラム:『マンション管理適正化法及び建替え円滑化法の一部を改正する法律』について

マンションの老朽化等に対応し、マンションの管理の適正化の一層の推進及びマンションの建替え等の
一層の円滑化を図るため、都道府県等によるマンション管理適正化のための計画作成、マンションの除
却の必要性に係る認定対象の拡充、団地型マンションの敷地分割制度の創設等を内容とする「マンション
の管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する
法律」(以下、「本改正法」といいます。)が2020年6月16日衆議院本会議において、全会一致に
より成立し6月24日に公布されました。

1.マンションの管理に関する現状と課題
①区分所有者の高齢化・非居住化、管理組合の担い手不足
⇒高経年マンションにおける区分所有者の高齢化、非居住化(賃貸・空き住戸化)が進行し、管理組合
役員の担い手が不足する。総会の運営や決議が困難になる。大規模修繕工事や建替え等に係る決議が
できない。修繕積立金を確保できず計画修繕が進められない状況です。
②マンションの大規模化等
⇒タワーマンションに象徴されるマンションの大規模化や設備の高度化に伴いマンション管理の専門
化・複雑化が進む。規模が大きくなるほど総会への組合員の出席率が低下し、マンション管理に係
る区分所有者の合意形成の困難さが増大しています。
③既存住宅流通量の増加、管理情報に関する情報不足
⇒既存住宅流通量が拡大する中、(過去30年で1.76倍に)マンションの新規購入者にとっては当該マ
ンションの管理が適正になされているか、今後適正に管理されていくかは重要な情報であるにも拘ら
ず、管理組合の活動や長期修繕計画の内容は外観等から判断できず、管理情報を把握できないまま購
入しているのが現状。管理情報に対するニーズ高まっています。
④適切な長期修繕計画の不足、修繕積立金の不足
⇒マンションの適時適切な維持管理が実施されるためには適切な長期修繕計画の作成、計画的な修繕
積立金の積立が必要となるところ、計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金の額を設定
している管理組合の割合は約半数に留まり、修繕積立金額が計画積立額に不足している管理組合の割
合が約3分の1となっています。

2.マンションの再生に関する現状と課題
①建替事業における事業採算性の低下
⇒建替え事例の従前従後の利用容積率比率は低下傾向にあり、老朽化したマンションの建替え等におい
ては、区分所有者の経済的負担の増加など事業採算性の低下が見られます。
②新耐震マンションの高経年化
⇒新耐震基準で建築されたマンションで築40年超となるものは2023年末34万戸、2038年末268万
戸と今後高経年ストックが急増する見込みです。新耐震基準への改正から40年を迎え、新耐震基
準マンションの高経年化の再生が課題となります。
③大規模団地型マンションの高経年化
⇒マンションストックのうち、団地型マンションの割合は1/3であり、その8割が3大都市圏に集中
しています。これまでの建替え事例は、小規模の場合が多く(事例全体の8割が100戸以下)、今後
はより大規模な団地型マンションの建替え検討時期に入る。現在建替え検討中の団地の約8割が
200戸以上の大規模団地。入居者が同時期に高齢化することによる合意形成の一層の困難化、団地
型マンション再生手法の多様化へのニーズが予想されます。

3.マンション管理適正化法の改正概要
(1)国によるマンション管理の適正化の推進を図るための基本方針の策定
(公布後2年以内施行)
これまでは、国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るため、「管理組合によるマン
ションの管理の適正化に関する指針」を定めることとされていました。改正法ではこの指針で定める
範囲を拡張し、国土交通大臣が行政の施策等を盛り込んだ総合的な基本方針として「マンションの管
理の適正化の推進を図るための基本的な方針」を法定化しました。
(2)地方公共団体によるマンション管理適正化の推進
※事務主体は市区(市区以外の区域は都道府県)(公布後2年以内施行)
ア)マンション管理適正化推進計画制度(任意)
国の基本方針に基づき、地方公共団体は、管理適正化の推進のための計画を策定する。
※ 管理適正化推進計画の内容
・マンションの管理状況の実態把握方法
・マンションの管理適正化の推進施策 等
イ)管理計画認定制度
計画を定めた地方公共団体は、一定の基準を満たす個々のマンションの管理組合が作成した管理
計画を認定することができる。
※ 認定の際に確認する事項
・修繕その他の管理の方法
・資金計画
・管理組合の運営状況 等
ウ)管理適正化のための助言、指導及び勧告
管理の適正化のために必要に応じて助言及び指導を行い、管理組合の管理・運営が著しく不適切
であることを把握したときは勧告をすることができる。
※ 管理・運営が不適切なマンションの例
・管理組合の実態がない
・管理規約が存在しない
・管理者等が定められていない
・集会(総会)が開催されていない 等
(3)管理組合及び区分所有者等の努力義務(法5条)
管理組合は、これまでもマンション管理適正化指針に留意してマンションを適正に管理するよう
努めるものとされていましたが、本改正法ではこれに加え、「国等のマンションの管理の適正化の推
進のための施策」への協力の努力義務が新たに明記されました。また、区分所有者等も、マンション
の管理に関し管理組合の一員としての役割を適切に果たすよう努めなければならないとされています。

4.マンション建替円滑化法(除却の必要性に係る認定対象の拡充)改正概要
(公布後1年6か月以内施行)
改正前の法律(マンション建替円滑化法)のマンション敷地売却制度は耐震性不足マンションを対
象としていますが、新耐震基準に基づき建築されたマンションも令和2年には築40年を迎えるもの
が出てくるなど、今後、高経年化した新耐震マンションは急増すると見込まれることから、耐震性不
足マンション以外にも次の①、②に該当するものを新たに要除却認定の対象とし、マンション敷地売
却制度を利用可能とすることに改正しました。
①外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剥離し、落下することにより周辺に危害を生ず
るおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるマンション
②火災に対する安全性に係る建築基準法またはこれに基づく命令もしくは条例の規定に準ずるもの
として国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるマンション

また、耐震性不足マンションの建替えを円滑化するため、建替え後のマンションについて容積率
の緩和特例を設け、建替えに係る事業採算性の向上や区分所有者の負担軽減を図ってきましたが、
上記の①、②に該当し要除却認定をうけたマンションについてもその対象に加えるとともに次の
③、④に該当するマンションについても新たに要除却認定の対象とし、容積率の緩和特例の対象に
改正しました。

③給水、排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして国土
交通省令で定めるものに限る。)の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそ
れがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるマンション
④高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に規定する建築物移動等円滑化基準に準
ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるマンション

5.マンション建替円滑化法(団地における敷地分割制度の創設)改正概要
(公布後2年以内施行)
住宅団地において、棟や区画ごとのニーズに応じ、一部棟を存置しながらその他の棟の建替え・敷
地売却を行うため、耐震性不足や外壁の剥落等により危害が生ずるおそれのあるマンション等で、要
除却認定を受けたマンションを含む団地において、本来全員合意が必要となる敷地の分割を多数決決
議(5分の4以上)で行えることとしています。
具体的には、マンション建替事業と類似のスキームで、団地の区分所有者による敷地分割決議、敷
地分割組合の設立、団地内の敷地の権利に関する「敷地権利変換計画」の作成等により、敷地分割の
権利変換をおこなう「敷地分割事業」を実施することができることとしています。

終わりに 【適正化法の改正と管理組合の取組】
以上のような適正化法の改正に伴い、管理組合においては、建物の維持管理及び管理組合運営の現
状を確認し、それぞれの状況に応じた対応を検討することが求められます。

ア)現状の把握(気づき診断)
改正法では管理計画認定制度が設けられ、今後改正法の施行に向けて、具体的な管理計画認定の基
準が公表されます。認定を受けられるのは、適正化推進計画を策定している都道府県等に所在するマ
ンションに限定されますが、認定の基準として示される事項は、それぞれのマンションの管理や管理
組合運営の水準を把握するのに重要なポイントとなります。したがって、当該認定基準などを参考に
それぞれの「マンションの管理、管理組合運営の現状把握」を行うことが大切です。
イ)認定基準を満たしている管理組合 ~認定の取得~
現状把握の結果、認定基準を超える水準のマンションは、認定制度が活用できる都道府県等であれ
ば、管理計画を作成し、管理計画を都道府県等の長に認定申請し、認定通知を受けることになります。
認定を取得した場合、適正に管理されたマンションであるとして市場で評価され、区分所有者全体の
管理意識が高く保たれ、その後のマンション管理水準の維持向上がしやすくなるといったメリットが
期待されます。
ウ)認定基準を満たしていない管理組合
現状把握の結果、認定の基準に達していないことが判明したマンションの場合、今後の適正な管理
組合運営の実現と建物等の維持管理について認定の基準で示されいる内容を参考に、マンション管理
の在り方の改善を検討していくことになります。
現在都道府県等は、マンション管理の適正化のための取組として、専門家の派遣やセミナーの開催、
相談窓口の設置等を行っていますが、改正法の施行後は、このような取組が一層活発化になることが
想定されます。このような行政からの支援やマンション管理士等の専門家を活用しながら建物等の資
産価値を保全し、現在及び将来において「管理不全マンション」とならないように対応することが大
切です。

以上

【参考文献】 以下の情報を引用しました。
(公財)マンション管理センター「マンション管理センター通信」2020年10月増刊号
① ~マンション関連法の改正について~  国交省住宅局市街地建築課マンション政策室
② マンション管理適正化法及び建替え等円滑化法の改正と今後の取組
佐藤貴美法律事務所 弁護士 佐藤 貴美

<NPO法人 埼玉マンション管理支援センター>

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