マンション管理コラムColumn

管理組合運営

第58回:マンションにおけるカスハラと管理組合の対応について

第58回:マンションにおけるカスハラと管理組合の対応について

【設問】
理事長をしています。近年、多くのマンションで、管理会社のフロント担当者や管理員等に対するカスハラ(カスタマーハラスメント)が問題になっているようです。管理組合として、マンションでのカスハラにどう対応すべきか、ご教示のほどお願いします。なお、当マンションの管理業務は、管理会社に一括管理方式で委託しています。

【回答団体】
・NPO 埼玉県マンション管理組合ネットワーク
・NPO 埼玉マンション管理支援センター

 


【NPO 埼玉県マンション管理組合ネットワーク】

去年9月には、マンション「標準管理委託契約書」が改定されました。

1.主な改正点としては、管理員・清掃員の計画的な休暇、やむを得ず勤務できない場合の休暇、勤務時間外の対応の明確化とカスタマーハラスメントへの対応に関する規定等の整備が新たに設けられました。
理由は、総会、理事会における威圧行為、居住者からの頻繁な電話への対応・管理委託契約に含まれない理不尽な要求等で精神的に追い詰められるという原因もあるといわれています。

2.今回の国交省の標準管理委託契約書の改正では、『カスタマーハラスメントへの対応に関する規定等の整備』も加えられました。
付加条文は次の条文になります。

第8条 (管理事務の指示)(甲管理組合、乙管理会社とする。)
本契約に基づく甲の乙に対する管理事務に関する指示については、法令の定めに基づく場合を除き、甲の管理者(理事長)等又甲の指定する甲の役員が乙の使用人その他の従業者(以下「使用人等」という。)のうち乙が指定した者に対して行うものとする。

第12条(有害行為の中止要求)
乙は、管理事務を行うため必要なときは、甲の組合員及びその所有する専有部分の占有者(以下「組合員等」という。)に対し、甲に代わって、次の各号に掲げる行為の中止を求めることができる。
一 法令、管理規約、使用細則又は総会決議等に違反する行為
(中略)
四 管理事務の適正な遂行に著しく有害な行為(カスタマーハラスメントに該当する行為を含む)
五 組合員の共同の利益に反する行為
六 前各号に掲げるもののほか、共同生活秩序を乱す行為
2 前項の規定に基づき、乙が組合員等に行為の中止を求めた場合は、速やかに、その旨を甲に報告することとする。
(中略)
5 甲は、前項の場合において、第1項第4号に該当する行為については、その是正のために必要な措置を講じるよう努めなければならない。

3.[第8条関係のコメント]
本条は、カスタマーハラスメントを未然に防止する観点から、管理組合が管理業者に対して管理事務に関する指示を行う場合には、管理組合が指定した者以外から行わないことを定めたものであるが、組合員等が管理業者の使用人その他の従業者(以下「使用人等」という。)に対して行う情報の伝達、相談や要望(管理業者がカスタマーセンター等を設置している場合に行うものを含む。)を妨げるものではない。

[第12条関係のコメント]
いわゆるカスタマーハラスメントは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されており「管理事務の適正な遂行に著しく有害な行為」に該当し、組合員等が、管理業者の使用人等に対し、本契約に定めのない行為や法令、管理規約、使用細則又は総会決議等(以下「法令等」という。)に違反する行為を強要すること、侮辱や人格を否定する発言をすること、文書の掲示や投函、インターネットへの投稿等による誹謗中傷を行うこと、つきまといや長時間の拘束を行うこと執拗な架電、文書等による連絡を行うこと、緊急でないにもかかわらず休日や深夜に呼び出しを行うことなどが含まれます。

4.管理組合の役員も管理組合の組合員であるため、当然に本条の「組合員等」に含まれることに留意すること。また、カスタマーハラスメントが発生した場合又は疑われる場合には、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参考とし、企業として毅然と対応すること。管理業者は、報告の対象となる行為や頻度等について、あらかじめ管理組合と協議しておくことが望ましい。第5項は、カスタマーハラスメントが組合員等と管理業者の使用人等との間で起こり、その是正が必ずしも共同の利益とみなされない場合があることから、管理組合に是正に向けた特段の配慮を求めるために定めたものである。以上が標準管理委託契約の改訂となります。

5.筆者として考慮すべき点は、管理会社の本社部門は、リプレイス時、顧客契約の獲得に力を入れていますが、獲得後は現場社員のフロントマンに業務任せ、一人十数管理組合の担当を任せ、フロントマンの顧客対応能力に対し業務過多の傾向も見受けられます(理事会議事録が、翌月理事会後に前月のものが届く等)。
現場の社員に委託契約上の不履行行為が発生し、善管注意義務違反が発生している事もあります。一概に顧客件数を増やす事が企業ランクを上げるという事ではなく、顧客サービス度を上げる事を念頭に、社員教育にも力を入れて、会社組織全体で顧客満足度の対応も考えて欲しいと願います。そうすれば、カスタマーハラスメントも減少する事でしょう。


【NPO 埼玉マンション管理支援センター】

1.マンション管理におけるカスハラ問題
近年、これまでのセクハラ・パワハラ等に加えて、様々な業種でカスハラ(カスタマーハラスメント)という言葉をよく聞くようになりました。
マンション管理業界においても以前から言われていましたが、特に直近3年間でカスハラを経験したことがある「直接顧客と接する機会のあるフロント又はその管理職」は6割を超えており(国交省「(一社)マンション管理業協会による実態調査集計結果」)、カスハラは管理会社の適正な業務遂行を妨げる深刻な問題となっています。
そして、これまで「お客様は神様」として、マンション内のカスハラに耐えていた管理会社も、昨今の人手不足や諸経費の高騰によるマンション管理事業の利益率低下等と相まって、管理組合との管理委託契約を更新しないところが増えています。カスハラ対策は管理員やフロント等の尊厳と健康を守るだけでなく、適切なマンション管理業務を遂行するためにも、管理組合・管理会社双方にとって大きな課題です。
※カスタマーハラスメントとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています(厚労省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」)。

2.標準委託契約書に基づくカスハラ協議
令和5年9月、国土交通省の「マンション標準管理委託契約書」(以下「標準委託契約書」という。)及び同コメントの改訂が行われ、カスハラ関係の条項も新たに追加されました。標準委託契約書は、管理組合が管理会社に委託する業務内容等を定めた契約書のひな形であり、約94%の管理組合が概ねこれに準拠して、管理会社とマンション管理委託契約を締結しています(国交省「令和5年度マンション総合調査結果」)。貴管理組合におかれましても、改訂された標準委託契約書及びそのコメントを基本に、居住マンションのカスハラに関するルールや対応方法について管理会社と協議・検討を行い、総会で決議されることをお勧めします。改訂された標準委託契約書におけるカスハラ関連条文及び同コメントの概要は次のとおりです。
※特記:「条文の詳細は、標準委託契約書(改訂版)を参照のこと」

〇第8条(管理事務の指示)
カスハラを未然に防止する観点から、管理組合が管理会社に対して管理事務に関する指示を行う場合には、管理組合が指定した者以外から行わないことを定めています。

〇第12条(有害行為の中止要求)
第12条は、特定の組合員等がカスハラ行為をしたときは、管理会社はその組合員等に対し行為の中止を求めることができ、速やかにその旨を管理組合に報告すること、その組合員等がカスハラを中止しない場合は管理組合に対して書面をもって報告しなければならないこと、そして報告を受けた管理組合はその是正のために必要な処置を講じるよう努めなければならない、という内容です。
また、カスハラに該当する行為には、組合員等が、管理会社の使用人等に対し、①本契約に定めのない行為や法令、管理規約、使用細則又は総会決議等(以下「法令等」という。)に違反する行為を強要すること、➁侮辱や人格を否定する発言をすること、③文書の掲示や投函、インターネットへの投稿等による誹謗中傷を行うこと、④執拗なつきまといや長時間の拘束を行うこと、⑤執拗な架電、文書等による連絡を行うこと、⑥緊急でないにもかかわらず休日や深夜に呼び出しを行うこと、などが含まれる、とコメントに記載されています。
なお、管理組合の役員もその組合員であるため、当然に本条の「組合員等」に含まれることに留意する必要があります。

〇第26条(誠実義務等)
カスハラを含め、ハラスメントはどちらからも起こる可能性があります。本条の誠実義務には、管理会社・管理組合双方ともに厳にハラスメントに該当する言動を行わないことが含まれます。

3.管理組合と管理会社のカスハラ対応
マンション管理の主体は区分所有者で構成される管理組合です。管理組合はカスハラに対して、特定の個人または管理会社の問題として傍観するのではなく、カスハラに関する連絡体制や対応策等について管理会社と協議し、管理組合として組織的に検討・対応することが必要です。
管理組合と管理会社は、お互いの立場を尊重し合い、より良い住環境の形成に向け、日頃からコミュニケーションを取り、相互の信頼関係を構築する努力を行うことが大切です。カスハラのないマンション形成に向けて、ご活躍を期待しています。

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