マンション管理コラムColumn

建物の不具合

第26回:建物管理(修繕)について

第26回:建物管理(修繕)について

築40年のマンションに昨年末に入居しました。入居時に台所、洗面所、浴室をリフォームし、その際給排水管も取り替えています。ところが、今年の総会でマンション全体の給排水設備を更新することが決議され、その中で専有部分の給排水管も一斉交換することになりました。その費用は修繕積立金と借入金でまかなうとのことです。専有部分の修繕は各自の責任で行うと規約には書いてあるのに、修繕積立金を使うのは違法ではないでしょうか。また、全く交換の必要のない家まで更新し、多額の費用を負担することも納得できません。


【NPO法人埼玉マンション管理支援センターの回答】

区分所有者の居室は管理規約上「専有部分」として記載され、費用は「個人負担」と記載されている規約が多いかと思います。
築40年を経過したマンションの場合は、マンション保険等で漏水事故の費用が給付されない事例が急増しています。理由は、老朽化には「保険が適用されない」のが原則だからです。保険会社も「漏水事故」の費用の増大により赤字となったため、保険料の大幅値上げをすでに行っています。つまり、今後漏水等があった場合は、保険が適用されず、すべて個人負担となるということです。
それに対応して、マンションンの個人の問題としてではなく、資産価値の確保や居住者同士のトラブルを防ぐためにも「給排水管の更新」を共用部分として更新する事例が増えてきています。この事例で「総会」において一斉交換の決議を承認されたのも、このことを居住者が理解したからだと思います。ただし、更新済の居住者に対しては、修繕積立金から相当分の「費用の払い戻し」をすることの検討も必要かとは思います。
また、工事済でまったく問題無い個所といっても、材質を替えずに行った工事であるならば、いずれ問題は発生する可能性もあります。違法かどうかではなく、なぜそうしなければならないかという事を理解してあげたほうがよいのではと思います。

事例:標準管理規約の第28条(修繕積立金)二項 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕・・・特別の管理に要する経費に充当できるとなっています。
第32条(業務)十七項 その他組合員の共同の利益を増進し、良好な環境を確保するために必要な業務 とも示されています。


【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】

標準管理規約第21条2項に「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合はこれを行うことができる」とあり、工事そのものについては標準管理規約と同様な規約となっている管理組合では可能と考えられます。
ただ、共用部分と専有部分の一体工事での費用の修繕積立金からの支出については、その可否について意見が分かれています。
区分所有法第30条第1項に「建物の管理または使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるほか規約で定めることができる」とされており、その旨の規約の変更を総会による特別決議で決めた場合などは、規約は自治規範であるので良いのではないかという意見があります。一方で反対の考え方もあるのが現状です。
給排水管の枝管部分を専有部分と解する限り、各区分所有者は所有権の帰属者として、その責任と負担において維持管理をするのが確かに原則です。
しかしながら、共用部分の本管と専有部分の枝管とを一体的に工事する必要性があり、かつ、改修工事をしないと建物全体に影響を及ぼすような構造になっているような場合には、当該枝管帰属者に維持・管理を求めることが難しいときもあり、全体として、建物の維持管理が行き詰ってしまうような事態もあります。
※専有部分とされていたから取替工事を実施したケースでの質問であり、後付けで共用部分とする例示は不適切と考えます。

設問の場合については、総会でどう決議され、規約変更等がなされたのか今少し不明な点もあります。
管理組合が可の立場に立つ必要があるときは、まず①区分所有者間の衡平性の確保,②先行工事者への措置③長期不在者・入室拒否者への対応などきめ細かい対策が必要でしょう。
この設問の参考として、ある管理組合が公平性の確保の観点から、アンケートなどの実施により、各戸(区分所有者)の実状をより詳しく把握し、先行工事者への適切な費用補填などにより解決している事例もあります。
また、全く交換の必要のない事が明確である無駄な工事はいずれにしても必要ないでしょう。
重要なことは適正な管理によって建物の維持管理がなされることですから、組合内が十分な話し合いのもと理解しあい、争うようなことにならないようにすることです。


【一般社団法人首都圏マンション管理士会埼玉県支部の回答】

貴管理組合の規約が、あなたのおっしゃるとおり「専有部分の修繕は各自の責任で行う」とだけ定めていて、これに関する例外を定めた規定がないのであれば、総会の決議を経たとしても、専有部分である給排水管の管理のために修繕積立金を支出することはできません。
これは、設定・変更・廃止をする総会の決議方法がより厳格な規約の方が、通常の総会決議より効力が上であることによります。

ただ、管理組合の規約に、国土交通省マンション標準管理規約(以下「標準管理規約」)21条2項(下記枠内参照)に準拠した規定が置かれている場合には、結論が変わってくる可能性がありますので、念のためもう1度規約をご確認いただければと思います。

標準管理規約21条2項 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。

この規定は、給排水管清掃のように管理組合が一体として行う方が効率的な場合について、管理と責任に関する例外を定めたものです。
このような規定があれば、排水管清掃のような共用設備の保守維持費について管理費からの支出が可能と考えられています(標準管理規約コメント21条関係⑤前段)。なお、標準管理規約48条九号に準拠した規定が置かれているのであれば、その管理の実施のためには総会決議が必要です。

ただし、上記の標準管理規約21条2項に準拠した規定が置かれていたとしても、直ちに修繕積立金からの支出も認められるとは考えられていないことに留意が必要です。標準管理規約コメント21条関係⑤の後段に「配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである」との記載があることが参考になります。
そこで、標準規約21条2項に準拠した規定だけでなく、あわせて修繕積立金の使途に関する規定の中に専有部分の管理のためにも支出できることが定められている場合には、特別の管理についても専有部分との一体管理を実施できるかということが問題となります。
この問題は、専門家の間でも判断の分かれるところですが、仮に管理組合がここまで周到に規約を整備しているのであれば、これを肯定的に解して総会提案どおり給排水管更新工事を実施する可能性が高いと思われます。こうした場合には、まずは、柔軟で無駄のない方法で実施してほしいと考えている他の組合員と力を合わせて粘り強く管理組合に働きかけることが必要かと思います。

上で述べたような管理組合が行う専有部分も含めた一体管理の実施についての規定がない場合には、「規約違反である」ことを伝えて工事を中止してもらえればよいのですが、場合によっては、「必要性が高いから」とか「かなり時間をかけて検討してきたことだから」といった理由で耳を傾けてもらえないおそれもあります。そうした場合には、変更が必要となる具体的な規約案と、一体管理の実施を拒むことができる専有部分の基準について多くの組員から合理的であると理解を得られるような案を示すことも必要となるかもしれません。

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