マンション管理コラムColumn

費用負担

第19回:ガイドラインに基づく修繕積立金とは

第19回:ガイドラインに基づく修繕積立金とは

私たちの住んでいるマンションは築10年、戸数45戸、1戸あたりの専有面積は約75㎡、管理会社に管理を委託しています。

 管理費及び修繕積立金としてそれぞれ毎月3,000円、2,000円を集めています。

 現在の修繕積立金残高は約10,880,000円(積立金10,800,000円、入居時の修繕積立一時金0円、運用益等80,000円)となっています。
 先日修繕積立金のガイドラインが国土交通省から示されましたが、ガイドラインと比較すると毎月の積立金額が少なく、今後、実施する長期修繕計画どおりに進めることができるのか不安です。
 実際に、今後、大規模修繕工事を含めてどのような修繕工事がいつ頃発生するのか。また、その修繕を実施するためにはどの程度の金額が必要となり、毎月いくら位の修繕積立金を徴収することが妥当なのか教えてほしい。
 なお、修繕積立金は来年度(11年目)からは、4,000円に倍増される予定です。
 また、長期修繕計画や修繕積立金の見直しはどの程度の頻度で行うべきか教えてほしい。

【マンションの修繕積立金に関するガイドラインとは】

(一般社団法人埼玉県マンション管理士会作成)

1.国土交通省から修繕積立金に関する基本的な知識と修繕積立金の額の目安を示した「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」が公表されました。

このガイドラインは、主として新築マンションの購入予定者向けに修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安を示すものですが、修繕積立金の見直しを検討している管理組合においては、ガイドラインを参考にして見直しの必要性や修繕積立金の概ねの水準を知ることができます。

2.マンションの修繕工事には多額の費用を必要とするため、将来予想される修繕工事に必要な費用を修繕積立金として長期間にわたり計画的に積み立てていく必要があります。

修繕積立金の積立方式には、長期修繕計画で計画された修繕工事費の累計額を計画期間中均等に積み立てる方式(均等積立方式)と当初の積立額を抑え段階的に積立額を値上げする方式(段階増額積立方式)がありますが、段階増額積立方式は増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足するおそれがありますので、将来にわたって安定的な修繕積立金を確保するためには均等積立方式が望ましいといえます。

新築マンションの場合は段階増額積立方式を採用している場合がほとんどで、当初月額が著しく低く設定されている場合もあります。従って、新築マンションの場合には、ガイドラインで示された修繕積立金の額の目安を参考にして、現在の修繕積立金の額が適正か検討することが必要です。

3.修繕積立金の額の目安について、ガイドラインで次の額が示されています。

1)専有床面積当たりの修繕積立金の額

階数/建築延面積 平均値 事例の3分の2が包含
される幅
[15階未満]5,000㎡未満 218円/㎡・月 165円~250円/㎡・月
[15階未満]5,000~1,0000㎡ 202円/㎡・月 140円~265円/㎡・月
[15階未満]10,000㎡以上 178円/㎡・月 135円~220円/㎡・月
[20階以上] 206円/㎡・月 170円~245円/㎡・月

 

2)機械式駐車場の機種 修繕工事費(1台あたり月額)

機械式駐車場の機種 修繕工事費(1台あたり月額)
2段(ピット1段)昇降式 7,085円 / 台・月
3段(ピット2段)昇降式 6,040円 / 台・月
3段(ピット1段)昇降横行式 8,540円 / 台・月
4段(ピット2段)昇降横行式 14,165円 / 台・月

機械式駐車場がある場合には、駐車場の修繕工事費を加算して修繕積立金を算出することが必要です。

ガイドラインで示された修繕積立金の額の目安は、収集した事例から設定されたものであり、建物の規模以外の要因を考慮していません。修繕工事費は、建物の形状や規模・立地、仕上げ材や設備の仕様、工事単価、機能向上に対するニ-ズ等様々な要因により異なるものであるため、ガイドラインで示された修繕積立金の額の目安を参考にして個々のマンションの修繕積立金の見直しや額の算出を行うことが必要です。


【NPO法人埼管ネットの回答】

外壁が塗装されている一般的な建物では、築12年前後が大規模な改修時期となります。設問のマンションは築10年ですから、そろそろ2年後の修繕を考える時期になります。戸数45戸とすれば、特殊な構造や設備がないとした場合、大規模修繕工事費は通常戸当たり80万円~100万円前後になると思われます。工事総額にして3,600万円~4,500万円くらいになります。

これを現在の修繕積立金及び修繕積立金残高と比較してみましょう。現在の修繕積立金額は約1,088万円であり、月々の修繕積立金が現在の2,000円(㎡当たり約27円)から11年目に4,000円(㎡当たり約53円)になるということですから、大雑把に2年後には1,520万円位になっています。他に支出がない場合です。仮に工事総額が4,500円とした場合、3,000万円不足することになります。現在の修繕積立金を11年目から各戸月額4,000円にしても、工事総額の約1/3前後の自己資金しかありません。2/3が不足します。自己資金で大規模修繕工事を賄いためには、11年目から2年間は修繕積立金の月額を約27,600円(㎡当たり約368円)にする必要があります。

入居時点での修繕積立金は、12年目の大規模修繕工事を自己資金で賄うとした場合、単純に試算して各戸月額6,950円(㎡当たり約93円)位が必要になります。更に修繕工事は12年目の大規模修繕工事の他に4年~6年ごとに行われる鉄部塗装もあります。第1回目の大規模修繕工事の後には、12年後に2回目が来ますが、2回目(築24年目)の工事は、設備その他の改修工事が入ってくるため、1回目に比較してさらに大きな工事費が掛かります。約30年間に掛かる修繕工事費を最初から見込んで、毎月均等に積み立てる均等積立方式と段階的に増額していく段階増額積立方式があります。いずれの方式を取るか、建物の経年を考えて、管理組合で協議し、合意していく必要があります。

平成23年4月に国土交通省から発表された「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」は、新築マンションの購入者向けに修繕積立金に対する基本的な知識に資する目的ですが、修繕積立金の見直しを検討している管理組合に対しても比較検討する資料として十分役立つものです。


【NPO法人日本住宅管理組合協議会埼玉県支部の回答】

 《現在の修繕積立金の根拠は?》

現在の修繕積立金の根拠は、どこにあるのでしょうか。また、4000円に倍増するということですが、その根拠はなんでしょうか。

新築マンションを販売するに当たって売りやすくするために、管理費や修繕積立金等を低く設定しておいて、その後にそれらの値上げを管理会社が提案することいったことが常態化しています。国交省の修繕積立金のガイドラインはこういったことも視野に入れたものであることも把握しておきたいものですが、貴管理組合はまさにそれに該当すると思われます。

《問題の核を理解しましょう》

ご質問の根底は修繕積立金の根拠づくりについてのものと思います。大切になるのは、修繕積立金の考え方です。不足してから慌てて値上げをする、また不足したら値上げをするということは、できる限り避けたいものです。

計画的に修繕積立金を徴収することが大切です。そのためには、長期修繕計画の策定が欠かせません。

《長期修繕計画とは》

長期修繕計画とは、主として共用部分を対象として、「いつごろ(修繕時期)」「どこを(修繕範囲)」「どのように(修繕工法)」「いくらで(修繕費用)」「25年程度の将来予測と集計」を策定するものです。

長期修繕計画の策定の必要性は、マンションの維持管理を推進するための重要なツールであり、修繕積立金の根拠となるといったことによります。このツールは、建物の経年変化、時代性、修繕工法の変化といった関数を数年ごとに見直すことが必要となります。長期修繕計画を策定するには、建物や設備の健康診断というべき、現在の健康度を調査することから始めなければなりません。つまり、長期修繕計画が机上の空論にならないようにするには、建物自体の状態を把握しなければならないということです。

《独自の長期修繕計画を策定しましょう》

この長期修繕計画によって、どの部位(屋上防水、外壁など)に、どのような修繕工法で行うために、いくら必要、といったことが明示され、それらによって、将来にわたって修繕費用がいくら必要なのかが算定されます。

当然ですが、これは、マンションごとにすべて異なりますが、新築当初に作られた管理会社主導の長期修繕計画は、固有の設備などは入っているものの大抵の場合どこのマンションでも使えるようなものもあり、長期的な修繕積立金のことを考えるとあまり役に立っていない場合が多いようです。

現状の建物等の劣化度を押さえた、独自の長期修繕計画の策定は必須です。その時に、国交省の修繕積立金ガイドラインを参考にすることはよいかもしれません。

長期修繕計画から導きで出された必要な修繕積立金を元にしっかりと明日に備える積立金を集め、計画に基づいて修繕委員会などを設置し、タイムリーに修繕工事実施したいものです。


【一般社団法人首都圏マンション管理士会埼玉県支部の回答】
 国交省は平成23年4月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しました。この修繕積立金のガイドラインで提示した金額は「新築時から30年間に必要な修繕工事費の総額を当該期間で均等に積み立てる方式(均等積立方式)による月額として示したもの」です。これによれば、専有面積75㎡、戸数45戸の貴マンションは、15階未満、延床面積5,000㎡のマンションの区分に該当すると思われます。
 ガイドラインによる貴マンションの修繕積立月額の目安は「専有面積75㎡」×「218円」=16,350円が平均値の金額であり、振れ幅として12,375円(75㎡×165円)から18,750円(75㎡×250円)の間の幅に毎月の積立金額があることが望ましいとされています。明らかに貴マンションの毎月の修繕積立金の額はガイドラインと比較して少なく、11年目からは毎月4,000円に倍額値上げを予定しているようですが、この金額においても妥当か否か判断に迷うところです。
 貴マンションが築10年ということで、近いうちに第1回大規模修繕工事が予定されるようですが、確かに計画通り進めることができるのか不安であるかと思われます。そこで大規模修繕工事を行う前に、建物調査診断を行い、長期修繕計画の見直しと25年間に必要とされる適切な修繕積立金総額を算出すること、第一回目の大規模修繕工事に必要とされる金額を明示し、区分所有者に必要とされる負担額を提案すべきかと思います。それにもとづいて、大規模修繕工事には一時金の徴収が必要であるのか、借入金をする必要があるのか、現状で大丈夫であるかを判断すべきでしょう。また今後毎月どれくらい修繕積立金を徴収する必要があり、その妥当な値上げ額がいくらであるのかを検討し決定すべきかと思われます。
 区分所有者への合意形成をはかるためにも金額の根拠を明確にすべきであり、そのためにも適切な建物調査診断の実施と長期修繕計画の見直しが必要と思われます。また、築10年の貴マンションが今新たに25年の長期修繕計画を作成すると、新築時には網羅できなかった修繕項目のうち30年を超える修繕工事項目も網羅することができ、修繕工事の総額が明らかになると思われますので、ぜひとも適切な建物調査診断を勧める次第です。
 長期修繕計画、修繕積立金の見直しの頻度は国交省「マンション管理標準指針」では5年ごとに見直しをすべきと提案しております。
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