マンション管理コラムColumn

費用負担

第45回:管理費等の値上げを含む見直しを検討するにあたっての注意点について

第45回:管理費等の値上げを含む見直しを検討するにあたっての注意点について

【設問】
管理費等の見直しを検討したい。どのようなことに注意すればよいのか。
昨年度第2回大規模修繕工事(外壁塗装工事、屋上防水工事等)を実施した。
12年後に第3回大規模修繕工事を計画しているが、長期修繕計画の見直しをした。その結果、このまま管理費等の値上げをしないと工事資金不足に陥るおそれが出てきた。
管理費等の値上げを含む見直しをするにはどのようなことに注意すればよいのか。

【回答団体】
・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
・NPO日本住宅管理組合連合会
・NPO匠リニューアル技術支援協会

 

【一般社団法人埼玉県マンション管理士会の回答】
1)専門委員会(管理費等改善委員会)の立ち上げ
理事会において専門委員会(管理費等改善委員会)を立ち上げ、管理費等(管理費削減及び長期修繕計画に基づく工事費用積算。)の見直しを検討します。
2)管理費の見直し
①数社の管理会社より現業務仕様書のベースで見積を取得して比較する事とします。
②管理会社への全面委託を見直し、専門業者に部分委託する事(エレベータ保守業務、排水管清掃業務、清掃業務、植栽管理業務等)を検討します。併せて管理員の勤務時間の短縮(業務内容に支障が出ない範囲で)も検討します。
③この最終業務仕様で同じ条件で現管理会社の他3社位から、再度見積りをとり、区分所有者を集めての候補業者のプレゼンテーションを実施します。(委託料の安さだけでなく委託業務の質や信頼性などの判断が必要。) プレゼンテーション内容を踏まえ、管理会社委託先を見直します。
3)修繕積立金の見直し
専門委員会で修繕積立金も修繕工事内容、実施時期、工事費用積算の妥当性を検討します。委員として外部専門家(建築士、マンション管理士等)にも参加してもらうと良いでしょう。
“マンションの修繕積立金に関するガイドライン”における「目安の幅」以上になっているかどうかを判断(一時金徴収をしない前提)して、値上げも含む修繕積立金額を設定すると良いでしょう。

 

【NPO日本住宅管理組合連合会の回答】
この質問における管理費等とは、長期修繕計画、大規模修繕工事にかかることですから、この回答では管理費等とせず、修繕積立金として話を進めます。そして、 “値上げ”ということばを“積み増し“というように直して話を進めます。修繕積立金は値を上げるわけではないので、そもそもそのことば自体に問題が隠されていることがあります。

質問にある問題は次のようなことが考えられます。
・建物等の状態(点検や診断)を適時・適切に実施されていたか。
・長期修繕計画を適時・適切に見直しをしてきたか。
・今回の見直しについても、今後必要な修繕等の箇所が含まれているか。
・当該マンションのビジョン(将来展望)はどうなっているのか。
・それらを管理組合全体で課題として取り組む姿勢があったか。
以下、ランダムになりますが、説明していきます。

長期修繕計画に必須項目を反映させる
・建物・設備の維持・保全を念頭に、マンション固有の建物や設備などを、図面と実際がどうなっているかを確認。数年ごとに点検をし、それを長期修繕計画に反映させる。
・ガス管や敷地内の埋設排水管は当初、長期修繕計画書に示されていないことがある。
・それぞれのマンション固有の特徴的な建物や設備がある場合、一般的な長期修繕計画では示されない。
・一時金の徴収は、とくに居住者が高齢化しているマンションではハードルが高いので、長期修繕計画の見直しとそれに伴う修繕積立金の積み増しの提案を都度行う。

ビジョン(将来展望)の策定
長期修繕計画は、事務的・機械的に策定するのでなく、マンションの将来をどうしたいのか、どうすべきなのかといった観点や大きな目標といったことが欠かせません。建物を長く使うという考え方は重要で、そのためにはビジョンの策定が不可欠なのです。
ビジョンを考える上で、いくつかのポイントがあります。
まず、アンケートを実施し、永住志向、住むに当たっての不安や問題、建物等の不安、希望したいことなどを把握します。居住者の実態とその考えていることを把握しつつ、マンションのビジョン(将来のあるべき姿・将来展望)を、みんなで作り上げます。
当該マンションには、永住を考える居住者がどの程度いるかをはじめ、建物の固有性なども訊きます。重視したいのは、それらがマンションの居住価値の向上に結びついているのかということです。

築50年になるT団地では、外断熱、サッシの交換、玄関ドアの交換、耐震改修といった改修工事を実施しました。「取り敢えず、あと30年は保たせよう」という取り組みです。
サッシや玄関ドアからは隙間風が入り込み、「冬は、寒くて寒くて」という状態でした。一連の工事のコンセプトは“健康”と“安全”です。準備もお金もかかりましたが、時間をかけて話し合いを重ねながら合意を形成していきました。改修工事の結果、目標は達成でき、「からだが楽になった」という実感を、皆さんは口にしていました。

建物をどの程度長持ちさせたいのか
先述に示したように、建物をどの程度もたせるのか、それは何のためなのかです。
大規模修繕工事を、単に建物等の維持・保全ための修繕や改修という言葉だけで括ってしまうことが多いのですが、それ以前に、それはなんのために実施するのかをしっかりと話し合っておくことが必要です。
事務的・機械的に大規模修繕工事を実施するのではなく、ビジョンの策定とその見直しを行い、それを基に長期修繕計画を見直すとこと。それが修繕積立金に直結するので、長期修繕計画に何を盛り込むのかは極めて重要になります。

ワークショップ
ビジョンの策定や見直しには、ワークショップが極めて有効です。批判厳禁、他の人の意見などを流用してアイディアを出すなど、わいわいガヤガヤとした雰囲気を作りながらマンションのビジョンを作り上げていきます。ワークショップでは、ファシリテーターと呼ばれる進行係の役割が重要になってきます。
ワークショップでは、お金のことはあまり考えません。先述のアンケートの作成も、どのような質問項目をするのかもワークショップから得られます。そのアンケート結果を受けて、さらにワークショップを実施します。
ある程度作り上げた一次ビジョンを基に、長期修繕計画の見直しに移ります。よくある長期修繕計画の策定は事務的・機械的になりがちで、それは設計コンサルタントにすべてお任せしてしまうなど、管理組合が受動的になるとマンション固有、居住者視点に欠けてしまうことがあります。修繕委員会がコンサルタントは一次ビジョンを意識し、またコンサルタントの意見も尊重しながら、そして、この時、そもそも積立金が充足しているのかも考慮してきいきます。
長期修繕計画に盛り込みたいけれど積立金が不足している場合、理事会に諮り、積み増しを検討することになります。これは、大規模修繕工事の設計段階においても同様です。
長期修繕計画が策定されている管理組合の率は高いという、国のマンション総合調査がありますが、長期修繕計画を根拠とした修繕積立金は、不足気味になっているのが実態ではないかと感じます。2022年4月1日からスタートする国の管理計画認定制度の修繕積立金を確認すれば、それが理解できるのではないかと思います。

建物や設備は時間の経過とともに劣化度が高まり、修繕や改修部位の範囲が広がり、それに伴って修繕費用は増していきます。しかも長期修繕計画に示されていなかった、ガス管の更新や敷地の排水管の更新・更生、外構改修といった工事も出てきます。それに加え、マンションのビジョンによって必要とされる新たな改修等の工事も出てくる可能性もあります。

事例から考える
40戸ほどのAマンションは2回目の大規模修繕工事がかなり遅れたために、瓦屋根の部分の劣化が進んで修繕積立金ではカバーできず、住宅金融支援機構からの借り入れによって工事を実施しました。
その後、金融関係に勤めているという理事長が自ら長期修繕計画を策定。3回目の大規模修繕工事を2回目工事から25年後に設定したのです。それは、その時に大規模修繕工事が可能な修繕積立金が集まっているという理由です。つまり、積み増しをせず、現状の積立金のままで大丈夫であるという、建物等の劣化度を優先せずにお金だけから導いたのです。25年を経ずに屋上防水、給水管、排水管やエレベーターなどの改修工事が必要となるのは目に見えています。

この事例のように修繕積立金に合わせて大規模修繕工事を行うことが散見されます。この場合、あまり問題がない部分もありますが、実施すべき部分を先送りしてしまうといった管理組合もあります。LサイズのからだにSサイズの服を着せようとするので、できない部分が出てきます。そもそも25年後の工事というのが合理的なのかです。

このようなことに陥らないためにも、長期修繕計画の見直しと修繕積立金の見直しを行い、都度、区分所有者にしっかりと説明をし、理解を求めていくことが重要です。

築40年、200戸のN団地は、以前から理事会が積み増しの必要性を訴え、総会での承認を求めていましたが否決されていました。しかし、水漏れが多発し排水管の改修が待ったなしの状況になりました。ところが、積み増し反対だったので、その分の費用はまったくない。そこで理事会は、住宅金融支援機構からの借入れを提案。総会で承認され、無事、排水管改修工事が実施されました。当然借りたお金は返済が必要ですから、修繕積立金は今まで以上に納めなければなりません。この団地は、一時金の徴収か借り入れかを議論し、一時金の徴収は絶対に無理との多くの意見があり、切羽詰まった上での借り入れによる改修工事でした。それも、水漏れを実感してのものでした。
借入の場合、どこから借りるのかもしっかりと考えて決めていく必要があります。

建物の劣化状況を、居住者みんなで点検するといった取り組みをしている管理組合もあります。ビジョンの策定や見直しを行い、それを長期修繕計画に反映させ大規模修繕工事に結びつける。マンションをよりよく、住みやすく、居住価値を高めるといった基本的な考え方を共有することが修繕積立金の“積み増し”の理解につながります。

修繕積立金の積み上げは、区分所有者に参加してもらうワークショップやアンケートを実施し、それらの状況を広報し、居住者が常に知っている状況を作り、その必要性の理解を求めていくことが欠かせません。

 

【NPO匠リニューアル技術支援協会の回答】
◆現在築25年、次回3回目大規模修繕工事を37年予定として管理費等の値上げを含む見直しする場合の留意点
1.管理規約で修繕積立金を値上げするための決議方法を確認する。
2.修繕積立金の値上げをいきなり総会に提案してはいけない。
値上げについては反対意見が出ることが予想されるので、アンケートの実施、説明会開催などにより「なぜ値上げが必要なのか?」 「値上げする根拠は正しいか?」 「いくら足りないか?」 「いつ頃足りなくなるか?」 「いっどれだけ値上げするか」等丁寧な説明が必要。
3.修繕積立金値上げの手順
1)管理費等の値上げを含む見直しが必要な根拠を作成する(既存長期修繕計画の再検討)
既存長期修繕計画の大規模修繕工事修繕費及び修繕周期が適切かを検証する。一般的に大規模修繕工事周期は10年~15年であり、 2回目の大規模修繕工事が適切に行われていれば次回12年後の計画を15年への先延ばしは可能と思われる。併せて資金計画についても一時借入・返済等を考慮しているか検証する。
エレベーター・給排水設備については現状の劣化状況を把握した上で仕様及び更新時期を見直す。
長期修繕計画については少なくとも築60年迄計画する。出来れば築80年迄作成が望ましい。
値上げ方法は①借入無し②借入有り③一括値上げ④段階的値上げ等複数案検討する。
2)立体駐車場があり駐車場収入が管理費会計に繰り入れしている場合は駐車場単独の長期修繕計画を作成するか、又は修繕積立金会計への合算が必要。
(駐車場収入は本来駐車場修繕・立替え費用として別途に積み立てるべき。)
3)管理費等の値上げに関するアンケートを実施する。
4)アンケート結果集計と意見に対する考えをまとめる。
5)理事会の方針及びアンケート結果及び再検討長期修繕計画を区分所有者に広報して説明会を開催する。
6)管理委託している場合は、同時に管理委託費(基幹事務及び建物・設備管理業務)の値下げも検討する。
4.修繕積立金は少しでも早く、出来るだけ大きく値上げしておくことが将来の負担軽減に繋がる。

一覧に戻る

相談受付フォームConsultation Counter

マンション管理に関する相談を受け付けています。

相談受付フォーム