マンション管理コラムColumn

費用負担

第54回:給排水管工事

第54回:給排水管工事

【設問】
共用部分と一体として管理されている給排水管等の設備について修繕積立金を使用して工事を行う事例が増え始めている。修繕積立金を使用しての専有部分の給排水管工事についての手順および留意点について助言をお願いします。

【回答団体】
・一般社団法人埼玉県マンション管理士会
・NPO日本住宅管理組合協議会
・NPO匠リニューアル技術支援協会

 


【一般社団法人埼玉県マンション管理士会】

専有部分の管理は本来、区分所有者の費用負担で行うことが原則ですので、管理組合が構造上一体となった専有部分の給排水管を共用部分と一体管理するには、管理規約の整備・改正が必要となります。

1.管理規約の改正内容について
①「専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がその責任と負担においてこれを行うことができる」
②「共用部分と構造上一体となった横管(専有部分)の給排水管の更新工事の費用を修繕積立金等から取り崩しができる」
③修繕積立金等を取り崩しすることから、その工事は総会の特別決議(3/4以上の賛成)とする。

2.更新工事を区分所有者の費用負担で完了していた場合について
管理組合が1戸当たりの平均更新工事費用相当を修繕積立金から補填することも、併せて考慮する必要があります。(給排水管の更新工事を何戸完了しているか事前に把握しておく必要があります)

3.総会前の事前説明会開催について
総会前に事前説明会を開催し、下記の内容について説明することでトラブルが生じなくなるでしょう。

①専有部分の給排水管の更新工事を管理組合が責任と負担で行う事(一時金等の負担は求めない事)
②すでに専有部分の更新工事を区分所有者の費用負担で完了していた場合、平均更新工事費用相当額を修繕積立金から補填すること。


【NPO日本住宅管理組合協議会】

「共用部分と一体として管理されている給排水管等の設備」の範囲をどこまでにするのかが、先ずは大切です。「給排水管」を主とした範囲なのか、その先のトイレ・浴室・洗面・キッチンなどを含むとするのかです。仮に後者であれば、その分の費用もあらかじめ積み立てなければなりません。それらは、色やデザイン面の嗜好的側面もあるので、選択可能なのかいったことも、費用に関わることなので、あらかじめ決めておく必要があります。

ここでは以降、配管に限って回答を進めます。

専有部分の給排水管の改修における工事の主体と費用負担の枠組み

(1)工事も費用も専有部分を所有している区分所有者が担う。
(2)工事は管理組合で全体的に担い費用は区分所有者が負担する。
(3)工事も費用も管理組合が担う。
(4)専有部分の給排水管は共用部分であることを管理規約化し、工事も費用も管理組合が担う。

現状の管理規約を確認しましょう。

専有部分の給排水管は、その部分の区分所有者が工事も費用も負担するようになっている場合、専有部分の工事を行わなかったり、仕様がバラバラになりがちなので、マンション全体から見ると良い方法とは言えません。

県内のある管理組合では8%の住戸しか専有部分の給排水管の工事は行われず、10年以上を経て、管理規約を改正し、専有部分としていた給排水管を共用部分とし、一斉に工事を行いました。但し、すでに実施済みの住戸に対しては、工事費を年数で割り、戻すなどの措置をとっています。

現状の長期修繕計画を確認し、専有部分の給排水管の改修が含まれているのか。つまり、修繕積立金にそれが反映されているのかを確認し、反映されていなければ、長期修繕計画を見直すとともに、修繕積立金もそれにリンクさせること。つまり、専有部分の給排水管の改修費用を修繕積立金に積み増す(一般的には値上げ)ことが必要になります。

それ以前に、管理規約が専有部分の給排水管改修を修繕積立金を使用できるように見直し、総会での特別決議で可決しておくことです。

管理規約を曖昧なままにして専有部分の給排水管改修に修繕積立金を使い、その後、一部の組合員から訴訟を起こした例はいくつかあります。

管理組合によってすべての住戸を一定の期間に工事を行うのは、仕様の統一とそれに伴う工事なので、一定の品質が担保されるというメリットがあります。しかも、費用も管理組合で賄うことで、工事を拒む住戸は多くありません。

一方、工事も費用も区分所有者に委ねられていると、工事を実施するのはわずかで、実施しない住戸が多く、漏水の懸念が大きくなります。どちらにしても工事と費用は必要なので、管理組合が一斉に実施することで、漏水の不安を払拭することができ、建物の維持・保全にとってメリットが大きいと言えます。

マンションの建物を保つには、外からの雨水を躯体に浸透させないために屋上防水や外壁塗装などの適時適切な工事が必須です。同時に、給排水管からの漏水も躯体を傷めるので、共用部分の給排水管だけでなく、とくに各住戸の床などの配管されている給排水管も適時適切に改修することが求められます。

既設管が、鋳鉄管なのか、あるいは塩ビ管なのかなのかによって、寿命に影響があり、また、住戸の排水に詰まるようなものを流しているか否か、定期的に高圧水洗浄を実施しているのか否かなどによって管内の状態は変わりますから、改修だけではなく、排水管にゴミをできるだけ流さないことや高圧水洗浄も含め、マンションの維持・保全の面からも見直す必要があるかもしれません。

 


【NPO匠リニューアル技術支援協会】

マンション標準管理規約(単棟型)第21条第2項の規定が前提であり、令和3年6月に改訂・追加されたコメント第21条関係⑦を踏まえて、次を留意すべきである。

①共用部分と専有部分の配管設備は、「構造上」一体として管理されている事を第21条第2項で確認する。
②長期修繕計画に、専有管の取り換え工事を記載し、第48条第五号に従い、総会の決議を経る。
③第28条第四号に、専有管の取り換え工事の費用を修繕積立金から拠出できる旨を明記する。
④配管取り換え工事を、共有部分と全住戸の専有部分を同時に実施するよう計画する。
⑤先行して当該工事を行った、区分所有者への補償の有無等について十分留意する。

また、専有管の取り換え工事に充当する修繕積立金の十分な確保及び工事の公平性に関する合意形成が必要である。

以上が専有管の取り換え工事に、修繕積立金を使用するための基本的考えであり、実施計画が総会で承認されたらまず、全住戸に対し、専有管に関する工事の経緯等を調査し、その結果により先行した住戸の工事内容及び区分所有者への補償内容が左右されると考えられる。

なお、専有「管」に接続する浴槽・便器 等の取り換えも共用管と同時に行うことは、一体管理の範囲を超え、個人財産権の侵害も危惧され、また工事実施の技術面・費用面の優位性にも疑問が残る。浴槽 等の工事では更なる個別事情の把握と、一層の合意形成が求められるため、本設問での一般的な説明は控えたい。

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